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5/11 ニュースなスペイン語 Cese de Esteban:エステバンの辞任

ひとつの出来事でも見方が変われば、表現も変わる。

5月6日の記事でも紹介したように、カタルーニャ独立派(independentista)の政治家たちに対する、スマホ監視アプリ「ペガサス(Pegasus)」を使ったスパイ容疑について、国家情報局(Centro Nacional de Información)がこれを認めた。

この件で、同局の長官(directora)パス・エステバン(Paz Esteban)が辞任した。

「辞任」は、このスパイ行為を徹底的に批判しているポデモス党や、独立派の舌鋒であり、カタルーニャ州知事のペラ・アラゴネス(Pere Aragonès)らが求めていたことである。

一方、マスコミはこの「辞任」を、destituirという動詞を使って表した。El Gobierno destituye a Esteban.という具合に、主語は「政府(Gobierno)」だ。この動詞は「職を解く」という意味なので、日本語では「更迭」と訳せるか。

これに対して、エステバンの朋友であり、直属の上司でもある、防衛大臣(Ministra de Defensa)のマルガリータ・ロブレス(Margarita Robles)は「更迭」はもとより「辞任」という語も使わなかった。

ロブレスが使ったのは「交代(sustitución)」という表現だった。

スパイ疑惑の責任を取るための、懲罰的な「辞任」や「更迭」ではなく、あくまでも、単なる、人事上の「交代」――。エステバンの後釜にはエスペランサ・カステレイロ(Esperanza Casteleiro)が就く。

ロブレスとしては、長年の仕事のパートナーであったエステバンに、どうしても引責のニュアンスを帯びる「辞任」という語は使いたくなかったのだろう。

エステバン氏は約40年にわたり、自身のキャリアに尽力してきた。その中で、個人的なこと、職務上のこと、そして、家庭のことで、大変多くの犠牲を払い、我が国の安全保障に務めてきた(lleva casi 40 años dedicados a su vida profesional, con muchísimas renuncias" tanto en lo personal, profesional y familiar para garantizar la seguridad)

とロブレスは戦友の長年の労をねぎらった。

ちなみに、「犠牲」と訳した単語は、本来は「放棄」という意味のrenuncias。日本語ではこういう時、あまり、「多くのことを断念して」とは言わない。逆に「犠牲」を表すsacrificioは文字通り、戦争などの犠牲者を指すので、スペイン語では、こういう文脈であまりお目にかからない。

ところで、よくよく考えてみると、なぜ、エステバンが辞任(もしくは交代)しなければならないのかがいまいち判然としない。なぜなら、エステバンの言葉を信じるなら、このスパイ行為は、最高裁判所から法的権限(autorización judicial del Tribunal Supremo)のもと行われており、合法だったからだ。

ならば、このスパイ行為を許可した裁判所にも何らかの責があって然るべきだが、いまのところ、裁判所の責任を問う声は出てない。なぜか…?

今回のスパイ疑惑の渦中で一番象徴的な人物を表舞台から消し、口を封じることで、政府は事態の沈静化を図るつもりか。

当分、ゴタゴタは続きそうだ。

写真は防衛大臣のマルガリータ・ロブレス(左)と、国家情報局元長官のパス・エステバン。

出典
https://www.rtve.es/noticias/20220510/gobierno-destituye-paz-esteban-como-directora-del-cni-tras-escandalo-espionaje-pegasus/2347308.shtml