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「家賃並みローンでマイホーム」の落とし穴⁉ 本当の「損得」を考える

「賃貸VS 持家」どちらが得かは常に注目のテーマ。建築家でファイナンシャルプランナーの川端順也さんに、後悔しないための「真の比較論」をおうかがいしました。

ばかにならない光熱費
「いまお住まいのアパートの家賃と同じ金額で庭付き一戸建てが手に入りますよ」という売り文句を聞かれたことはないでしょうか?小さなお子さんがいらっしゃり隣戸に気を使いながら生活している方などにとっては夢のような話に聞こえるかもしれません。

筆者が住む広島市も例外ではありません。モノレールが走っていますが、沿線の賃貸住宅にお住まいの家庭にこうした話が持ち掛けられています。

確かにアパートの家賃並みのローン返済額で一戸建てが取得できます。ところが、その建設地はそのモノレールから車で30分かかる場所、バスも1時間に1本、買い物も車が必須、という立地が大半なのです。

しかも、価格を安く抑えた住宅は断熱性能が低い。「外皮」(外気と接している部分)と窓の断熱性能が低いと、夏の暑さや冬の寒さの影響を受けやすくなり、光熱費もかさみます。気をつかうお隣さんだったかもしれませんが、集合住宅の隣の部屋は暑さ寒さから家族を守ってくれていた、いわば断熱材のようなもの。一戸建ては隣戸がないので、外皮と窓の断熱性能が大事です。また、安価な土地は都市部から離れた山間にあることも多く、周辺の熱環境に一層影響されやすくなるため、高断熱住宅が望ましいのです。

低断熱のマイホームは「我慢」で節約?
住宅ローンの返済額が今までの家賃と変わらなくても、交通費と光熱費が今まで以上にかかる場合があるということです。一般的な賃貸アパートと同様の断熱性能が低い戸建住宅に移り住んだ場合、暖房費だけで、概算で年間約5万3000円増加します。このため暖房をできるだけ使わず光熱費を抑えることも珍しくありません。

また通勤・通学にもお金がかかるので徒歩や自転車を使って交通費を抑えたり。こうした「我慢」という節約をしがちです。個人的にはこれのどこが「夢のマイホーム」だと思いますが、現実としてたくさんある事例です。しかもこんなマイホームは、手放そうとしても、不動産評価が低いため、簡単ではありません。

高断熱+ZEHで総支払額は賃貸より安く
「だったら賃貸住宅のほうがいい!」と思われる方も多いかもしれませんが、それも正しい選択とはいえません。賃貸住宅にするかマイホームにするかを、家賃と住宅ローンの比較で安易に決めると失敗を招きます。住宅ローン/家賃に加え、光熱費も「住宅にかかるコスト」だからです。光熱費が今後どれくらいかかるかも考えておくべきでしょう。

コストの中で唯一支払い期限があるのが住宅ローンです。賃貸だとそこに住む限り定年後でも家賃の支払いが続きます。光熱費も同じで、上昇していく可能性が高く定年後の生活を直撃します。

一方で住宅ローンの金利は今は低い。であれば、例えば35年で支払いを終える=支払期限のある住宅ローンを金利の安いうちに活用して高断熱のマイホームを建てたほうがお得で、光熱費の上昇リスクに対応できます。

賃貸住宅と、高断熱化してさらに太陽光発電システムを載せて「ZEH」(ゼッチ)と呼ばれる「ゼロ・エネルギー住宅」としたマイホームの総支払額を、光熱費を含めてシミュレーションすると、光熱費が全く上昇しない想定でも、37年後には賃貸住宅のほうが割高になります(表)。

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光熱費が30%上昇していくと仮定してシミュレーションすると、36年後には賃貸住宅より高断熱+ZEHのマイホームのほうが生涯にかかる住宅コストは安価になります。

高性能な断熱材や窓への投資が賢い選択
高断熱化するほど住宅の消費エネルギーは小さくなり、小規模で安価な太陽光システムでZEHが可能になります。

ただ、太陽光発電システムも家電同様「消耗品」です。いずれ壊れたり、発電出力が落ちる。一方、高断熱住宅に必要な断熱材や窓は家電のように簡単には壊れませんし、適切な施工を行えば住宅そのものの耐久性も上がり、長く使うことが可能です。なので高性能な断熱材や窓に予算を優先的に投資することをお勧めします。

これまで住宅は多くの人に手が届くよう安価につくることが目的とされ、断熱性能は重視されてきませんでした。その結果、住む人に暑い・寒いをはじめとする我慢を強い、しかも住宅ローンと同じ期間=30年程度で建て替えられてきました。

これからは我慢を強いられない住宅が望まれますし、欧米や本来の日本の家と同じように気候風土はもちろん時代にも適応する、未来に残すべき住宅が望まれます。高断熱化はそのために欠かせない要件なのです。

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※本記事は「だん02」に掲載されています