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【農家さん訪問】農業こそ「みんなちがって、みんないい」だと思った

都市部で暮らしていると、ついつい食べ物の背景にある作り手の存在を忘れてしまいがちです。

いつもは農業について少し引いた目線で色々と書いていますが、やはり現場に行かなければ分からないこともたくさんあります。

今回、縁あって都内のマルシェで出会ったSOU FARMさんのもとへご訪問させていただきましたのでそこで教えていただいたことや感じたことについて書きます。

ちなみに、過去の農家さん訪問については下記に書いています。


有機農業が盛んな埼玉県小川町

この逆側にはお店が並んでいます

有機農業に関心があれば多くの人が一度は名前を聞いたことがあろう埼玉県小川町。

実は東京の池袋から電車で一本で行くことができるため、アクセスがとてもよく、最近は移住者も増えているため駅前にも新しそうなお店が結構あります。(正直、もっと田舎みたいな駅前だと思っていました)

日本の有機農業の第一人者として海外でも知られる金子美登さん(昨年逝去)という方が小川町で長年、有機農業に取り組まれてきたことが今の小川町の有機農業の礎となっています。

金子さんは生前、有機農業に取り組まれていただけでなく、市場を介さない農産物流通網の構築や地場産業との連携による地域活性化、エネルギーの自給自足などにも力を注ぎ、ただの栽培方法としての有機農業ではなく、地域のあり方や生き方を体現した農業として有機農業に取り組まれていたようです。

一般的に有機農業というのは差別化の道具となるため、その箔を付けるために有機JAS認証をとる農家さんも少なくありません。
しかし、小川町は日本で有数の有機農業産地であるにもかかわらず、有機JAS認証を受けている農家さんの数はゼロなのです。

小川町の有機農業がラベリングのためではなく、地域に根付くためのもの
として金子さんの考えを大事にされているということがよく分かります。
(有機JAS取得農家さんを否定するつもりは毛頭ありません)

自然の営みの中で生まれる農産物

そんな小川町の中でも今回ご訪問したSOU FARMさんは特に強いこだわりを持たれています。
1日しかご訪問していないのに本当に色々なことを教えていただき、とてもその全てを書き切ることはできませんが、印象に残った内容をいくつかピックアップします。

作物の決め方:土だけでなく環境全体を考慮する

土壌にあった作物を栽培することは他の多くの農家さんも行っていることです。
しかし、SOU FARMさんは土壌だけでなく、そこに元々生えている植生(雑草)や日照条件、他の作物とのバランスも考えた上で栽培する作物や植え付け時期を決めているそうです。

一例として、イネ科の雑草がある畑については作物の播種(定植)時期に合わせて刈るのではなく、その雑草が自然に枯れる時期にあえて作物の栽培をスタートすることで枯れた雑草が天然のマルチのような役割をし、なおかつ土地の肥沃さや生態系も最適な状態(=自然に近い状態)に保つことができます。

また、異なる植物同士を一緒に植える「混植」を行うことで作物の良い点や欠点を補完し合う関係性を畑内で実現されています。

栽培方法:自然の営みの中にできる副産物としての収穫物

「自分だったらどうされたいか」

植物に対してそのように考えていると仰っているのが印象的でした。

その視点で考えると、慣行農法で行われているやり方とは違ったやり方が色々と見えてきます。

快適に暮らすためには、外からの無理矢理な変化は嫌ですし、自分で自分の住み良い環境を作りたいと思うのが普通のことだと思いますが、その環境を虫や動物、植物(雑草も含め)にも作るのがSOU FARMさんのやり方です。

具体例を挙げると不耕起、肥料や農薬の不使用、電気柵の不使用などということになるのですが、これはいわゆるラベリングのための有機農法や自然農法とは一線を画すものであり、ご自身の哲学の実践なのだとお話を聞くとよく分かります。

販売方法:収穫物は関係性の中の点に過ぎない

都市部に住む人たちにとって、農産物の背景にある作り手のことを考える機会は本当にごくわずかです。

そんなことを考えなくても近くのスーパーに行けばそれなりの野菜や果物は手に入るし、オーガニック農産物だって以前と比べて格段に手に入りやすくなっています。

都市と農村が分断されるようになり、農作物は「商品」としてのみ判断されるようになってきました。

ただ、そこに挑戦するのがSOU FARMさんです。

「畑に来る人に買ってほしい」
そう仰る背景には、農作物を通して、生産者と消費者、畑と消費者という関係性を意識してほしい、むしろ農作物はそのための点に過ぎないというメッセージが込められています。

今回のご訪問で、毎日農業のことを考えている私でも忘れてしまう当たり前だけど大切なことを思い出すことができました。

伝わることの難しさ、でもそれが価値

ここまで読むと農家さんのこだわりがよく分かると思いますが、これを実際に消費者に伝えるのはとっても難しいと仰っていました。

これは農家さんと直接話すことができるマルシェのような場でもそうです。
結局たくさん売れるためには「分かりやすさ」が大切なので、こういった「話し込んで、聞き込んでやっと分かる想いや考え」はどうしてもたくさんの売り手がいる中では埋もれてしまいがちなのです。

もちろん、それをどう簡潔に分かりやすく伝えるのかを考えることは必要かもしれませんが、大切なのは、お店で農作物を売る・買うというのは生産から消費という大きな流れの中の1つの点に過ぎないということです。

こういった「一見分かりにくいけど、知るとどんどん引き込まれる」ことにこそ価値があり、そういった価値がこだわりのある農作物や農家さんの背後には必ずあるのだと思います。

よそものだからこそ気づける価値

有機農業が盛んで移住者も多いのが小川町ですが、正直、これだけですと他の地方でも同じことが言えます。
特に有機農業についてはより広い土地が確保しやすかったり設備が整っている千葉県や茨城県の方が行いやすく、最近ではそういった地域への移住者が増えているそうです。

右奥のハウスではタネとり用に栽培をしています

小川町への移住者が劇的に増えたのは東日本大震災が起きた後の時期のようで、この時期は農業に対して、反グローバリズムやローカルへの回帰、食の安全などを求める方が多くいたことが移住者増加の背景にあったようですが、現在の有機農業は多くの人にとって、SDGsの流れの中で「稼げる持続的な農業」を目指すために始めるものであり、この点を重視すると小川町が最適ではないと判断をする人もいるようです。

小川町の持っている農業の背後にある哲学をいかに多くの人々に知ってもらい、その大きな生態系の輪っかの中に入り込んでもらえるかが大切だと思います。

生産者や産地と消費者や消費地の心理的な距離というのは物理的な距離以上にどんどん離れている、隔絶されていっていると思います。

経済発展や効率化を否定するわけではないのですが、物事には二面性があり、発展というのは変化でしかなく、それで失われることや新たに抱えるリスクもあるというのは認識しなければなと思います。

そしてこういった価値に気づくことができるのは、もともとその環境にいなかった移住者のような方々だと思うので、移住者の地方における重要性を再認識することもできました。

農業こそ「みんなちがって、みんないい」であってほしい

上述の通り、今回のSOUFARMさんのご訪問は、自分と食との距離やあり方を見つめ直す新たなきっかけになりました。

在来種の落花生をふかふかな土の中に植えました

農業の素晴らしさは、慣行農法や大規模農園も含めての多様性であったり、複雑な生態系の営み(の中で生まれる農作物という奇跡)だと学生時代から考えていましたが、社会人になり都市部に住み、農業を産業や数字で捉えると、どうしてもバランス良く前者を考えることができなくなってしまいます。

農業は食料安全保障を守るためのものであり、地域に外貨をもたらすための産業であり、地方の雇用を維持する働き口であり、環境や生態系を維持・破壊するものでもあり、自然の凄さや怖さや複雑さを教えてくれる先生でもあり、といった具合で、農業が持つポテンシャルは定量化できるものからできないものまで含めて本当に多彩で豊富です。

「農業」という言葉があることで、全ての農家さんを1つに丸め込むことはできますが、それでは何かを捉えているようで何も捉えられていないのだと思います。

「農業」という宇宙みたいな広さの言葉の中では、価値観も好みもやり方もそれぞれが違う定義を持ったものが無数に存在していて、そのおかげで消費者は豊かな食生活を送ることができているのだと思います。

いち消費者として、何かだけを肯定するわけでも否定するわけでもないバランス感覚を持ちたいなと改めて思いました。

今回の記事を要約すると
「みんな畑に行こう!」
ということです。

最後までお読みいただきありがとうございました。


Twitterでも農業やネパールについての情報を発信しているので良ければ見てみてください。

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