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2019年マイベスト!~『サピエンス全史(上/下)』

日本国内だけでも数十万人がすでに読んでるらしいので、今更感しかないけれど、自分的ブックオブ・ザ・イヤー2019の当確ランプがすぐ付いた(去年書いたレビューなのでタイムラグあり)。

ホモ・サピエンス7万年の歴史と、その変化・進化の要因を鳥瞰し、現在に至るまでの道のりを鮮やかに説明付けていく本書だが、ものすごく噛み砕かれていて初心者にも分かりやすく、且つとても面白く読ませる。人類史をここ数千年の射程で描く類書は数あれど、本書のスケールと巨視的なビジョン、それを余すところなく伝える筆力には驚嘆のひと言であった。

近代以降、我々は「歴史」というものの捉え方に対して、いつになく敏感になってきている。

ただただ事実を事実として観測し、記録するものが歴史であるとした史観は、ヘーゲルによって抜本的に更新された。未来へ向かう弁証法的なプロセスの過程としての現在と、現在から定義づけられ、構成される「現代史」としての過去。

さらにそこから、歴史を叙述する「歴史家」(による観測バイアス)が前景化し、批判的に乗り越えられつつあるのが、近年の世界システム論やグローバル・ヒストリーといった動きである。

こうした議論の中において、本書は進化論的でビッグなヒストリーを取り扱う、わりかし最近のトレンドに乗った本である。切れ味が鋭い代わりにディテールをかなり犠牲にしているが、歴史というものが未来への道標であり水先案内人であるとしたとき、よく参照される歴史であることは何にも増して美徳である。

今の時代にまさに求められている切り口とフォーマット、モデルのシンプルさをバランス良く併せ持ち、それが大胆な語り口で書かれ切った。本書の価値はここにある。

そして、この視座で人間・社会を捉えることの意義は、やはり今現在を生きるわれわれが、自身を取り囲む最新のテクノロジーやモダンな社会、文化、その他あらゆるものへ無自覚に寄せている厚い信頼や特殊性信仰を、一つ一つ剥ぎ取っていく、そのことに尽きる。

この意味で、本書全編を通して我々の通時的な”変わらなさ”を様々な角度から知れたのはすごく良かった。最終章が空虚で粗い未来論で締められていたとしても、である。

こんなおもろい本がたとえば自分の高校世界史の教科書とかだったら、いまごろ歴史研究者になっていたかもしれないなぁ。


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