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住まい手もつくり手も“だから高断熱住宅にするべきなのか!”が腑に落ちる『エコハウス超入門(松尾和也著)』

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長年エコハウスの設計に取り組み、経験をふまえた理論的な設計手法を確立する松尾和也さん。本書はその手法を体系化し、分かりやすくまとめた新刊です。エコハウスに関心のある設計者や現場監督、営業マンなど住宅に関わるすべての実務者が知りたかった情報が満載。これから家づくりを考える住まい手も、本書の内容を知っておけば工務店選びの基準ができます。

タイトルの「超入門」は「非常に簡単」という意味ではなく、「これだけ網羅している入門書はないだろう」という意味での「超入門」です。エコハウスを設計するときに発生しがちな「モヤモヤ」が解消され、設計力が高まること請け合いの1冊です。

CONTENTS
第1章 どんな住まいや室内環境を目指すべきか
第2章 断熱性能はどのように高めるとよいか
第3章 窓に必要な性能をどのように満たすか
第4章 給湯や冷暖房の熱源をどのように選ぶか
第5章 換気量をどう確保して熱損失を抑えるか
第6章 エアコンはどのように選んで使いこなすか
第7章 建物配置や形をどう整えると日射が増すか

この記事では、日本の住宅水準を底上げしたい、日本の住宅がみな「暖かく涼しく、しかも経済的で健康的に暮らせる家になってほしい」という松尾さんの思いがつまったコラムの一部とおわりにを本書から抜粋して掲載します。
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住宅にも燃費表示が必要 ― column1

筆者は健康で快適な省エネ住宅を経済的に実現することを目標に住宅を設計している。それはその家に住む家族が幸せになるためだ。その目的を達成するためには健康・快適性や経済性が重要で、それらはつくり手のこだわりや主張よりも優先される。

住宅と健康の相関性に関するエビデンスが充実しているのが温度と湿度だ。断熱・気密、冬の日射取得と夏の日射遮蔽をきちんと行った住宅であれば、エネルギーを掛けずに快適な温度と湿度が保てる。

省エネは維持費にも直結する。建て主は工事費に目が行きがちだが、本当に重要なのは生涯における経済性だ。工事費に着目するのは燃費表示がないためだ。燃費表示がなされていれば、維持費を含めて費用が掛からない住宅が選択される。実際、乗用車の分野では高価なハイブリッドカーが飛ぶように売れている。

もちろん燃費が悪いと分かっていてもポルシェに乗る自由はある。ただし、ポルシェのカタログには「リッター7.9km」と書かれている。経済性を重視する人間であれば「ポルシェの『乗り味』は最高だが買うのはやめよう」と判断できる。

こうした判断に必要な情報が日本の住宅では開示されていない。結果として建て主の経済的損失や健康被害を生み、温暖化防止への逆行や国外への燃料費流出など国家的な損失にもつながっていく。このことを建築実務者は深く自覚しなければならないだろう。

コラム

おわりに

この本は、住宅にきちんとした性能を担保するための考え方と手法をまとめています。住宅業界の人たちには、日ごろの設計や施工などに本書の内容を生かしてほしいと思います。また建て主の方には、きちんとした性能を担保できる住宅会社を見定める知識を得るために役立てていただければと思います。

住宅業界と建て主の双方の方に本書を読んでいただくことで、日本の新築住宅が「30代半ばで建てても、メンテナンスがなされていれば死ぬまで暖かく、涼しく、経済的に健康的に暮らせる」水準に高まってほしいと願っています。

私はこれまで、工務店をはじめとする多くの住宅会社を指導してきました。そこで分かったことは、大半の実務者が仕様を決定する際に、費用対効果などの客観的な指標を用いた比較をしていないということです。

その結果、多くの住宅会社では一般の建て主と同じように建材メーカーのカタログや営業マンの応対などで仕様を決定しています。これが日本の住宅を悪くしている大きな原因の1つなのです。しかし、性能とコストのバランスを比較するには、最低限の計算能力や工学、物理学の基礎知識が必要になってきます。さらに計算のもとになるデータも味気ない数値の羅列であり、読み解くのは大変です。そこで、一般的な実務者でも頑張ればなんとか読み解けるように、また興味をもちにくい分野でも面白いと感じていただけるように心がけました。

連載を行った8年間、住宅業界では高断熱化が進み、住宅全体を暖かく、涼しくしようというアプローチが一般化しつつあります。その結果、現在では30を超える全館冷暖房のシステムが発表される事態に至っています。これらはさまざまな仕組みのものがあるので、基本的な知識をもたずにカタログを見ても良し悪しの判断ができません。本書ではそうした判断ができるように、冷暖房の計画手法について系統立てて説明しています。これは、ほかの本にはない特徴であり、これから全館冷暖房に取り組もうと考えている実務者にとって、非常に役立つ内容になっていると自負しています。

連載のときはその都度、その瞬間に自分が感じていたことを書き連ねていましたが、書籍化にあたり、関連分野ごとに内容をまとめ直し、系統立てて整理しました。その結果、一から勉強するためのテキストとしても使えるようになったと感じています。 

本書は新築住宅を対象に書いていますが、性能を担保した新築住宅がきちんとつくれるようになると、既存住宅の効率的な断熱リフォームの技術水準も自然と高まります。つまり、きちんとした性能を担保した新築住宅を建てられる住宅会社が増えると、長期的には日本のすべての住宅が住みよい住宅になるのです。本書がそのための最初の礎になれば幸甚です。(松尾和也)