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【新規就農】無農薬栽培にチームで挑戦する20代若手農家

最近は「農家さん」と一括りに定義することがどんどん難しくなっています。
いわゆる一番イメージしやすい農家さん像は、正直なところ
「高齢で、普通に農薬や肥料を使っていて、(良いか悪いは別として)JA出荷で、あまりデジタルには強くないのでSNSはやっていない」
そんな方かなと思います。
実際にそういった農家さんが日本には多いのも事実です。

しかし、若手の農家さんというのもやはり増えてきており、そういった方々は上記のような今までのやり方とは違ったアプローチで日本の暗い農業界を変えようとしています。

今回はまさにそんな取り組みをされている千葉県の農家さん(福渡-Fukuwatari)に会いに行ったので、こちらに書こうと思います。

(他にもこんな農家さんにも会いに行ったことがあります)

先にまとめです。

まとめ
新規就農で無農薬栽培というのは畑選び、栽培、販売など想像以上にチャレンジングなことだらけですが、土づくりの工夫や人間関係で繋がっている独自のチーム編成などでそれを乗り越え、ただの栽培・販売にとどまらない農業の価値を最大限に引き出すコンテンツを生み出し続けています。

無農薬と他の農法の違い

今回お邪魔した福渡さんが行っているのは無農薬栽培です。
最近では無農薬やオーガニックなど色々な農法の名前を聞きますが、それぞれどのように違うのでしょうか。

ざっくりとそれぞれの農法の違い

  • 慣行農法
    最も一般的な農法です。農薬や化学肥料を使います。
    農薬や化学肥料を頭ごなしに否定する方もいますが、農薬や化学肥料は過度に使用しなければそこまで身体に悪影響は出ないと自分は理解しています。(むしろ食品添加物の方が危険かも)
    また、農薬や化学肥料自体は画期的な発明ですし、これがないと地球人類の食料なんて賄いきれません。
    そして、農薬や肥料を使うことは栽培のハードルを下げることにも寄与しています。農業生産は本来、化学や生物など幅広い学問がごっちゃになっている非常に難解なものですが、農薬や化学肥料を使うことでそういった数ある変数をいくらかはシンプルにすることができます。
    「農協では農薬を使わないことを禁止している。けしからん!」という方もいますが、農協は農薬をバンバン使えといっているわけでは全くありません。むしろガイドライン的に、使って良い農薬の種類・量・時期を指定して変な栽培方法を行わないように管理しているのです。(無農薬でも虫食いだらけの野菜を出荷されたら困りますよね)

  • 有機農法
    ざっくり言うと化学肥料や化学農薬を使わない農法です。
    化学肥料と比べると有機肥料は定量化できる部分が少ないので変数を解消しきれないまま栽培を行うことになります。
    これがなかなか難しく、土の状態や環境によって状況が全然変わるのでなかなか栽培方法が体系化されにくいという難点があります。
    無農薬との違いとしては生物由来の農薬等は使用できる点や、無農薬は正式な認証がないのに対して有機農法には正式な認証がある点が挙げられます。

  • 無農薬農法
    名前の通り、いかなる農薬も一切使わない農法です。
    ただ、有機農法以上に確立されている部分が少なく、上記でも触れたように、化学や生物のごちゃ混ぜ感がさらに強くなるのです。
    全てのピースがはまれば確かに無農薬でも大量に良いものが作れるのかもしれませんが、あまりにも変数が多く、さらに土地や年によっても変数の内容が変わってくるので本当に難しい農法だと思います。(慣行農法の篤農家さんですら「農家は毎年1年生」と仰ります)
    栽培を極めるような人たちは満遍なく栄養を与えられる化学肥料の何が無駄かが分かってくるので、栽培がどんどんシンプルになっていき使う肥料や農薬も減っていきます。無農薬はそこを突き詰めた究極の姿なのかなと思います。

個人的には農法で括ることにはあまり意味がないと思っている

ここまでざっくりと農法について紹介しましたが、これらの中でも農法というのはさらに細分化することが可能です。
また、例えば有機農法や無農薬だとしても、害虫を避けるためにネットなどを慣行農法以上に使っていたらそれはエコではないですし、有機肥料の質もピンキリです。
味も慣行農法がまずいかと言われるとそんなことはありません。(有名な久松農園さんは「品種」「鮮度」「栽培時期」が味の3要素と仰っています)
自分も八百屋でそれなりに野菜や果物を食べてきましたが、農法による味の差はそこまではないと感じており、上記3つに加えるとしたら「産地」も味の決め手になると考えています。
ただ、農業でとても大切な土壌の力を存分に生かせるのは化学肥料や農薬を減らした農法であり、そうした農法でできた作物は、一番健全で素材本来の力が引き出されていると思います。

無農薬で特に大切な土づくり

栽培の一番の要は土づくりです。
これは慣行農法であれ無農薬であれ、土を使う全ての農法に等しく言えることです。
しかし、無農薬の場合は農薬や化学肥料で農作物の成長を過保護に後押しすることはないので農作物の全ての源となる土の重要性がグッと増します。

畑によって土のコンディションは様々

畑と一括りに言ってもその状態は畑によって全然違います。
草が生えていたり、石が転がっていたり、水捌けが悪かったり、すぐに土が乾いてしまったりと目で見て分かる違いもあれば、特殊なキットを使って土壌診断をしなければわからないような細かい成分の違いもあり、これらを理想とする畑のコンディションに持っていくことが土づくりのスタートです。

畑の状態が違うので、それに対するアプローチもまた異なります。

新規就農で良い畑を借りるのは難しい

これは今まで会った若手農家さんはみんな仰っていたことです。
耕作放棄地が増えて農地が余っているというニュースをよく聞きますが、広かったり、アクセスが良かったり、状態がいい土地というのは結局のところあまり空いていません。
そして、そうした土地が仮に空いていたとしても、情報がオープンになることはあまりないので借りるとしたら地域のコミュニティに入り込んでいく必要があります。
新規就農者は地域での人間関係をこれから築いていくという立場なので、すぐにいい土地が回ってくることはあまりありません。
(ある別の知り合いの農家さんは、地元の小学校での読み聞かせや消防団への加入など地域に入り込むためになかなか努力をされていました)

廃菌床で発酵肥料を自作

土づくりは特別大事だが、いい状態の畑もすぐには借りづらい。
そんな状況でも奮闘する福渡さんが自作している堆肥として廃菌床を使ったものがありました。
廃菌床とは、きのこ栽培で使い終わった菌床のことで栄養が豊富で、福渡さんでは近くのきのこ農家さんからこれをもらい、発酵させて堆肥として利用しています。
畑の理想のコンディションとは「団粒構造」というもので、それを作るには有機物と微生物が必要ですが、廃菌床は微生物の活動を活発にし、土壌づくりにはもってこいのようです。
(カブトムシを飼うときに使う腐葉土はまさに団粒構造ができているいい土で、実際に福渡さんの廃菌床のエリアにも大きなカブトムシ?の幼虫がいました)

他にも麦を育てて、それを緑肥として畑に漉き込むことで空気中の窒素を土中に固定するなど、ホームセンターなどで買える肥料を使わずに、地域にある資源で畑の状態を良くしていく取り組みをされていました。

※イネ科・マメ科の植物は空気中の窒素を固定する特殊な能力を持っています。

ムギではなく隣に植わっていたマメ科植物ですが、根粒菌(ブツブツ)がびっしりついています

学生時代の仲間で結成したチーム

百姓の名前の由来として「百の仕事を行う」というものがあります。
しかし、販路を自ら開拓したり、ブランディングもしていく現代の農家さんにとっては、その仕事はさらに増えているように思います。

新規就農×販路開拓は1人では手が回らない

当たり前ですが、農業は「作って終わり」ではありません。
売って対価を得ることがゴールとなるので、販売も行う必要があります。
農協や市場への出荷にあまり興味がない農家さんは販路も自ら開拓する必要があります。
しかし、栽培技術もまだ確立していない中で同時に営業活動も行うのはかなり大変です。
日本の農業は零細な農家さんが多かったため、工業のように生産と販売を切り分ける分業体制ができていませんでした。だからこそ農協や市場のような委託販売を行うプレーヤーの存在価値があるのですが、会社組織で農業を行う人たちも出てきている中で地域全体としての足並みが取りづらくなってきており、この辺りは今後の日本の農業をどうデザインしていくかで大きく変わる部分だと思います。
いずれにせよ、基本的に規模も知名度も栽培技術も高度に持っているわけではない新規就農者が栽培と販路開拓を両立させるのは簡単ではありません。

広報メンバーもいる珍しいチーム編成

「チームで農業」と聞くとみんなが畑でせっせと作業を行うのかと思いましたが、福渡さんのチームはそこが普通と違い、とてもユニークなチーム編成でした。
栽培をする方以外にも、営業や広報を部門別にしっかりと分けており、これまでの農家さんが苦手とされてきた販売やブランディングをしっかり行っています。
この特殊なチームは福渡さんの学生時代の友人たちで構成されているようで、こういった有機的なつながりが給与や配当だけではない人間同士の関係性という別の価値観で築かれている点もとても魅力的だと感じました。

イベントの開催等、農業のハブ的機能を充分に活用

農業は衣食住を老若男女が体験・共有できる最強のコンテンツだと思っていますが、福渡さんはまさにそれを実践されていました。
SNSでの発信だけでなく、実際にいろんな人を呼んだイベントを開催されているようで農業の価値を最大限に引き出して、コンテンツづくりやコミュニティづくりにも励んでいます。

地域の農家さんのお手伝いにも積極的に参加されていました

最後に

今回は千葉県の福渡さんにお邪魔し色々とお話を聞かせていただきました。

新規就農で無農薬栽培というのは畑選び、栽培、販売など想像以上にチャレンジングなことだらけですが、土づくりの工夫や人間関係で繋がっている独自のチーム編成などでそれを乗り越え、ただの栽培・販売にとどまらない農業の価値を最大限に引き出すコンテンツを生み出し続けています。

個人的に農業の一番の魅力は、その人の生き方や哲学が色濃く仕事に反映されていることです。
今回もまたいいお話を聞くことができました。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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