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経済に関するメモ(17) 【リスクと保険】

本メモは経済の基礎的な内容に関するメモです。


1. リスクと保険 18項目

1-1. リスク
…不確実性により目的と実現状態が乖離する可能性

→リスクファクター、目的と実現状態が乖離する要因
→リスク計測、リスクファクターが実現状態にもたらすフィードバックを発生前に量化すること
→一定のハザードを基礎に将来生じるかもしれないペリルを見越して把握する


1-2. 不確実性
…目的を達成するために行動し、その実現状態がランダムに変動すること
様々な要因とつながることで正負のフィードバックをランダムに受ける


1-3. ペリル
…起こりうる損失の直接的な要因


1-4. ハザード
…損失を引き起こしたり拡大させたりする要因


1-5. リスクの分類
・純粋リスク
…損失のみをもたらすリスク

・投機的リスク
…損失をもたらす場合もあれば利益をもたらす場合もあるリスク

・個別的リスク
…特定の財物・人に影響を与えるリスク

・基礎的リスク
…社会・地域に広く影響を与えるリスク

・主観的リスク
…心理状態や意思の内部にあるリスク

・客観的リスク
…真理状態や意思に関係なく外部にあるリスク

・静態的リスク
…火災・津波・衝突など一定の時間内で生じるリスク

・動態的リスク
…政治・経済・技術が大きく変化した結果生じるリスク


1-6. 保険
…同様なリスクにさらされた多数の経済主体による、偶然なしかし評価可能な金銭的入用の相互充足


1-7. 保険制度の要素
❶保険者
…保険事業の運営主体、公法人、私法人、個人

❷契約者
…自己の名で保険契約を締結し保険料の支払いを約する者、基本的に格別の制限はない

❸保険契約
…保険者と保険契約者を結びつけ保険関係を発生させる


1-7. 保険の分類
・公保険
…公的な政策実現の手段として行われる保険

・私保険
…私経済的な観点から行われる保険

・公営保険
…運営主体が公法人

・私営保険
…運営主体が私法人

・損害保険
…ペリルにより生じた損害を基準にして保険給付が算定される保険

・定額保険
…一定額がペリル発生の際に支払われる保険

・財産保険
…被保険者の財産にペリルが生じる保険

・人保険
…人にペリルが生じる保険


1-9. 保険制度の性質
❶技術性
…3 つの数理的・技術的原理の上に成り立ち高い技術性を有している

❷団体性
…大数の法則の適用上集められた独立な経済主体が団体を形成している

❸公共性
…独立な経済主体が団体を形成しているため多くの経済主体に影響を及ぼし生活に密接している

❹倫理性
…目に見えない潜在的な保険者の負担給付から目に見える健在的な保険金給付に姿を変え、それが偶然なペリルの発生にかかっている点で射倖契約である
→ペリルの発生に不正な介入を行い悪用される恐れがあるため最大善意を要求する


1-10. 保険制度の構造
…保険制度は極めて数理的・技術的な側面が3つある
❶大数の法則
…個別に見れば偶然と思われるような事象も大量観察すればそこに一定の確率が見られる
→ペリルの発生が個別で見て偶然でなければならないという要件を満たす

❷収支相当の原則
…個別で見て偶然なペリルを同一のペリルにさらされた対象による集団で分担する
→集団人数×保険料=受取人数×保険金

❸給付反対給付均等の原則
…個別の保険料は受け取り可能性のある保険金の期待値に等しい


1-11. 保険制度の成立要件
❶個人の独立

❷貨幣経済の発達
…充足させようとする金銭的入用は貨幣の価値尺度機能を通して把握される
→保険料・保険金の支払いは貨幣の価値交換手段機能を利用しない限り成立しない
→保険料・保険金の支払いにタイムラグが生じるため貨幣の価値貯蔵手段機能によって形成される
→ある個人が財貨の不足や欠如という事態に直面し欠乏感を抱き財貨を得たいという欲望が必要

❸多数の経済主体の結集
…大数の法則の上に成り立つため同様のリスクにさらされた対象を多く集めなければならない

❹リスクの存在

❺金銭的入用の相互充足
…『万人は一人のために、一人は万人のために』、マーネス、相互的とは構成員が精神的に結ばれていることを意味する
→大数の法則の上に成り立つため相互的とは数理的・技術的な仕組みも意味する
→金銭的入用の相互充足とは大数の法則が適用され、収支相当の原則・給付反対給付均等の原則が妥当するように運営されることを意味する


1-12. 保険制度の機能
❶リスク分担機能
…大数の法則を適用し、収支相当の原則・給付反対給付均等の原則が妥当するようにリスクを分担

❷金融仲介機能
…巨額の保険資金により資金力を有している

❸信用付与機能
…抵当物である住宅に火災保険を付すことで、住宅が火災にあっても銀行は確実にローンを返済してもらえる
→借り手への信用付与

❹販売促進機能
…盗難保険を付すことで買い手は盗難にあっても大丈夫と考えて購入意欲が高まる

❺家計・企業の経営安定機能
…偶然な金銭的入用は家計・企業の経済を圧迫するため保険で経済レベルの維持が可能となる

❻労働力維持機能
…傷害・疾病のペリルを負担する保険は労働者の健康を維持し労働力を維持させる

❼所得再分配機能
…本来負担すべき額よりも低く抑えられている契約者は差額を所得として再分配されている


1-13. 保険と貯蓄
…両者とも目的は将来における経済的不安定の除去・軽減だが達成方法が異なる

・保険
…災害・人の死亡など特定の偶然事故に備える
→多数の個別経済主体の結合が前提
→経済的不安定が実現した場合に保険金を即座に入手できる
→確率論・統計学・医学などの専門知識が必要

・貯蓄
…将来への漠然とした経済的不安に対処する
→個別経済主体が単独で行う
→それまでの蓄積に依存し不足やサンクコストが生じる
→専門知識が必要ない


1-14. 貯蓄はいつでも自由に使うことができ目的を途中で変更できる
→事故発生時点までに貯蓄した金額の範囲内でしか対応できず損害額全額を賄えない
→保険は少額の保険料を支払ってリスク移転が可能、保険期間では時期を問わず事故が発生すれば事故に応じた保険金が支払われる


1-15. 保険と賭博
…多数の人が参加する、多数の人が拠出した金銭を特定の少数者に支払う、収支相当で計画される、という点が類似しているが目的意識が異なる

・保険
…偶然事故に関連する既存の危険を分散・軽減・除去し補償を得る
→保険をかけた時点でリスクが保険会社に移転される
→掛金をリスク負担料とすれば実質掛け捨てとはならない

・賭博
…偶然事故の結果として金銭・財物を授受する行為、損失と利益の機会が併存する射倖取引
→損失の可能性が全くないところへあえて危険をすすんで導入し増幅させる
→賭博は公認されている競馬・宝くじを除けば公序良俗に反し違反行為となる
→保険を賭博のように悪用して金銭を得ようとする行為もあるため利得禁止の原則で防止する


1-16. 保険と保証
…当事者の一方に発生した損失を填補する点が類似している

・保証
…当事者の一方が責任を持って相手に生じる損失を引き受けること

・保険
…独立した契約
→保険料を対価とした有償契約
→財産を形成
→個別経済主体の結合を前提とする

・保証
…他の契約に付随した契約
→債務保証は有償・無償、身元保証や製品保証は無償
→特別な財産を形成しない
→個別経済主体の結合を前提としない


1-17. 保険と自家保険
…特定の偶然事故により生じる経済的不安定を軽減・除去するために準備金を備える点は類似、多数の個別経済主体の結合を前提としない点で異なる

・自家保険
…船舶会社・不動産会社などが所有物に生じる損害に備えた一定の準備金


1-18. 保険と共済
…特定の偶然事故に遭遇した者に所定の給付金を与える点は類似

・保険
…規模が大きい
→保険料はリスクによって異なる
→給付金は共済より多い、目的は経済的不安定の除去・軽減

・共済
…規模が小さい
→拠出金は一律金額
→給付金が少額、目的は構成員間の親睦、経済的不安定の除去・軽減ではない


2. 保険契約 14項目

2-1. 保険契約
…保険者と契約者を結びつけて保険関係を発生させる

→大数の法則を利用しているため個々の契約が保険制度という経済的制度を形成する場合に、その個々の契約を保険契約と考えることができる


2-2. 保険契約の特徴

❶技術面の事項
…保険給付は偶然事象が生じて初めて現実化するものだが実際には様々な事象が生じる
→保険契約ではいかなる給付を行うかを様々な角度から規定して給付内容を明確にする
→個々のハザードは千差万別でリスクも異なるため、リスク計測のために必要な情報を用いてリスクに応じた条件・料率の設定を行う
→発生確率を見積もることができ保険料も適正に算出できる
→想定できない事態の扱いまで詳細に規定する必要もある

❷健全かつ適正に運営するために必要な事項
…社会に共通して求められる公共性・倫理性だけではなく健全性・適正性も求められる
→利得禁止の事項を含む必要、生活保障や損失填補のための制度であるため、賭博利用や保険で賭博が発生することは適切でない
→何を利得とみるか、どの程度の利得を禁止するかということは単純ではない
→故意の事故や過大請求を防ぐ事項を含む必要、将来の事象に対して不正介入して悪用されるモラルハザードの可能性がある


2-3. 保険契約の法的性質
❶諾成契約
…当事者の合意によって成立する契約
→契約者の申込と保険者の承諾という 2 つの対立する意思表示の合致により成立

❷不要式契約
…一定の形式を必要とせずに成立する契約
→契約者・保険者は一定の形式を必要とせずに成立

❸有償契約
…当事者が相互に対価を給付する契約
→契約者の保険料と保険者の保険金給付が対価の関係となって成立

❹双務契約
…当事者の双方が相互に債務を負担するような法律的な対価関係にある契約
→契約者の保険料支払義務と保険者の保険金負担義務が機能的に相互に交換づけられて成立
→双務契約は全て有償契約である

❺射倖契約
…偶然の利益を得ることを目的とする契約
→当事者の一方・双方の給付発生やその大小が偶然な事実にかかって成立

❻最大善意の契約
…当事者の最大善意が求められる契約
→偶然事象の発生に対する不正介入による悪用の可能性があるため当事者の最大善意により成立


2-4. 保険制度は大数の法則を利用しているため大量の契約を前提とする
→保険契約の基本的な内容は同じでなければならない
→附合契約、保険者が契約条項をまとめた保険約款を用意し、契約者が加入するかどうかを選択する方式が採用されている


2-5. 普通保険約款
…基本的・標準的内容を示す


2-6. 特別保険約款
…普通保険約款を修正・補足する


2-7. クレーム
保険会社に保険金の支払いを請求すること


2-8. 保険業法
…保険事業は適切に運営されないと社会全体にとって重大な問題となる
→保険業法によって保険事業が健全・適切に運営され保険募集の公正性が確保されることで、契約者等の保護を図る


2-9. 保険法
…個々の保険契約は私人間の民事行為であり中身まで保険業法で規律することはできない
→保険法によって保険契約に関する一般的るルールを定め保険契約を規律する
→2008 年5 月に成立、2010 年 4 月から施行


2-10. 適用対象である保険契約
…いかなる名称であるかを問わず、
一定事由が生じたことを条件として当事者の一方が財産上の給付を約束し、
相手がこれに対し当該一定事由の発生可能性に応じたものとして保険料を支払いを約束する契約


2-11. 保険契約の成立
❶募集
…保険制度は複雑で難しいため不正な募集がないように専門知識を有する者によって行われる
→募集には保険業法、金融商品販売法、金融商品取引法、独占禁止法、個人情報保護法が関係
→保険業法が中心であり契約者等を保護するため保険募集人を保険会社の従業員・代理店・保険仲介人に限定し保険募集上の義務や禁止行為も規定する

❷保険募集人の義務
…説明義務、契約締結にあたって合理的判断を下すのに重要な事項を説明しなければならない
→虚偽の説明、誤解するような契約内容の比較、保険料の値引き、特別利益の提供は違反となる
→違反すれば契約者には契約取消権や損害賠償請求権が認められ違反者には刑事罰が課される、違反者の所属会社には行政上の処分が下される

❸契約の成立要件
…当事者間の合意によって成立するが公序良俗違反の契約は無効となる
消費者契約法により契約者が消費者である場合の規定をする

・クーリングオフ
…保険期間が1年越えの契約では契約者は8日以内であれば申込撤回や契約解除ができる

❹告知義務
…保険者は引受内容をもとに契約締結の諾否、契約条件、保険料を決定
→必要な情報は契約者に存在するため告知義務を規定する
→違反すれば保険者は契約解除でき、既に発生している保険事故について保険金支払を免責される
→違反に気づかずに発生した保険事故については免責されない

❺保険料支払、保険証券発行
…契約者が初回保険料を支払わない限り保険者の責任は発生しないことを規定
→契約が成立すると保険者から証拠として保険証券等が送付され紛失してもクレームは可能


2-12. 契約成立後のリスク変動
…契約後にリスクが著しく減少した場合は保険料の減額請求権が契約者に認められている、減額請求は将来に対してのみ可能
→契約後にリスクが著しく増加した場合は契約者は遅滞なく通知しなければならず、違反すれば保険者は責任を負わないことを規定する


2-13. 保険金給付
❶通知義務
…契約者は保険期間内に保険事故が発生した場合は遅滞なく保険者に通知しなければならない

❷保険金給付と履行期
…保険者は契約に従い保険金給付を行わなければならないが損害保険では現物給付も認められる
→保険金給付のための事実関係や原因の調査が長引くことは望ましくなく履行期を規定


2-14. 保険契約の終了
❶保険契約の終了時効
…契約者のクレームの時効は3年、払戻しのクレームの時効は3年
保険者のクレームの消滅時効は1年

❷契約者による解除
…契約者はいつでも保険契約を解除でき将来に向かってのみ効果を有する
→解除後、保険者は責任を負わない

❸保険者による解除
…保険者は自由に保険契約を解除できない
→解除できるのは
①保険契約締結時に契約者の告知義務違反があった場合
②リスク増加があった際の通知義務違反があった場合
③詐欺など保険者との信頼関係が破壊される事由があった場合
→解除前の保険事故に対しても保険者は責任を負わない

❹保険料返還
…解除された期間に対応する保険料を支払済であれば約款規定に従った額が返還される
→無効・取消は契約が最初からなかったものとなり支払済保険料が契約者に変換される


3. 保険契約と情報の非対称性

逆選択

3-1. 逆選択
…質のいいモノ・サービスがなくなって、質の悪いモノ・サービスがマーケットに残る

→対策として第三者の介入、シグナリング、標準化、スクリーニング(自己選択)
→性質に関する情報の非対称性によって起こる


3-2. 性質に関する情報の非対称性
…一方の主体がもう一方の主体に比べてモノ・サービスの性質の情報を得られない


3-3. 保険においての逆選択
…保険者が契約者のリスク性質に関する情報が少ないため、リスクが高い者とリスクが低い者が同一の保険料で引き受けられていると、相対的にリスクが高い者が有利となってリスクの低い者が脱退しリスクの高い者が多く加入
→収支が悪化し保険事業が継続できない可能性がある
→保険加入が法律で義務付けられている保険では逆選択は理論的に起きないとされている


3-4. 保険においての逆選択対応策
❶アンダーライティングの強化
…契約者をどういった引受条件・保険金額・保険料率で引き受けるかといった情報の正確さを担保
→正確なリスク分類を行う

❷条件付き保険商品の設計
…契約前発病を不担保にする、契約後の 90 日間を待ち期間としてクレームに応じない、保険金支払日数に上限を設けるという過度の保証とならない保険商品の設計をする

❸引受基準緩和型保険
…保険加入しやすいが保険料がとても割高で保証金額も限度がある
→十分な情報が入手できなければ契約者に選択してもらうことで保険者による危険選択を回避


モラルハザード

3-5. モラルハザード
…一方の主体が予想と異なる行動をとって契約条件が当てはまらない
→対策として望ましい行動へ向かうインセンティブを持つ契約内容にする
→行動に関する情報の非対称性によって起こる


3-6. 行動に関する情報の非対称性
…一方の主体がもう一方の主体の監視が難しく行動を把握できない


3-7. 保険においてのモラルハザード
…契約者を監視できないため契約者の行動が変化し事故の頻度・規模が大きくなる
→保険者の保険金支払が増加する
→保険料に転嫁されることで契約者の負担が増加する


3-8. 保険においてのモラルハザード対応策
❶モニタリング
…診断を定期的に行ってそのデータを管理することでリスクを高める行動をしないように監視

❷自己負担額の設定
…保険者がリスクをすべて負担するわけではなく契約者が一部を負担
→契約者にとって事故を起こすことが経済的デメリットとなる

❸等級別料率(メリット・レイティング)の採用
…事故を起こすと次回契約の保険料を引き上げ、無事故だと次回契約の保険料を引き下げる
→事故を起こさない経済的メリットを提示し事故抑止のインセンティブとなる

❹保険金支払制限や免責の設定
…金額・対象のような責任範囲の制限、自殺・故意に関する免責を設定


おわりに

ここまでご覧いただき、ありがとうございます。
修正すべき点やご意見などあればXでお声をいただければと思います。
修正の際は、番号を指定して、フォーマットをなんとなく合わせていただけると助かります。

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