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【ほぼ絶滅?】なぜ競りは行われなくなったのか

市場といえば「競り」をやっているイメージがあると思います。
しかし実際は、青果市場で「競り」はほぼ行われていません。
実は卸売市場では「競り(競売)取引」と「相対取引」の2種類の方法があります。
今回は競りと相対の違いなどについてまとめてみました。

先にまとめを載せます。

まとめ
現在の市場での主流な取引は競り取引ではなく相対取引です。
もともとは競り取引が主流でしたが、スーパーマーケットという業態がアメリカから入ってきたことで全ての買受人に対して公平な競り取引よりも効率重視の相対取引(事前相対)が主流となりました。

ニュースにもよくなる「初競り」

「初競り」というとマグロをイメージする方が多いかと思いますが、もちろん青果や花、肉にも初競りは存在します。
参考までに初競りとして取り上げられたマグロとマンゴーについて紹介します。

マグロ:異次元の歴代最高額「3億3360万円」

私は青果の現場にいた人間なので、水産のことは詳しくは知らないのですが、初競りとなるとマグロのことは無視できません。

2019年の初競りで、株式会社喜代村(すしざんまい)が落札した金額が現在、歴代最高額となっていてなんと3億3360万円です。(ちなみに2022年は1688万円)

こういった初競りはご祝儀相場ということでその年の景気を占う意味でも高値になる傾向はあるようですが、かつてはこんな金額には跳ね上がっていなかったそうです。
そもそもクロマグロの年間での平均落札額は1kg1万円ほどと言われている中で、2019年の初競りで落札された3億のマグロは278kgですので、1キロで120万円、寿司一貫にすると2万円を超えるイメージです。

ここまで高値となった背景にはテレビの影響があるようで、ドラマやドキュメンタリーで「大間のマグロ」がある意味「神格化」されたこと、それに従来からあったご祝儀相場がかけ合わさって、途方も無い金額になってい来ました。

ちなみに漁師の手元に残るのは税金を差し引くと落札額の7割ほどになるようなので、2019年のケースではあのマグロを釣り上げた漁師さんは一夜にして2億円以上は手にしたということになります。
しかし、その一方で何年もマグロを獲れていないという漁師のドキュメンタリーもよく目にするので非常にリスクの高い職業だなと思います。。

マンゴー:最上級「太陽のタマゴ」は2玉50万円

マグロと比べるとかなりお得な感じがしますが、それでも充分高額です。(東京ですと太陽のタマゴでなくとも、宮崎県産のマンゴーは1玉2500円以上はします)
太陽のタマゴとは宮崎県のブランドマンゴーで糖度15度以上、重さ350グラム以上などの基準をクリアした完熟マンゴーにのみ与えられるブランド名です。

ちなみにマンゴーといえば外国産のイメージが強いかもしれませんが、意外にも日本で流通するマンゴーのうち国産は4割弱もあります。

また、マンゴーの品種自体も意外にも多く、国産マンゴーや台湾産は「アーウィン」が主流ですが、日本に輸入されるマンゴーだけでも以下のように産地ごとに有名なマンゴーは異なります。

  • タイの「マハチャノ」「ナムドクマイ」

  • フィリピンの「カラバオ」

  • メキシコの「ケント」「ヘーデン」「トミーアトキンス」

  • 果皮が緑色の状態で完熟する「キーツ」

  • インドの代表格「アルフォンソ」

  • 世界一甘いと言われる「パキスタン産」

なかなかレアな台湾マンゴーを仕入れた時

市場での主流は実は相対取引

ここまで初競りについて見てきましたが、実はこの「競り取引」というのは今の日本では全体的に見るとかなり少数になっており、下図のように食肉以外では取引の大部分を競りではなく相対取引が占めています。

令和3年 農林水産省より

よく私たちがイメージするような、競り人が何か特殊な用語を叫びながら、それを囲む買受人たちが手をあげるなり叫ぶなりして繰り広げられるエネルギッシュな競りの光景は実はほんの一部で、実際の取引の多くは電話やFAXを使って事前に決めていたり、当日担当者と1対1で交渉をして買うというケースが(特に青果では)ほとんどです。
(ちなみに競り人が叫ぶ特殊な用語は値段を表す言葉ですが、こちらは1対1のやり取りでも普通に使われているので、自分は何をいっているのかわからず最初はめっちゃ戸惑いました)

しかし、もともと中央卸売市場というのは競り取引を原則としてできたものなので最初は競り取引が中心でした。
ではその形がいかにして変わっていったのか、そもそもその違いはなんなのかについて書いていきます。

両者の違い

競り取引と相対取引というのはあくまでも大まかな区分で、実際には市場ごとにその様子は微妙に違ったりもしますが、代表的な両者の特徴をまとめました。

競り取引(競売取引)

日本の卸売市場では競り取引の種類は大きく3つに大別されます。

  • 入札競り
    買取を希望する買受人が希望買取価格を黒板などに書き、それを競り人に見せます。買取希望者の希望価格がすべて出揃ったところで、その中で一番の高値をつけた人が落札者となります。
    一度しか価格の提示ができないのでスピーディーに決まるのが特徴です。

  • 競り上げ方式
    買取希望者が価格を吊り上げていき、最終的に一番高い価格をつけた人が落札者となる方式です。
    良くも悪くも先ほどのマグロのように価格に天井がないので予定外に高い値段になってしまうことがあります。

  • 競り下げ方式
    競り上げ方式の逆で価格をだんだん下げていき、その中で一番早く手を挙げた人が落札者となる方式です。
    オランダ式オークションなどとも呼ばれており、大田市場の花き部門ではこの方式を採用していますが、1990年から機械を使っており1つの競りにかかる時間はわずか3秒です。

競り取引の長所は以下の通りです。

  • 個々の商品ごとに評価が厳しく行われる。

  • すべての取引参加者に公平な取引機会が与えられる。

  • 価格形成が公正で透明性が高い。

反対に短所は以下の通りです。

  • 価格変動が激しく計画的な仕入れが難しい。

  • 大量の荷物をさばくことには不向き。(時間がかかる)

相対取引

競りに対して現在メジャーとなっているのが相対(あいたい)取引ですが、ここでは取引の時間の違いで2種類に大別します。

  • 当日相対
    商品の入荷があったその日に担当者と買受人が一対一でやり取りをして買取量・金額を決める方式です。

  • 事前相対
    商品が入荷するより前に買取交渉を済ませてしまう方式です。相対取引の中でもこの方式がメジャーになっています。

相対取引の長所は以下の通りです。

  • 量や金額が安定的な取引関係を構築することができる。

  • 大量の荷物をさばくことができる。

短所は以下の通りです。

  • (事前相対の場合)仲卸業者など売る側の抱えるリスクが大きい。

  • 価格決定の過程が不明瞭。

相対取引の短所についてもう少し詳しく書くと、「売る側の抱えるリスク」というのは事前相対では急な価格変動に対応できないということです。
事前相対では例年の相場などを考慮して事前に金額を決めて取引をするわけですが、例えば急な悪天候などで入荷量が減り相場が急激に上がった場合にも、事前に決めた価格で取引をしなければいけないことが多いです。また、事前相対を行う量販店は商品を揃えることを重視しますので、仲卸業者からすると赤字だとしても量を確保しなければいけないのです。
また、価格決定のプロセスも買受人がいる前で金額が決まる競り取引と比べると1対1が基本なので見えづらいです。

仲卸業者についてはこちらで詳しく書いています。

一方で競り取引は公正公平だけど大量の荷物はさばけないというデメリットがあります。
公正公平な取引よりも大量に荷物がをさばくことに主眼が置かれるようになったということでしょうか?
次はなぜ相対取引が主流になったのかについてです。

なぜ相対取引が主流なのか

相対取引が主流になった理由。それはズバリ量販店の台頭です。

アメリカからやってきたスーパーマーケット

中央卸売市場ができた1920年代、取引は原則競りで行われるものでした。
そもそも中央卸売市場ができた目的は生産者にも消費者にも適正な価格で取引を行なってもらうことなので価格決定のプロセスが明瞭な競り取引、そしてこのころは生産者も買取業者も零細で多数いたので大量の荷物が集まり、公正公平な価格形成だけでなく決済も安全に行われる卸売市場の役割は非常に大きいものでした。(卸売市場の機能についてはこちらに詳しく書いています)

しかし、アメリカで誕生したスーパーマーケットという業態が日本に輸入され、日本でも昭和30年ごろからスーパー(量販店)が増え始めると卸売市場の取引方式も量販店の仕入れ方法にあった形に変化することを余儀なくされました。

量販店の仕入れ方法

量販店の仕入れ方法の特徴は2つです。
まず、量販店は豊富な品揃えと大幅な値下げ販売が強みであったため、零細な小売店ではとても対抗できない強力なバイイングパワーを使って大量の荷物を仕入れることで通常よりも安価での仕入れを実現していました。
そして、もう1つの特徴が安定的な金額で安定的な量の仕入れを行うために、あらかじめ荷物を予約するようになったということです。これが事前相対取引です。
そんな市場での取引方法の変化を受けて、1999年には法改正により「競り取引の原則」は廃止となりました。

量販店は卸売市場を使わずに直接取引をすれば良いのではないか?

量販店の台頭を見ていると、そもそも卸売市場なんて介さずに産地と直接やりとりをすればいいじゃないかという意見が出てきそうです。
実際にスーパーが台頭し始めた時代から今に至るまで、日本では「問屋不要論」や「流通革命論」は一定の支持を得ています。もう50年以上同じことが言われているのです。
しかし、実際は今も量販店は仕入れの多くを卸売市場で行なっています。
その理由はいくつかありますが、青果ならではの不確実性や日本の量販店と産地の寡占化の具合から説明ができます。

まず青果ならではの不確実性についてですが、青果というのは工業製品と違って天候というリスクを常に抱えています。これは現代でもコントロールが難しく、仕入れる側としては1つの産地に頼っているとそこが天災などで倒れた時に対応ができないため、リスク分散として複数の産地から荷物が集まる卸売市場を利用した方が良いということです。

量販店と産地の寡占化の具合については、日本はアメリカやその他欧州の国と違い、生産者の規模は依然小さく、量販店も2017年時点で上位5社の業界全体でのシェアは約30%しかありません。それに対しアメリカは2012年にはすでにスーパー上位5社の業界全体でのシェアは約45%で現在は更に寡占化が進んでいると言われていますし、イギリスは約65%(2014年)、フランスは約75%(2012年)も上位5社のみで占めています。
このような状態だと全国に散らばる農産物を自社でトラックや保冷庫を抱えて集めるのは割に合わず、卸売市場を使った方が良いという判断になります。

このような理由により、日本では量販店が台頭しても、その仕入れは卸売市場を利用することが普通となっています。

まとめ

今回は競り取引と相対取引の違いについてまとめました。
量販店や直販を謳うECサイトが台頭してきている現在でも、卸売市場は依然として大きな役割を担っています。

これまでの歴史を見ると、小売に関して新たな業態が誕生しても卸売市場は嫌煙されるどころか、むしろ卸売市場側が法律を変えることにより、新たな業態に適した仕入れ方法に歩み寄っていると言えます。
言い換えれば、日本の産地や消費地の実情では卸売市場の持つ機能や仕組みは簡単には代替えできないものであるということです。

もちろん、市場外流通が悪いとは思いませんし、日本の農業により付加価値をつけられるのであればそれはとても有益なことだと思います。
なので卸売市場に求められるのは、卸売市場の持つ、公共性が高く、代替が難しい機能をベースとしつつ、新しいアイデアを取り入れながらより付加価値の高い農産物流通を実現していくことだと思います。(業界の方、偉そうなこと言ってすみません)

今後、具体的にどのような形に卸売市場はなっていくべきなのか、そんなことについても知識が溜まっていったら考えてみたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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