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(ショートショート)山で作業する


はじめに

 里山へ作業に向かう。奥に入るにしたがい、なたを手にして山道に覆いかぶさる草木を払いつつ進む。週はじめなのでまだだれも登ってないのだろう。

さて小竹を採っておくかと、道を左にそれて竹山に向かう。


静かな林のなか

 長年の人々の往来で踏み固められた小道。ふもと近くなのでわかりやすくしぜんに奥の方へと案内してくれる。竹山近くのオオスズメバチのすみかに気をつけつつ、小竹をなたで片づけながらさらに奥へ。野菜の支柱に適した太さの竹をあつめていく。

鳥のさえずりに包まれ、山の風に頭上の竹の葉がそよぐ。それらの音に包まれていると、無心に作業に没頭できる。ちょうどかつげる量の竹をあつめると小道上でしばる。もってきた水でひと息つく。青い空に雲がたなびいている。

遠くでイノシシを追う猟銃の音。追い込む犬のほえているのが小さく聞こえる。もうひとつ奥の山か。あまり長居するとイノシシに間違われかねない。さっさと下ろう。


動物がふもとの畑へ

 このところ、ふもとの畑で里芋やサツマイモを作る。作るそばから収穫まであとわずかと思っている段階で、ではお先にと動物が食べに来る。うかうかしていると収穫にこぎつけない。

里芋は全滅した。種芋すらない。ここ数年さつまいもはもっとも甘くない品種を選んでいるにもかかわらず、ひとつも食べていない。

年々それはひどくなっていく。動物のためにボランティアで食べ物をつくっているようだ。ヒトの口には入らない。

なるべく電気柵やネットをかけるなどの手法に頼らずに野菜をつくりたいのだが、そうもいかない。それらも不十分ならスキをねらってあっさり破られる。


山道を下る

 うつむき加減の足もとを見つめつつ下る。さきほどなたで片づけた場所にもどってきた。猟師たちの音は小さくなっていく。さいわいにもおたがいに反対方向に進んでいるようだ。

脇道にそれ、しばった竹の束を肩からおろす。目のとどく範囲の山菜をすこしだけいただく。腰に下げたふくろに入れる。周囲にはまだ新しい動物のにおいがする。まだそんなに遠くに行っていないだろう。ヒトも動物も同じ場所へ来て食べ物をいただく。なんだ変わりないな、くすりとひとり笑った。

さっさと下ろうと歩幅をうっかり広げると、かついだ竹の束がたわんで大きく上下し、からだごと崖のほうへとひっぱり込まれる。そこでバランスを取りつつ、小さな歩幅で足の裏でしっかり大地を踏みしめ、つま先を外に向けつつ進む。ペタペタとペンギンのような歩き。かたわらで見るとおかしいだろう。

登りの山道では何も起こらないが、下りは用心しないといろいろ起こる。うっかり小石に足を取られて大きく払われて転びやすい。山道は水がないように見えてけっこう新たな石がどこからか転がり、道のなかほどに潜んでいる。草にかくれてわかりにくい。

集落の脇道で

 眼下に集落の屋根が見えてきた。ここでひと息入れ、水を口にふくむ。小道周囲の落ち葉の集積に、動物たちが鼻をつっこんだあとが点々と乾いておらず真新しい。おとといの雨のあと、きっとこの夜半過ぎに訪れたことだろう。

落ち葉を乱したあとは山のふもとの最初の民家までつづいていた。つねに集落に下りているようだ。しかも大きな足あと。めったに出くわすことはないが気をつけないと。

つねに鈴を腰につけて近づく合図にしている。すると向こうも後退りする。やはりこちらに会いたくないようす。とくにうりんこには注意。必ず親がそばにいる。攻撃を受ける可能性大なので早々に退散する。

つねに山中での作業中、気配を感じる。すこしはなれた草陰から見つめられている気配がする。その場を離れるとすかさずもとにもどるつもりなのだろう。こちらも把握し、じゃましたなと離れる。

こちらが山に入らせてもらっている態度でいつづける。ふもとに着くとそれを解く。


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