人工関節のひとりごと1 戦友の存在
がんセンターに入院している人の平均年齢は大体50歳ほどだろうか。
小児科はないので自分が20歳で病院内最年少だったと思う。
自分はなるべく他の患者さんと関わらないでいたかった。こんなに若いのに入院して可哀想だとか思われたくなかったし、暗闇の中にいた自分はしゃべる気もなかった。
それでいて孤独だった。
そんな時、自分の斜め前に歳が一個上だという大学生が入院してきた。手術をして帰ってきた彼は意識がもうろうとしていて、自分が誰なのかすらわかってなさそうだった。
「やべー奴が入ってきた」
と思っていた。
ご飯を食べれないといっているのに、なぜかチョコのガルボはうまいうまいと食べていたので余計に謎は深まるばかりだった。
彼とはじめてすれ違ったとき、こんにちはとあいさつしたが、彼は麻酔がまだ効いていて聞こえていなかった。
麻酔から覚めた彼はだんだん元気になっていった。それがカーテン越しに伝わってきた。
ある日、私がベッドで『五等分の花嫁』の三玖のフィギュアを見ているときだった。めったにアニメを見ない私がはまったアニメ、しかもフィギュアまで見るなんてなかなかない。
そんなときに彼が、桃屋の瓶詰 穂先メンマを持ってきてくれたのだ。
「これ、めっちゃうまいから。入院中は絶対持ってくんだ。」
孤独だった自分はその優しさに触れて感動した。メンマは人の心をつなぐ食べ物なのだ。
そこから彼と話をするようになった。久しぶりに同年代の人と話せたうれしさからか、時間を忘れておしゃべりをしていた。
彼は一個上だったにも関わらず、タメ口を許可してくれた。先輩と話すときは結構気を使ってしまう自分だが、彼と話しているときは心からの言葉で話すことができた。
彼と毎日楽しく過ごしていたが、ついに彼の退院の日が来てしまった。
手術だけだった彼は、一か月弱くらいの入院だった。
抗がん剤の副作用で、最後にお菓子パーティーをするという約束は果たせなかった。
そしてその日は虹が出ていた。
おてんとさまも祝福してるんだと思いながら、二人ではしゃいだ。
キャリーケースを引いて病室を後にする彼をベッドから見送った。
さみしいだけでは収まりきらない感情が溢れ、もぬけの殻のようになった。
しかし、彼との出会いが確実に自分を勇気づけた。同じ境遇の人といままで出会えなかったため、孤独で、真っ暗な洞窟にいるようだった。そんな自分を地上に引き上げてくれた。メンマを餌に釣り上げられた。
彼の退院後もLINEで定期的に元気か―と聞いてくれたり、外来の日は顔を出しに来てくれた。自分も人に手を差し伸べられるような優しくも強い漢になりたい。
退院後はご飯にでも行こう。あの時できなかったお菓子パーティー開催しよう。
そして、本当にありがとう。
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