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【映画雑記】動く心霊写真。黒沢清監督の「回路」。

 黒沢清監督の「回路」がNETFLIXで配信されていました。

 自分は公開当時は加藤晴彦、小雪というキャスティングに心惹かれず敬遠しておりました。しかし、CMや告知で流れる工場の塔の上から飛び降りる女性の映像は印象に残っていました。初めて観たのはほんの数年前です。そして、久しぶりに夜に思い出して怖くなり、眠れなくなりました。おっさんになって以降、ここまで緊張感を持って観たホラーはあまりなかったです。また、加藤晴彦や小雪といった小物俳優(失礼)にしっかり演技させる黒沢監督の手腕に唸りました。

 少しネタバレますが、インターネットがあの世への入り口と接続してしまい、あの世とこの世の境界が曖昧になってしまいす。そのため生者は姿をくらまし、死者がこの世に溢れ出てくるのです。なぜそうなったのか、幽霊が出現する理由がはっきり説明されないまま終末に向かってぶっちぎる感覚。言っちゃうとロメロの「ゾンビ」オマージュなんですが、それを補って余りある怖さがあります。

それは、黒沢清監督独自の幽霊の表現です。

 映画の中での幽霊の表現には様々なものがあります。日本では日本画のような佇まいだったり、昨今の日本のホラーに影響を与えているジャック・クレイトンの「回転」では遠景にひっそりと映る人影となります。そうなると映画ファンではなくとも、本当は幽霊が見える人にはどう見えてるんだろう?と思ってしまいます。昭和に育った幼虫にとって、その大きな手がかりが心霊写真です。心霊写真はそのものズバリのものもあるにはありましたが、その多くは不自然な映り込みや、ボヤーっとしたもので、掴みどころのない恐怖を覚えました。いままで幽霊を映像で表現した映画を死ぬほど観ましたが、映画「回路」はまさに動く心霊写真。昔、図書館でボロボロになった中岡俊哉の心霊写真本を読んだときのあの厭ぁ〜な感じを思い出させてくれました。公開当時でも世界最高の幽霊表現だったんじゃないでしょうか。これは一見の価値ありです。ぜひご覧になってキンタマ(女性のかたは心のキンタマ)を縮み上がらせてください。

 蛇足ですが、クライマックス、銀座を映した映像で、自分がかつて働いていたブラックな職場がある銀座松屋あたりの路地をパンするシーンがあり、その先が見事に壊滅していて不思議なカタルシスを覚えました。

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