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読書記録|『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』

読了日:2023年12月18日

 大東亜戦争における日本軍の失敗を、組織論という視点から分析し、現代社会にも根付いている日本の組織の”悪いクセ”を浮き彫りにし、教訓へと繋げていこうという一冊。著者は、戸部良一氏、寺本義也氏、鎌田伸一氏、杉之尾孝生氏、村井友秀氏、野中郁次郎氏6名で、それぞれが軍事、戦史、政治、組織論等のスペシャリストという面々。
 第一章は「失敗の事例研究」として、ノモンハン事件ミッドウェー作戦ガダルカナル作戦インパール作戦レイテ海戦沖縄戦、以上6つの失敗事例を取り上げて分析。第二章は「失敗の本質」とし6つの作戦に共通する失敗の本質を追求・分析、第三章は「失敗の教訓」。前述した内容を総評し、今後の日本の組織の課題をピックアップ、という構成になっている。
 日本の戦史に詳しい方なら第一章の内容もすんなり頭に入ってくると思うが、そうではない人にとっては詳細を述べすぎていて、少々読み進めるのが困難に感じるかもしれない。ある意味、第一章でわからない部分は飛ばしてしまっても問題はないと思われる。この本の主軸は第二章のタイトルにもあるように「失敗の本質」なので、それが書かれている第二章とその総括である第三章を熟読できれば、それだけでもこの本には意義がある。
 また、読み進める順番として第二章を読んでから第一章、第三章を読む方が、人によっては全体を把握しやすいかもしれない。

 第一章に挙げられた6つの作戦の失敗の要因は現代でも疑問を持たれるところが多く、特にレイテ海戦での「謎の反転」と今に言われる栗田艦隊の反転は、未だに腑に落ちない部分がある。その辺りも本書では細かに分析をしていく。
 作戦失敗に至る要因が「たったこんなことで?」という、現代では到底考えられないようなものだが、その小さな欠陥や不備が大きな敗因に繋がるというのは恐ろしいことではある。大東亜戦争はこういった蟻の一穴が日本の崩壊を招いたとも考えられなくなはい。(そうでなくとも当時の状況を思うに、日本の勝利は難しかったかもしれないが)

 日本軍の作戦における欠陥は、現代の日本における企業や政治、様々な組織にも脈々と受け継がれているように思う。
例えば、

  • 「科学的」という名の神話的思考

  • 事実を正確かつ冷静に直視しないがために、フィクションの世界に身を置いたり、本質に関わりない庶務的仕事に没頭する

  • 作戦計画が仮に誤っていた場合、ただちに立て直す心構えがない

 これらはコロナ禍でも見た光景である。データの改竄、誤った発言は訂正を加えずシレッと削除、過剰対策で経済を低迷させたが「あの時はそうするしかなかった」と総括する姿勢を見せない……上記した”「科学的」という名の神話的思考”そのままの国の在り方は、今でも日本軍の”悪いクセ”を継承している。一般企業という組織レベルに目を落としても、それと似たような姿を目にすることができるのではないだろうか。

 『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』では『「空気」の研究』の著者、山本七平氏の『一下級将校見た帝国陸軍』や『一九九〇年日本』からの引用がある。山本七平氏は、日本の組織や社会において何よりも権力を持つ「空気」の存在にいち早く気付き、その「空気」を研究した人である。『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』に興味を持った方には、ぜひこの『「空気」の研究』もおすすめしたい。日本という国の在り方の根本を、そこに見ることができると思う。

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