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人間の創立、実存の塔~岡本太郎『今日の芸術』

『自分の中に毒を持て』という名著がある。1970年の大阪万博に際して制作された「太陽の塔」で有名な芸術家の岡本太郎が、常識や規範に絡め取られる世間の人々に向け、それら安寧の場所を捨て、自分と周囲を切り刻みながら新たな自己に脱皮していくべしとする人生論を、大いに語った本である。

自らの両足で世界に立つことを、熱いハートで叫びかけてくる著者の言葉は、漫然として日々を暮らしている我々の心を鋭く抉り、多くの気づきをもたらしてくれる。

今日における芸術

だが、時を遡ることさらに40年前、『今日の芸術』と題された本において、同じ著者が、単なる自己啓発に留まらない、芸術と人間への数段深い思惟から組み立てた議論を展開している。

『自分の中に毒を持て』に代表されるような、つねに世の常識・形式と決別し続ける岡本太郎の「対極主義」の原型が、ここにおいて既に示される。

本書は、常識をぶち破れと叫ぶ彼の、まさにその始源において、「なぜそうすべきなのか」、「なぜ芸術家・岡本太郎がそう叫ぶのか」を論じるものである。同時に、「なぜ芸術は人間を叫ぶのか」についても、超一流の芸術家としての長い探求と苦悩の道の果てに掴んだ洞察を練り込んだ論であり、その意味で、前掲書の土台となり、そして一線を画す「真の啓蒙」に、正面切って取り組んだ本になっている。

人間たちの美術史

とくに、西洋を中心とした美術史解説・分析は相当読み応えがある。岡本の個人史も交えながら、西洋芸術の発展と、その人類社会の中での立ち位置の変遷に対して鋭く批判を加えながら、近代において美術と芸術全般が人間の生にいかに関わっていくかが語られる。

以下、古代から現代に至る流れを整理してみる。

(レビューというより長文解説になってしまったので、以降有料とさせていただきます!西洋美術史を著者の視点で概観しながら、サルトル実存主義/夏目漱石の思想との近接を見た上で、改めて岡本太郎の思想をなぞっていきます

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