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念願の我が家は「欠陥住宅」だった!! 暖かい家で「年金1億円」をめざそう | 失敗しないリノベーション(前編)

家の寒さは健康を左右する大事な要素。ひとりの住まい手として、断熱リフォームを経験された星旦二先生(首都大学東京名誉教授)に、住環境と健康の関係、そして暖かい家に住むことの利点を解説していただきました。

寒い家は免疫力が低下する
医学博士が実感「健康な住まい」とは

私の自宅は「元・欠陥住宅」です。2002年、身内の建築家に設計してもらい、施工は大手住宅メーカーに依頼して建てました。当時の私は仕事で多忙を極めており、唯一「寝室の壁に珪藻土を塗ること」だけは決めましたが、それ以外のことは妻に任せっきりでした。

できた家にいざ住んでみると、私も妻も、体調の異変を感じるようになりました。目がチカチカするし、私と妻の顔にはそれまでなかったシミができたのです。どうやら、ビニールクロスや合板に使われている接着剤の中の有機溶剤が原因の「シックハウス症候群」だったようです。

そして、何よりも冬は寒くてたまりませんでした。忘れもしない2014年2月14日の23時過ぎ、寝室の室温を測ったら、なんと6.4℃だったのです。調湿効果のある珪藻土を塗ったにも関わらず結露もひどく、窓のまわりはカビだらけに。後でわかったことですが、壁の中の断熱材にもカビが生えていました。妻の血圧も高くなり、どうもこれはおかしいぞと、思うようになりました。

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断熱性の重要性に気づく
そんな折、村上周三先生をはじめとする、住宅の断熱性能と健康の関連性を研究していた建築関係の方々からお声がかかり、医学的な立場で、調査結果の分析に携わることになりました。研究が進むにつれ、住宅の断熱性能と健康には予想以上の因果関係があることが次々に判明していきます。私も、実際に高断熱住宅に宿泊する機会を得ましたが、わが家とは比べ物にならないくらい暖かいのには感激しました。

そうして、遅ればせながら自宅の温熱環境を真剣に考えるようになり、2014年、リビングと寝室のある2階の断熱リフォームを行いました。リフォーム後、寝室の温度は、冬でも平均して17℃以上にまで上昇しました。ぐっすり眠れるようになったため、夜中にトイレのために起きることもなくなり、高かった妻の血圧も、たった2カ月後には見事に低下していました。これだけ違うならと、3年後には1階も断熱リフォームをしました。

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医学に携わる者でありながら、住まいの温熱環境の重要性に気づかないまま、10年以上も寒い家で過ごし続けてきたのです。「紺屋の白袴」だった、と言わざるをえません。

体温は免疫力に直結する
なぜ、人間の体温は36〜37℃もあるのでしょうか。それは免疫力を高めておくためです。例えば、がん細胞は正常な細胞より熱に弱い性質を持っている(最も活性化するのは35℃)ので、低体温の人はがんになりやすいのです。逆に、体温の高い鳥類では、がん死はほとんどみられません。

体温を上げるうえで大きな役割を持つのが、細胞内のエネルギー製造工場ともいわれるミトコンドリア、そして「第二の脳」として注目を集める腸内細菌です。腸内細菌は、免疫システムを活性化させるなど、さまざまな機能を持っていますが、活動することで水素を生み出します。この水素が燃焼するので、体温が上昇します。腸内細菌が活発に活動するほど水素が多く発生して、体温も上昇するので免疫力が高まります。

例えば糖尿病も、腸内細菌の働きによって症状が改善する疾病です。腸は、筋肉や脳に次いで糖を多く消費するところ。腸内細菌が糖を食べるからで、その働きが活発なほど血糖値が下がります。ただし、体温が低いと、細菌の働きは鈍くなってしまいます。

大腸には約数千種類の菌がいると言われますが、現時点ではせいぜい1000種類が判明しているにすぎず、ほとんどは未知の世界です。しかし、腸内細菌に、病原菌の感染から体を守る働きがあることは疑いようがありません。そのシステムがきちんと働くには、防御できる菌を種類、量ともに増やし、一定以上のレベルを維持しておくことが肝要なのです。

世の中には、数多くのヘルスケア用品が出回っています。しかし、科学的な根拠が不確かなものに頼るより、体温を上げ、体を冷やさないようにすることのほうが、健康にとって遥かに大切なことです。

寒い家で亡くなる人は交通事故の4倍
寒さは健康の大敵です。前述したように体が冷えて体温が下がると、免疫力が低下します。体を冷やさないようにするには、暖かい家に住むこと、つまり住環境が大きな役割を果たすのです。

冬、暖かい部屋から寒い風呂場に行き、服を脱ぐと、血管が収縮して血圧が上昇します。それから入浴すると体が温まり、血管は拡張して低血圧になり、短時間のうちに血圧が乱高下します。結果としてショック状態に陥り、最悪の場合、死に至ります。

これまで、この現象は「ヒートショック」という言葉で表されてきましたが、最近の研究では、実は大部分が「冬の熱中症」である可能性が高いことが明らかになりつつあります。血管が拡張して水分の出入りが不十分になったため、熱中症と同様の症状になって意識が低下し、溺死している人が少なくないのです。

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いまだに年間約1万9000人もの人が、風呂やトイレにおける急激な温度変化が原因で亡くなられています。交通事故で亡くなる方(年間4000人ほど)の4倍以上です。食生活や運動も大事ですが、温度差の大きな住宅が体に大きなダメージを与え、生死にも関わることに、もっと目を向ける必要があるでしょう。→後編に続く

※本記事は「だん05」に掲載されています

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