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寒い家があぶない!調査結果が示す健康リスク

人生100年時代、健康長寿への関心は高まる一方です。最新の調査結果をベースに、寒い家に潜む健康リスクを紹介します。

「断熱をケチるんじゃなかった」
介護リフォームの取材に伺った際にお聞きした忘れられない言葉だ。

長野県に住む50代のYさん夫婦は、脳卒中で寝たきりになった80代の父親の介護をされていた。父親との同居を機に自宅をリフォームをしたYさん。工事を依頼した地元の工務店から、高齢の父親と同居するのだから断熱改修もしたほうがいい、と勧められたが、工事費が高くなるので断ったという。

だが同居して2年後、起きてすぐ居間に入ってきた父親が脳卒中で倒れた。一命はとりとめたが身体には重い麻痺が。Yさんはもう一度自宅をリフォームしてバリアフリー化し介護を続けている。

冒頭の「断熱をケチるんじゃなかった」の言葉は、最初のリフォーム時に断熱改修を一緒にやっていればこんなことにならなかったかも、という後悔が口を突いて出たものだ。


日本の家の95%は暑くて寒い!?
そもそも「断熱」とは熱の移動をできる限り遮断すること。冬は外からの寒さが入りにくくなり、室内の暖かさが逃げにくくなる。最小の暖房で家全体が暖かくなり、室内の温度差が小さくなる。夏は外の熱気が入りにくくなり、室内の冷房した涼しさが漏れにくくなる。最小の冷房で家全体が涼しくなる。

住宅の場合、断熱するには「断熱材」と呼ぶ熱が移動しにくい材料を屋根・壁・床などに使用。熱が出入りしやすい窓にも「樹脂窓」など熱が移動しにくい窓を使う。このように断熱を強化した住宅を「高断熱住宅」、リフォームで断熱を強化することを「断熱改修」と呼ぶ。

高断熱住宅や断熱改修は技術的には難しくないが、日本の住宅の95%は高断熱化されていない。つまり、日本の家の大半は寒くて暑いのである。

Yさんのお宅も「断熱をケチった」ことでリフォーム後も寒いままだった。「温かい布団の中から寒い廊下を通って寒い居間に移動した際に血圧が急上昇したことが、父の脳卒中の原因のようです」とYさんは話す。

このように部屋と部屋の温度差や屋内と屋外の温度差で血圧が大きく上下する現象を「ヒートショック」と呼ぶ。いまや家の外よりも家の中、しかも癒しの場であるはずの浴室のほうが危険なのだ。

起床時の室温が10℃下がると血圧が上昇
血圧と住宅の室温の関連を探る興味深い調査が国土交通省の「スマートウェルネス住宅等推進事業」として進められている。2018年1月に公表された調査データを紹介しよう。

室温

2282人の血圧と室温の関係を調べた推計モデルでは、起床時の居間の室温が20℃から10℃に下がると、平均的な男性の場合、30歳では4.5mmHg、60歳では8.5(同)、80歳では11.2(同)血圧が高くなっていた(図参照)。血圧が上昇するほど健康リスクも高まることになる。

さらにこの推計モデルによると、平均的な男性の場合、起床時の収縮期血圧が高血圧(135以上)となる確率は、朝の居間の温度が18℃の場合、60歳男性で33%、60歳女性で11%、80歳男性で73%、80歳女性で41%と推計された。気になる方は冬の朝の室温を計ってほしい。18℃未満のケース、特に10℃前後のお宅が多いはずだ。

朝の居間の平均温度が低い家に住む人ほど動脈硬化の傾向が高く見られ、心電図の所見で異常が発見されたという報告もあった。高血圧や動脈硬化、心疾患の人ほどヒートショックの影響を受けやすいとされる。

さらには、居間の温度が12℃~18℃未満の場合、18℃以上と比べ1.6倍夜間の頻尿確率が高く、12℃未満の場合は3.0倍頻尿確率が高いこともわかった。夜中のトイレは心身ともに疲労するうえ、事故の確率も高く、睡眠の質も低下する。

「冷えは万病のもと」と言われるが、「寒い家による低温は万病のもと」だとこの調査結果からだけでもイメージできるのではなかろうか。


高断熱化は賢い先行投資
こうした健康リスクを下げるには、新築時に高断熱化する、今住んでいる家を断熱改修することが有効だ。前述の調査でも、断熱改修後に起床時の血圧が2.8低下することが確認されたほか、頻尿症状も改善がみられた。冬でも室温18℃以上を目指したい。

高断熱が標準の工務店、断熱改修が得意な工務店も増えている。そんな工務店に新築・リフォームを依頼すれば、暖かく健康リスクが少ない住まいを手に入れることができる。

しかも高断熱化・断熱改修すれば光熱費を削減できる。高断熱化・断熱改修のコストを「先行投資」する必要はあるが、削減した光熱費で投資ぶんは取り戻せるだろう。

住まいの高断熱化、断熱改修は人生100年時代の極めて賢い先行投資なのだ。