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書店であった嘘のような本当の話⑩CMの撮影ですか?

 6年間、契約社員として勤めた書店は、行列ができることで有名でした。初めて来店し、その行列を見たお客様は非常に驚かれます。

 何がそんなにすごいのかって、①カウンターと②カウンターの行列が、くっついて交差したり、折り返したりするんです。①と②のカウンターは、そこそこ離れているにも関わらず、です。しかも、東日本大震災の直後はお客様が殺到したので、「最後尾」というプラカードが2枚出現するほどでした。いったいなんのアトラクションだろう、と苦笑いでした。

 平日は、10時に開店したら11時には行列ができ始めます。土日祝日はもうお祭り騒ぎのような感じです。

 私自身はお客様が並んでいるとワクワクし、血が騒ぐのですが、同僚たちはそんな私を変人扱いでした。レジに入っていると過呼吸になりそう、と言っていた人も。気持ちはわかります……。

 レジカウンターは、①カウンターが横並びに6台、L字型に飛び出した1台を入れて全部で7台、②カウンターが①の背中合わせになるかたちでレジが6台あります。

 土日祝日の非常に混雑する時間帯は「ご案内」というシフトが組まれます。文字通りレジカウンターの向かいに立ち「先頭のお客さま、奥のレジへお進みください」とか「お次のお客さま、こちらへどうぞ」などと誘導をするのです。

 その日私は「ご案内」に立っていました。だいたい1時間か、長くても1時間半交代です。レジカウンターの向かいに立ち、レジの7人の様子と行列に目を配りつつ、後ろから本の問い合わせを受けることもあるので、360度全方向に注意を向けていなくてはなりません。なんなのこの特殊能力を求められる感じ。

 その時、30代ぐらいのご夫婦らしき男女の女性の方が、人差し指を立てて話すような感じで私の後ろを通りながら、

「ね? ○○書店はワクワクするでしょ?」

 と言ったのです。

 え! 今うちの店のCMの撮影ですか⁉︎ と思ってしまいました。

 契約満了でその書店を去る日、朝礼での退職の挨拶でそのことを皆の前で話しました。

 書店がどんどんなくなっていく状況で、お客さまにそんなことを言わしめる書店で働いていることを、誇りに思ってこれからも働いていってください、と。

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