読む、 #ウェンホリ No.05-01「人は誰しもがなにかの『など』を生きている」
自分の小さな側面をないものにしたくない
荻上:今回のゲストは精神科医などの星野概念さん。病院で勤務する傍ら、雑誌『みんなのミシマガジン』『ブルータス』『ELLE gourmet』など様々な媒体で連載を持ち、著書として『ないようである、かもしれない 発酵ラブな精神科医の妄言』が発売中。執筆活動だけでなく、ミュージシャンとしての顔もあり、多方面に活躍されています。それでは今回のゲスト、星野概念さんです。よろしくお願いします。
星野:よろしくお願いします。
荻上:はい。「精神科医など」と紹介して、なおかつ名前が星野概念さんとなっていまして。だいたいみなさん、ここで二揉み、話題がいくと思うんですけれども(笑)。「精神科医など」というのはこれはどういう肩書きなんですか?
星野:今、1週間のうち、ほとんど精神科医としての時間を持ってるんですけど。そういうふうになる前はもうずっとバンド活動に邁進していたときもあったりだとか。そういうときのご縁もあったりとかで今もちょっとだけ、音楽のお仕事をさせてもらったりとか。あと、物を書いたりとかですね、なんだろう? 自分の中で結構、「肩書きって難しいな」と思っていて。それで「自分はこうです」って言うときに、もちろんいちばんの自分の今のアイデンティティとしては「精神科医」なんですけど。
だけど、そうじゃない側面とかがまた診療に生きてきたりだとか。そういう経験だとか、そういう自分の小さな側面みたいなところをないものにしたくないなと思って。それで、じゃあでも、「精神科医・ミュージシャン」とかっていうほど音楽もできてないしな……とか。いろいろ考えていて。まあ、「など」っていうところで、エトセトラみたいな感じだけど、残しておくっていうふうに。自分のなかの小さいものたちの存在をないものにしたくないっていうのが、この「精神科医など」っていう。
荻上:「など」という2文字に。
星野:そうなんですよ。
荻上:これ、「など」というのもでも、多くの人たちもやっぱり「など」ですよね。みなさん、たとえば誰かの親であったり、子供であったり。あるいは仕事もひとつだけじゃなくて、複数やってたりするかもしれないし。あるいはそのサークルとか、どこかで誰かの役に立ったり、誰かの仲間だったりするので。確かに人は誰しもがなにかの「など」を生きてますよね。
星野:そうなんですよね。で、結構僕、今おっしゃった「いろんな側面がある」っていうことはすごく大事だと思っていて。肩書きがないと生きづらいみたいなことって、結構あると思うんですね。たとえば僕、これは本当に友人の話とかだったりすると、たとえば「専業主婦っていうのが生きづらい」みたいな話を聞いたこともあって。「全然、そんなことない」って思うんですけど。でも、なんかいわゆる「仕事っぽくない」みたいなことっていうふうに感じられてしまうみたいなことって、なんか……でも、主婦のお仕事ってすごい大変じゃないですか。
荻上:そう。やることがいっぱいあって。
星野:やることがいっぱいあって。しかも、それがそのプライベートと切り離せないっていうか、渾然一体としてるってなんかすごい大変なのに、なぜか劣等感っていうか、引け目になっちゃうみたいな形ってすごく……なんでそうなっちゃうんだろう? って思ったときに、それってなんか肩書きで「○○の△△です」みたいなことがもう通底化されてるからなんじゃないかなと思って。だけど、肩書きを言わなきゃいけないっていうので。だからなんかちょっとフワッとさせたいな、みたいな。そういう世の中に対するちょっとしたアンチテーゼの気持ちもあるんですけど。「ただふざけているだけ」みたいな感じに思われがちなんで、まあそれはいいんですけど。そういう感じなんですよ。
本当は肩書きがないほうがいい
荻上:でもこうやって価値を巡っていろんな話もそれをきっかけにできるじゃないですか。やっぱり肩書きがポケモンカードバトルみたいな。「よっしゃ! こっち、電通です!」みたいな。「こっちは官公庁ですけど?」みたいな。そういう、なんかひとつの道具として使われがちで。その中でたとえば「専業主婦です」とか「無職です」って言うと、それこそ差別されたり、偏見の目で見られたりということ、ありますもんね。
星野:そうなんですよ。
荻上:その「など」というのはなんか「いろんなペルソナがある」というイメージなのか、それとも自分の中にあるいろんなタグみたいなものを、とりあえずゴチャっとそこにさせてるイメージなのか。概念さん、どちらに近いですか?
星野:ええとですね、本当は肩書きがないほうがいいなと思ってるんですね。ただまあ、いろんな自己紹介の場とかで言わなきゃいけない。だからつまり、いろんなタグはある。けど、ひとつの自分っていうものがあって。っていうことを本当は表現したいっていうか。そうですね。「肩書きを持ちたくない」っていう抵抗と言えるのかな? なんとなく。
荻上:なるほど。そこをちょっと曖昧にしておきたいという。煙幕を張るみたいな感覚なんですね。
星野:そうですね。はい。
荻上:でもその概念さんの名前をはじめて知ったのは、僕はいとうせいこうさんの主治医でいらっしゃって。なおかつ、□□□のバンドメンバーでもあるじゃないですか。で、あの『ラブという薬』でそのことを赤裸々にお二人で語っていらっしゃって。でもその役割も、友人であると同時にバンドメンバーであると同時に主治医でもあるっていう、いろんな複数の関係性が同時にあって。しかも本を出したから共著者っていうことになるわけですよね? それをなんか、鮮やかに横断していくというか。そういう交換のなされてる本がとても面白かったので。今日はお話をできて嬉しいんですけれども。
星野:ありがとうございます。
<No.05-02に続く>
文:みやーんZZ
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