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『桃太郎電鉄 教育版 ~日本っておもしろい!~』勝手にゲーミフィケーション大賞、特別賞受賞インタビュー

一般社団法人日本ゲーミフィケーション協会の田中(以下、JGA田中)です。本日は協会代表の岸本(以下、JGA岸本)とともに、「勝手にゲーミフィケーション大賞2023」特別賞のインタビューで株式会社コナミデジタルエンタテイメント(以下、KONAMI)のシニアプロデューサー岡村憲明さんにお話を伺いました!

「勝手にゲーミフィケーション大賞2023」で受賞した『桃太郎電鉄 教育版 ~日本っておもしろい!~』を簡単に説明すると、全国の学校教育機関向けに無償提供されている『桃太郎電鉄』のブラウザ版ゲームです。Nintendo Switch™版の『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』を教育現場向けにアレンジし、楽しみながら日本全国の観光名所や物産などを学ぶことができます。

JGA田中:
本日はよろしくお願いいたします。
 
JGA岸本:
本日はよろしくお願いいたします。そして、「勝手にゲーミフィケーション大賞2023」特別賞の受賞、おめでとうございます!
 
岡村さん:
ありがとうございます。私はプロデューサーとして収益に責任を持つ立場ですが、それとともに、ゲームが持つポテンシャルや影響力を信じています。ゲームを通じたコミュニケーションの新しい形として、こうして『桃太郎電鉄 教育版』を選んでいただけたことに、非常に感謝しています。

JGA田中:
特別賞を受賞した『桃太郎電鉄 教育版』に関して、さっそくですが開発するきっかけを教えてください。
 
岡村さん:
『桃太郎電鉄 教育版』を作ることになったのは、最初に立命館小学校の正頭英和先生から「作りませんか」というお話をいただいたからです。その後すぐに、検討を始め2023年から提供を開始しました。
 
JGA岸本:
正頭先生との関わりはどこからでしょうか?
 
岡村さん:
『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』を、2019年に発表した後、正頭先生から「一緒に教育現場向けに何かできませんか?」というご連絡をいただきました。最初の打ち合わせまでの間に、「これは楽しいことができるかもしれない」と思い、難読地名クイズなど様々なアイデアを考えました。
 
JGA田中:
実際に『桃太郎電鉄 教育版』をプレイしましたが、Nintendo Switch™版の『桃太郎電鉄』と『教育版』とでは右側にリアルなランドマーク情報が表示されるくらいの違いかなと思いました。

岡村さん:
実際にランドマークを選ぶと、その情報が表示される機能です。ゲームを楽しんでいるうちに、たとえば宇都宮駅に止まると、宇都宮に関する情報が出てくるんです。これが生徒たちにとっては「宇都宮って実際に日本にあるんだ」という発見につながっているみたいですね。ただゲームを遊んでいるだけなのに、無意識のうちに地理的な知識が身につく状況を作ることが大切だと思いました。
 
JGA田中:
私も実際にプレイしてみたのですが、本当に楽しかったです。気がつけば、完全にゲームに没頭していました。「桃太郎電鉄」をただ楽しんでプレイしているだけなのに、気づかないうちに勉強になっている点が大きな魅力だと感じました。
 
岡村さん:
実際に、遊んでいたら気づかないうちに勉強になっているというのが魅力の一つですね。つまり、「はいはい、さあ次こんな勉強しようね、ほら、楽しいね!」という直接的なアプローチではなく、ゲームを楽しみながら、知識が自然と頭に入ってくる、そんな体験を提供できればと思っています。例えば、先生たちは生徒に北海道の地名を覚えてほしいと願いますが、その教える過程は難しいですよね。しかし、「桃太郎電鉄」を通じてであれば、ゲームを楽しみながら地名やその地域の特徴を自然と覚えていくことができます。言葉を勉強するよりも、体験しながら楽しむことで、知識が自然に頭に残るという点が、ある種ポイントなのでしょうね。
 
JGA田中:
さきほど、難読地名クイズとありましたが、実装されたらかなり楽しそうな気がしますが、実装されなかった理由はありますでしょうか?
 
岡村さん:
正頭先生とお話をして、いろいろな機能や教育的な要素を加えることを提案しました。しかし、正頭先生からは「(クイズ機能の追加など)そのようなことは一切やらなくていいです」と言われました。「日本の先生は非常に優秀なので、良い教材があれば、それをどう活用するか先生自身が考えて工夫することができます」と。ですから、『桃太郎電鉄 教育版』に関しては、「余計なことをしないで、そのまま動くようにしてくれればいい(笑)」とのことでした。


※正頭英和先生は、立命館小学校における英語教育の第一線で活躍する教諭です。「教育界のノーベル賞」とも称されるグローバル・ティーチャー賞のトップ10に選出されるという顕著な成果を収めています。
 
JGA田中:
教育版ということで、それでも通常版とは異なる配慮が必要になるかと思います。その点、そのような違いがあるのでしょうか?
 
岡村さん:
いわゆる「貧乏神」など、学習には本質的に関係のないキャラクターや、相手を指定して攻撃カードを使用することなどを排除して、生徒の間で摩擦が発生しないように配慮しました。また、授業の時間を考慮し、短時間でも楽しめるようにしました。全国モードもありますが、学習単元に応じて地方ごとの選択機能や、教師がゲームの停止や制御が可能な機能を追加するなど、教育現場での利用を想定した工夫をしています。

※「貧乏神」は「桃太郎電鉄」シリーズに登場するキャラクターで、他のプレイヤーが目的地に着いたとき、目的地から最も遠い地点にいたプレイヤーにとりつき、資金を一定期間減少させるなど、さまざまな妨害をします。
 
JGA田中:
そうですね。自分的には、教育版とはいえ、「貧乏神」がいないとなると、寂しい気がします。また、「貧乏神」がいないと一度差が開くとなかなか逆転しにくいと思います。ゲームの面白さと教育的配慮は、多分トレードオフだと思うのですが、そのバランス感というのは、どのように調整したのですか?
 
岡村さん:
はい。当初は「貧乏神」の登場を選択制にしようと考えておりましたが、割り切って「貧乏神」を排除する方針を採用しました。「貧乏神」が出る方は、家に帰ってからそちらを楽しんでもらいたいと思っています(笑)。『桃太郎電鉄 教育版』は、短い時間でも、例えば45分の授業時間内で完結できるような、楽しみながら学べるコンテンツを目指しています。実際「桃太郎電鉄」は、私たちが考えていたより短い単位の時間でも楽しめるゲームなんです。15分という短いセッションでも、サイコロを振って「やった!3が出た!」と盛り上がる。それも「桃太郎電鉄」の醍醐味です。このことから、短時間で完結するゲームとしての側面も大切にしています。
 
JGA田中:
配慮という面以外にも、教育では実施するにあたり、カリキュラムのどこかに入り込まなければならないと思います。その点、工夫や思案したことはありますでしょうか?
 
岡村さん:
『桃太郎電鉄 教育版』については、特定の科目だけでなく、幅広く活用してほしいと考えています。例えば、国語の授業で漢字を学ぶ際や、社会科での学習、数学では金融教育の一環として数字を扱う場面など、多様な教科で活用していただいています。また、月曜日の朝など、なんか辛いなっていう時に、ちょっとアイスブレーク的に少し気分転換として使う先生もいらっしゃると聞いています。
 
JGA岸本:
さきほど、難読地名クイズを検討していたとありましたが、もし実装されていたら、国語の授業で盛り上がりそうですね! 確か、漢字ドリルもありましたね?
 
岡村さん:
はい、難読漢字の学習については、日本漢字能力検定協会さんが無償提供している小学校向け教材「漢字桃鉄」や、正頭先生が著者である「桃太郎電鉄教育版 日本全国すごろくドリル」(小学館)に活かされています。
 
JGA田中:
漢字のふりがなについて、2024年3月のアップデートで、ふりがな表示機能を追加されました。小学生が主に使うことを考慮すると、最初から振ってあってもよさそうな気がしますが、何か理由がありますでしょうか?
 
岡村さん:
ふりがなについては、オフも選択できるようにしています。これは、プレイヤーに「この言葉はどう読むのだろう?」と考えさせ、自ら発見する喜びを感じてもらうためです。正しい読み方を自分で発見すると、知識が記憶に定着しやすくなります。このアプローチは、プレイヤーに積極的にプレイしてもらいたいという考え方から来ています。「桃太郎電鉄」の生みの親である、さくま先生も同じことをおっしゃっていました。
 
※さくまあきらさんは、1952年7月29日生まれのゲームライター・作家で、「桃太郎伝説」、「桃太郎電鉄」など「桃太郎シリーズ」の代表作で知られています。「桃太郎電鉄」は、1988年にファミリーコンピュータ向けに第1作目が登場して以来、35年にわたって幅広い年代の方々に楽しまれる国民的ボードゲームとなりました。
 
JGA岸本:
今回は、教育業界とのコラボレーションですが、このようなコラボはよくある話ですか?

岡村さん:
基本的に、書籍などのコラボレーションについては、とくに問題がない限り進めていただいています。必要な協力、例えば素材の提供やキャラクターの口調など、IPの核となる要素の監修は行うものの、具体的な内容についてはそれぞれの皆さんに委ねています。私たちとしては、興味を持っていただいた多くの方に広く作品を開放し、関わっていただくことを望んでいます。
 
JGA田中:
「桃太郎電鉄」は、そもそも教育ツールとしても非常に有用であると思われますが、もともと教育業界とのコラボレーションもある程度想定されていたのでしょうか?
 
岡村さん:
最初は単なるゲームとして始めた「桃太郎電鉄」の制作ですが、今では教育的価値を持つものへと形を変えてきました。最初から教育に関心があったわけではなく、むしろ子どもたちが、ゲームを通じて日本の地理を楽しく学ぶことができるという意外な効果に気づいたんです。さくまあきら先生も、ゲームが教育に役立つと感じていましたが、それを具現化しようというお話を受けて、真剣に取り組むことを決めました。もちろん私たちは、ただの一時的な施策ではなく、継続可能な方法で取り組むことを目指しています。
 
JGA岸本:
授業でゲームをみたいな話になると、保護者の反発等はありませんでしたか?
 
岡村さん:
こちらは、非常にポジティブな反響がありました。「桃太郎電鉄」は、親が子供と遊ぶために購入するゲームになっているんですよね。これは私も予想外で、「桃太郎電鉄」が提供できる独特の価値に改めて気づかされました。保守的なイメージを持つ大企業さんでも、「桃太郎電鉄」であれば安心してコラボレーションできるというお話をいただくこともあって、このゲームがいかに幅広い層に受け入れられているかを実感しています。
 
JGA岸本:
他のゲームメーカーさんも教育に向いていそうなコンテンツを持っているけれど、おそらく開発にお金がかかることがネックで、なかなか出てこない。それは教育が儲からないイメージがあるからだと思います。その点、KONAMIさんはなぜ実現できたのですか?
 
岡村さん:
『桃太郎電鉄 教育版』のセールス面の効果については、短期的な売上げとしての数字に表れるものではないと考えています。大切なのは、「桃太郎電鉄」が持つ、他のゲームとは少し異なるブランドイメージが、教育界からも評価されていることです。このような新しい形のブランディングが長期的に価値を生み出していくと信じています。
 
JGA岸本:
なるほど、今回のこの施策はプロモーション活動の一環でもあるということですね! 納得です!
 
岡村さん:
もちろんそれには、原資があってということにはなります。「桃太郎電鉄」の成功についてお話しすると、前作の売り上げが日本で400万本という数字には、私たちも驚きました。その規模は私たちにとって初めてでしたので、宣伝方法も手探りで新たに考え直す必要がありました。長期的に見て、「桃太郎電鉄」というIPをどう育て、どう維持していくか、そしてその過程でどう社会に貢献していくか、それが重要です。これからも、単にゲームを売るだけではなく、教育や社会にどう価値を提供していくか、その方向性も真剣に考えていきたいと考えています。
 
JGA岸本:
すばらしい! これは他のゲームメーカーさんにも伝えに行きます!
 
JGA田中:
自分も実は教育関係者なのですが、これは非常にありがたい話です。実際に教育現場で、子供たちがプレイしているところを、見たことはありますか?
 
岡村さん:
初期のプロトタイプをテストした際、多くの生徒が楽しんでくれました。特に印象的だったのは、不登校のお子さんが『桃太郎電鉄 教育版』の授業だけは参加してくれたというお話です。このエピソードから、ゲームの力が教育にもポジティブな影響を与えることができると実感しました。ゲーミフィケーションの可能性を感じた瞬間であり、この仕事をしている意義を改めて感じた、非常に嬉しい瞬間でしたね。
 
JGA田中:
ゲームの可能性を考えると、これは容易に眼に浮かぶ光景ですね! 「桃太郎電鉄」を含め、今後の新たな施策や進化についての計画はございますか?
 
岡村さん:
今後について、まだ具体的に発表できる段階ではありませんが、特別支援学校の生徒さんたちにもゲームを活用した教育の入り口を提供できるよう、さまざまな選択肢を検討しています。この分野では、ゲームが教育において特別な意味を持つ可能性があると考えており、専門家の方々と何ができるか模索しているところです。今後、成果をお知らせできる日が来ることを楽しみにしています。
 
JGA田中:
ありがとうございます。
今日は、『桃太郎電鉄 教育版』が生まれた背景や、教育現場で安心して利用できるようなバランス調整など、細やかな配慮について深く知ることができました。さらに、ゲームを通じて子どもたちが楽しみながら学べるというゲームの大きな可能性についても感じ取ることができました。特に心に残ったのは、不登校の生徒が「桃太郎電鉄」の授業に参加したという話です。
『桃太郎電鉄 教育版』は単なるゲームではなく、教育現場で役立つツールとしての可能性が明らかにされました。今後、KONAMIのチームがどのようにゲーミフィケーションのさらなる可能性を追求し、社会への貢献を続けていくのかを見守るのが非常に楽しみです。

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