見出し画像

【新規就農】山のめぐみを受けながら農業をする青年が話す農家のリアル

農業は人や場所によってそのスタイルが大きく異なります。
今回は、水がきれいなことで有名な福岡県うきは市で就農したハミングファーム代表の池尻さんに新規就農のリアルについて色々と聞いてきました。

(彼は八百屋にいた時の同僚で、当時、苦楽を共にした八百屋さんの仕事についてはこちらに詳しく書いています)

先にまとめです。

まとめ
今回訪問した畑の多くは山地にありましたが、1つの畑が狭くなりがちな一方、落ち葉などの有機物が豊富で農業の中でも最重要とされる土がふかふかでとても良い状態でした。
しかし、獣害も多く、意外にも山の管理不足がその原因の1つとなっているようです。
そして上記のような環境の中で農業を行うハミングファームさんは理想を掲げながらも現実路線で栽培方法や品目などの改善に日々取り組まれています。

山の恵みを活かした農業

うきは市の農業はきれいな水を活かした平野部での水田や畑作と山の恵みを活かした畑作に大別されるそうです。

写真下部の畑はさつまいもが植わっており、「つる返し」という農作業を一緒に行いました

ハミングファームさんは畑の多くを山の斜面を切り屑したところに持っています。
山地というと、畑に面積が狭くなってしまうため農業をするのには向かないのではないかと思うのですが、実は意外な利点もあります。

良質な土壌

山地で農業をすると、落ち葉などの有機物をうまく土づくりに利用できるため、良い土ができやすいそうです。(土づくりは農業で最も重要な要素です)

良い土というのはふかふかで排水性・保水性のバランスが良い状態(団粒構造)を指しますが、そのような土を作るには豊富な有機物とそれを分解する微生物が必要です。
カブトムシを飼う時に使うふかふかな腐葉土はまさにそういった土で、腐葉とは分解された枯れ葉のことであるため、落ち葉を使った土づくりはまさに理にかなっていると言えます。

昼夜の寒暖差の利用

昼夜の寒暖差があると農作物は糖の生成をより行うようになるため味が濃くなります。
私が畑を訪問させていただいた日は最高気温と最低気温の差が10度以上もあり、まさに昼夜の寒暖差を実感しました。
山地では標高が上がるため、寒暖差がより顕著になり、より美味しい農作物ができるようになります。

日射時間の長さと絶妙な日射量

住居を探す時に南向きの物件は日当たりがいいとよく言われると思いますが、日当たりが重要なのは農業も一緒で山地の場合は日差しがうまく入るため農作物がよく育つといいます。
更に山地の場合は背の高い木などが適度に木陰も作るため日射量が強くなり過ぎずちょうどいいバランスで陽の光が入るようです。

※柑橘類は日差しが特に重要と言われており、太陽の光・石垣の反射光・海の反射光の3つの光を確保するため海沿いの斜面が産地となることが多いです。(西宇和みかん、三ヶ日みかん、瀬戸内海のレモンなど)

獣害の意外な原因

農業をやる上で大きな課題の1つがシカ、イノシシ、サルなど野生の生き物が畑を荒らす獣害ですが、彼らの生息地が近い山地の畑ではその被害がとても深刻なようです。

こんな道を登った先に畑があります

農家さんは被害を防止するために畑に柵を貼ったりしますが、その効果は限定的で全ての被害を止めることはできていません。

そんな獣害の原因としてよく挙げられるのが、「人が畑を拓きすぎて動物の生息地を奪ってしまった」というものですが、どうやらそれだけが原因ではないようです。

戦後の植林政策により、山にはスギやヒノキのような早く育って商品にしやすい木が多く植わるようになりました。
当時は山を持っている地主によって山の管理(間伐や枝打ちなど)が適切になされており、人為的に植えたスギやヒノキも元から植わっていた松などと共生して豊かな山をつくっていたそうですが、山の価値が下がってくる(=木を売っても採算が合わない状態)と山の管理を行う人が減っていきます。
そうすると管理がされなくなるため木々が過剰に生い茂り、日光が山の中に入るのを塞いでしまいます。
すると、光合成ができないため高木の下の植物が育たず、動物が食べていた木の実などが不足してしまいます。
この状態が酷くなることで、とうとう動物は人里へ降りて農作物を食い荒らすようになってしまうのです。

獣害の他にも、土砂災害や洪水などにも山の荒廃は関わっています。
植林政策以降の山は自然の山とは異なるため、人による管理が必要です。

理想的な農業と現実的な農業のギャップを埋めていく

就農2年目のハミングファームさんの目指す農業は地域の資源を循環させる農業です。
「ハチドリのひとしずく」という本に出てくる「ハチドリ=hummingbird」を農園名に付けていることもあって環境問題や地域資源の活用を意識して農業をされていますが、経済面との両立を考えて日々試行錯誤をしているようです。

朝、ナスを一緒に収穫し直売所へ出荷しました

栽培方法・品目の変化

栽培方法と一口に言ってもその種類は様々で一般的な慣行農法とそこから一番離れている自然農法の間には農薬・肥料・資材・土づくり・仕立て方など多くの要素で違いがあり、地域性や農家さんの個性が出るのがとても面白いです。
(同じ品種のナスを慣行農法で作っている山梨と福岡でも仕立て方が違ったのには驚きました)

就農2年目のハミングファームさんは、1年目は有機や無農薬に近い農法をメインに在来種や珍しい品目の栽培を行っていたそうですが、手間に見合うだけの単価を上げることができず、2年目は思い切って一般的な品目の慣行農法に切り替えているそうです。

農薬の使用基準は品目によって日本が緩いとか欧米が緩いとかの違いがあるので、一概に言えない部分がありますし、もともと欧米と比べて高温多湿な日本では農薬を減らした栽培が難しいという意見もあります。
また、個人農家さんが在来種などの野菜を有機農法などで栽培するスタイルですと、農協や市場への出荷ではなく、販路は自力で見つけていくことが多いですが、まだ知名度の高くない新規就農者がいきなり多くのお客さんを獲得するのはかなり難しいことだと思います。

そんな中でハミングファームさんは今年は一旦、一般的な品目を慣行農法で栽培するという選択をとっており、減農薬のスタイルもしっかり視野に入れながら、今後の農業に活かしていくようです。

ファームオーナー制度

ハミングファームさんは畑の一部を地域の方々と共有しています。
ファームオーナー制度で、地域の方々がその畑のオーナーとなって定期的に農作業に来られるような仕組みを作ることで農作物を「売る・買う」というだけの関係ではなく、より深く農家さんや農業と関わることができる環境をつくっています。

ファームオーナーさんたちの畑

日本農業は長らく地域をベースに支えられてきました。
中山間地が多く農地の集約が難しい日本の農業にも法人化や大規模化の波は来ていますが、その一方で欧米では地域で農業を支えるCSA(CommunitySupported Agriculture/地域支援型農業)という取り組みが一種のトレンドになっていたりもします。
個人的には、地域で農業を支えるというのは日本でもまだまだ残っていく形だと思っているのでファームオーナー制度のような取り組みはもっと日本で浸透してほしいなと思います。

エコロジーとエコノミーの両立させる農業の確立を目指し奮闘中

現実路線でなおかつ理想を捨てずに農業を行っているハミングファームさんは3年目が勝負だと言っていました。

「規模や労働力の制約がある売上を上げるよりも、有機肥料を自作してコストを減らすことで収益増につなげる」というような具体的な経営改善の話の中にも、
「緩効性の化成肥料がマイクロプラスチック問題に繋がっている」という環境問題への対策も含まれていて、こういった細かいけど具体的な施策の積み重ねで環境と経済の両立ができたら素晴らしいなと感じました。(福岡県うきは市自体も有機農業に力を入れていくそうです)

畑でキャンプをして色々と語らいました

最後に

今回は、福岡県うきは市で新規就農したハミングファームさんにお話を伺いました。

今回訪問した畑の多くは山地にありましたが、1つの畑が狭くなりがちな一方、落ち葉などの有機物が豊富で農業の中でも最重要とされる土がふかふかでとても良い状態でした。
しかし、獣害も多く、意外にも山の管理不足がその原因の1つとなっているようです。
そして上記のような環境の中で農業を行うハミングファームさんは理想を掲げながらも現実路線で栽培方法や品目などの改善に日々取り組まれています。

同世代で刺激を受けるのはもちろんですが、何よりうきは市の自然や景観が素晴らしく、時よりビル街の窮屈さを感じる私にとってはとても良いリフレッシュになりました。
今後もリフレッシュも兼ねてこうした形で農家さんを訪問できたらと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?