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(ショートショート)時空のゆがみの原因は


はじめに

 どうもこのところちょっとした不具合が目立つ。きのうは道路の左側に立っていた道路標識が右側にそっぽを向いて立っていたり、家の玄関の扉が開かなくなったり。

最初のうちは単なるいたずらだろう、経年劣化だろうぐらいで済まされていた。


時空が歪んでいる

 ところがある休日の朝早く、街の歩行者天国の真ん中に動物園のトラの檻がトラごと出現したときには大きく報道され、どうもおかしい、いたずらでは済まないレベルだとか、ただ事ではないといった世の中の空気になってきた。

そうしたなか、ひとりの物理学者が最近起こるいくつかの現象はいずれも時空の歪みの結果で起こる現象だと自説を発表した。確かに言われてみるといずれの現象とも、もともとあった場所からのわけのわからない移動だ。

その後もさまざまな理不尽な現象がたびたび起こり、バスの運行の乱れや会社の会議が成立しないなどの困った事象へとエスカレートするばかりだった。

歪みの原因は

 なぜ突然「時空の歪み」が起こるようになったのか。その説を発表した物理学者へ世間の目が集まった。たずねられた学者は1週間ほど研究室にこもり、8日目になって現れたが「わからない。」とポツリとつぶやいたきりだった。

その後も世界各地でさまざまなことが起きた。国と国のさかいがとつぜん変わり、国境を警備する職員は日々自分の勤務地を探しまわりうろうろするばかり。魚を満載した漁船はいつもの港に入ろうとしたが、船着き場が行方不明になり、魚をおろせずじまい。

そしてある日、経済学者がある「経済データ」と昨今の異常現象を見比べて、奇妙に相関があることを見つけ出した。

食品の保存

 その経済学者の説とはこうだ。本来生のまま食べる食品は数日で消費者の口に入る。ところがこのところ冷凍技術の急激な進歩により、本来ならば生で新鮮なうちに食べていたものを1年後でもおいしく食べられる。

そうした冷凍食品の倉庫や冷凍庫は知らぬ間に急激に増加している。家庭でも同じ。冷凍庫なしにはもはや生活できない。

冷凍した食品を電子レンジなどで解凍・調理してから食べる。本来冷凍せずに食べる日よりもずっとあとに食べている。

世界中で同じことが行われると対象となる食品は膨大で、ある日時に存在しなくなるはずだった食品と、本来ならばないはずの食品とのバランスがくずれはじめ、それは物質の「場所」と「時間」という物理法則に影響を与えた結果、時空がひずんでしまうというわけ。

それではこの混乱を解消するにはどうすべきか。その経済学者はいともかんたんだという表情で答えた。「新鮮なものを新鮮なうちに食べるとよい。」

世の中の人々はそれを実践してみた。

すると、あっさり時空の歪みは解消してしまった。


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