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【映画雑記】中川信夫版『東海道四谷怪談』は凄い。

中川信夫版、『東海道四谷怪談』(1959)
ご覧になったことがございますか?

原作は言わずと知れた鶴屋南北の歌舞伎狂言『東海道四谷怪談』。当時話題になった猟奇的な事件を題材に、立身出世を望む浪人民谷伊右衛門が妻を文字通り犠牲にして武家社会でのし上がろうとする。しかし因果応報、お岩の怨霊によってボコボコにされるという誰もが知る傑作怪談であります。

この「国民的怪談」はそれこそ多くの映像化作品があるが、なかでも怖いのが中川信夫版。とにかく、恐怖、グロテスクさの中に物凄くカッコいい瞬間があるんですね…。個人的に特筆したいのが渡辺宙明の音楽。歌舞伎の演出である「ひゅうどろ」を意識した結果、激烈な打楽器の音がエドガー・ヴァレーズみたいになってる。モノラルの「ダンゴ」な音がとてもいーです。

『東海道四谷怪談』は顔が崩れたお岩の怨霊のインパクトが強すぎるので伝わりにくいかもしれないけど、物語の主軸は「稀代の悪人、民谷伊右衛門の破滅」なので伊右衛門を演じる人に魅力がないといけない。その点でやはり自分にとっては伊右衛門を演じる若き天知茂がベストと感じる。

カッコいいねぇ。

例えば、お岩を裏切り、死に追いやって晴れて伊藤家に婿入りした伊右衛門が、お岩の亡魂の姿を目にしながらもお梅と初夜を貫徹しようとする場面。これなんかは天知茂のクールなルックスが図太くてゲスい伊右衛門のキャラクターに謎に説得力を持たせていてとてもいいなぁと思いますね。

こんな状況でも「営み」完遂を試みる腐れ外道。

その伊右衛門のブレーキの壊れたモラハラDV人生の最後が、ただ一言「許してくれ…!」という喘ぎなのも最高。

「許してくれ…!」

その絶命からの無音のカットの連続、お岩の成仏に連なるエンドまで1分足らず!このたたみかけは超人技。

その伊右衛門を追い詰めるお岩を演じるのは若杉嘉津子。脚本家の高橋洋さんが『東海道四谷怪談』を「人間が化け物になっていく過程をきっちり見せる物凄い怪談」と形容していてほんとにその通りだと思う。それゆえに、お岩が怨みを飲んで我が子もろとも憤死する様=怨霊が生まれる瞬間を演じる場面にどれだけの説得力を持たせられるかが鍵になるが、若杉嘉津子のお岩は貞淑な妻と怨念そのものになった姿の対比が素晴らしく、観ていて引き込まれます。ほんとに凄いんですよ!南北の原作のお岩は、浪人のくせに立身出世にうつつを抜かしろくに働かないクソ旦那のために「夜鷹」といって身体を売るところまで追い詰められている。映画では省略されているそうした背景もちゃんと感じさせます。これはほんとに観てほしいとしか言えません。

「この怨み…晴らさでおくべきか…!」

さて、見所も多く、その凄まじく濃いエナジー漲るたたみかけによって圧倒されるも観終わってみると全編の尺はまさかの76分…。120分越えが当たり前となった昨今では信じられないですね。

かつては夏になればテレビ東京の「2時のロードショー」でよく放送されていた記憶があります。また、花火や蚊帳などの「夏」を象徴するアイテム、この映画全体を包み込む湿度、そこかしこに溢れる「夏」のムードが不思議なノスタルジーも呼び起こします。ノーカットで放送しやすい尺なのでここでまた真昼間のお茶の間に登板願うのも良いのではないでしょうか。


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