見出し画像

経済に関するメモ(8) 【金融政策】

本メモは経済の基礎的な内容に関するメモです。


1. 中央銀行と金融政策 20項目

1-1. マネーストック M
…ある国の経済全体に存在している貨幣の量
M1=現金通貨 C+預金通貨 D、 M=C+D

M2=M1+準通貨+CD、預金の預け入れ先が限定されている
M3=M1+準通貨+CD、預金の預け入れ先が限定されていない
広義流動性=M3+投資信託+金融債+銀行発行普通社債+金融機関発行 CP+国債+外債


1-2. 準備預金 R
…受入預金の一定比率以上の準備預金を銀行は日本銀行に預ける
→準備預金 R、必要準備率 r 、預金通貨 D
R=rD
→元々は急な預金引出の十分な支払い対応のため、現在は金融政策の円滑な実施のため


1-3. マネタリーベース H
…ある国の中央銀行が供給する貨幣の量

H=現金通貨C+準備預金 R、H=C+R
→中央銀行の債務


1-4. 貨幣乗数 s
…マネーストックとマネタリーベースの比率
→s=M/H
→現代日本では超過準備の増加から金利を操作しようとするため適用されない可能性が高い


1-5. 中央銀行
…国の中心となる銀行
→使命はインフレ退治、物価安定の維持

→金利を上げるしかない、消費を抑えて景気を減速させる
→色々な事情を持つ各国が景気を減速させるにとどめる利上げを行うことが課題
→インフレターゲット、物価上昇率をどれくらいにするかから政策金利を決定する

$$
\begin{array}{|c|c|c|c|c|} \hline
国 & 中央銀行 & 政策金利 & インフレターゲット & 政策発表  \\ \hline
アメリカ & FED(連邦準備制度) & FFレート & コアCPI  2% & 年8回、3:00、議長会見は 3:30   \\ \hline
EU & ECB(欧州中央銀行) & 1週間物レポ金利、限界貸出ファシリティ金利、預金ファシリティ金利 & HICP 2% & 年8回、20:45、総裁会見は 21:30  \\ \hline
イギリス & BOE(イングランド銀行) & オフィシャルバンクレート & CPI 2% & 年8回、20:00、総裁会見は20:30 \\ \hline
スイス & SNB(スイス国立銀行) & 短期金利 & 3ヶ月物Libor 2% & 3、6、9、12 月、16:30、総裁会見は17:00 \\ \hline
日本 & BOJ(日本銀行) & 無担保コール翌日物 & CPI 2% & 年8 回、13:00、総裁会見は 15:30 \\ \hline
\end{array}
$$


1-6. 中央銀行の機能
❶金融政策の運営
…かなり高い独立性を持ってマクロでの金融政策の運営を行う

❷発券銀行
…独占的に紙幣を発行しその紙幣が法定通貨となる

❸決済システムの維持・管理
…法定通貨は決済手段であるため決済システムの維持や管理に関与する

❹銀行の銀行
…民間銀行が一時的な資金不足に陥った際に貸し付けて決済システムの機能不全を防ぐ

❺金融機関の検査・監督
…金融システムの健全性維持のために検査や監督を行う

❻政府の銀行
…中央政府の出納業務を委任される

❼為替介入
…市場を常にモニタリングし急激な変動が生じた時には介入して安定させる


1-7. 金融政策
…中央銀行が短期金利を調整することで、生産や雇用に影響を与えて物価を安定させる


1-8. 金融引締め QT
…貨幣を少なくして短期金利を引き上げる、利上げ
→売りオペ、中央銀行が国債を売る


1-9. 金融緩和 QE
…貨幣を多くして短期金利を引き下げる、利下げ
→買いオペ、中央銀行が国債を買う


1-10. テーパリング
…中央銀行の国債の買いを少しずつ減らす、利上げへ向かう、QEやめていく


1-11. 公開市場操作
…中央銀行が国債を買ったり売ったりすることで短期金利を操作する

→指標は短期金利でありオペレーションは短期国債のマーケットを中心とする

→なぜ短期金利を指標とするのか?
❶コントロールがしやすいため
…長期金利や資産価格は経済状況の予想や将来収益によって左右されコントロールが難しいが、
短期金利は経済状況を所与として短期資金の需給によって決まるためコントロールがしやすい

❷資産の相対価格が変動するという副作用を回避できるため
…オペレーションの対象企業の株価などが変動することは望ましくなくそれを回避できる

❸中央銀行が保有する資産のリスクを低く抑えることができるため
…短期国債は万期が短いため金利変動に伴う価格変動が小さく信用リスクも小さい


1-12. 金利の期間構造
…金利と債券期間の関係
→現在の長期金利は将来の短期金利の期待値に基づいて決まる
→短期金利の操作がどのように経済に影響を及ぼすかを考える

→今日の2日物金利 = 今日の1日物金利 × 明日の1日物金利
$${(1+r^2_2)^2 =(1+r^1_t)(1+r^1_{t+1})}$$

………

$${(1+r^T_t)^T =(1+r_t)(1+r_{t+1})…(1+r_{t+T-1})}$$より

$$
r^t_t= \frac{r_t+r_{t+1}+…r_{t+T-1}}{T}
$$

→民間部門の将来短期金利予想で決まる、
$${r_1}$$が下がる → $${r_2}$$ が下がる → … → $${r_t}$$ が下がる
→この関係はT年物金利にも拡張できるため長期金利にも影響が及ぶと考えられる
→中長期金利が下がる → 資産価値が上がる → 総需要ADが増える


1-13. 公定歩合操作
…中央銀行が民間銀行に対して貸付を行う際の金利を操作する
中央銀行からの借入れを増減させることで顧客への貸出を増減させる
現在の日銀貸付制度はロンバード貸付とも呼ばれ短期金利より高い金利で貸し付ける


1-14. 準備率操作
…中央銀行が準備率を操作する
民間銀行が積むべき準備預金を増減させることで顧客への貸出を増減させる
銀行部門にのみ作用するため銀行以外の金融機関が発達している現在では歪みを生じさせる


1-15. 伝統的措置
…最適な金利水準へ導く、コールレート操作
→マネーストック増加→インフレ率上昇・マネーストック減少→インフレ率下落
→マネーストックと経済活動の関連性低下
→中央銀行の独立性が高まる、説明責任や透明性を担保する制度への見直し
❶インフレターゲットの登場❷政策金利❸コリドー制(貸出金利と借入金利の差) ❹預金準備率の変動
❺公開市場操作を通じたマネーサプライ操作


1-16. 非伝統的措置
…ギリシャ危機など非常事態に対応
❶信用緩和(国債や社債、MBS を含む資産購入)❷量的緩和(マネタリーベースを拡大し市場に資金投入)
❸受け入れ担保基準の緩和❹フォワードガイダンス(政策変更の条件を示す) ❺LTRO(長期資金供給オペ)
❻TLTRO(貸出条件付き長期資金供給オペ❼ELA(緊急流動性措置)


1-17. 財政政策
…中央政府が増税・国債発行で政府支出を増やす


1-18. 為替介入
…中央銀行が財務省から委託されて為替レートを操作する

円高を予測すれば円売り介入を行う、円資金を受け取るため、円のマネーストックは増加
→同時に売りオペを行うことで円を回収し円のマネーストック増加を防ぐ
→介入したかどうかは国際収支統計の外貨準備で確認、中国、台湾、韓国、日本、ドイツに気をつけろ

・不胎化介入
…公開市場操作を伴う為替介入
→マネーサプライへの影響を生じさせない別の取引を行う(ドル買い円売り→売りオペで貨幣供給吸収)
→不胎化しない介入の方が効果がある

・非不胎化介入
…公開市場操作を伴わない為替介入


1-19. 補完貸付制度
…中央銀行が金融機関等の借入申込みを受けたら実行される貸付制度
→基準貸付利率は2008年に0.3%に引き下げられて以来変更されていない


1-20. 補完当座預金制度
…中央銀行が受け入れる当座預金のうち超過準備に利息を課す制度
→2008年に導入、短期利子率の暴落・短期金融市場の機能不全を防ぐため
→マイナス金利政策の導入とともに役割が大きく変化
企業が0.1%で稼げると思っていた民間銀行同士では平均値が低い可能性
→0%では取引がなくなりリスクが発見できない


1-21. 金融政策の物価安定プロセス
…金融政策、マネタリーベースHが変わる
→短期金利rが変わる・長期金利rが変わる
→投資・借入が変わる
→マネタリーベースが変わる・モノ・サービスの生産消費が変わる
→物価が変わる
→信用創造と貨幣の需給均衡を考える


1-22. 信用創造
…銀行が貸し借りを通じて、貨幣を何倍にも膨らませること

→預金→貸付→支払い→預金のサイクル
→買いオペで短期金利が低下するものの銀行全体の預金量は変化していない
→超過準備を抱えて比較的高い金利収入を得ようと貸付を増加させて信用創造は始まる

〈ステップ〉
・日本銀行が国債を買う
…マーケットに貨幣が出回る、企業・個人へ
→企業・個人が銀行Aに預金する
→銀行Aが企業1に1億円を貸し付ける
→企業1は融資された資金で企業2から機械を購入、
企業2は取引銀行の銀行Bに売上を預金する
→銀行Bで預金が増加する、他の銀行でその分預金が減少しているというわけではなく、銀行全体で新たに預金が1億円増加している

→銀行Bは増えた資金1億円から必要準備r億円を積んで、
残り(1ー r)億円を企業3に貸し付ける
→企業3は融資された資金で企業4から機械を購入、
企業4は取引銀行の銀行Cに売上を預金する

→銀行Cは増えた資金(1ーr)億円から必要準備を除いた(1ーr)^2 億円を企業5に貸し付ける
→企業5は企業6に工事を依頼、企業6は取引銀行の銀行 D に売上を預金する

→これらが繰り返されることで1億円が合計として1/r億円の預金を作り出す
企業が預金以外に現金を保有しようとすると銀行部門全体に流れる資金量が減少し、信用創造乗数は低下する


1-23. 貨幣の需給均衡
…物価の決定プロセス
→貨幣の需要・供給を考える

$${貨幣需要MD = L(Y,i) + MDショック}$$
$${貨幣供給MS = \frac{H}{r} + MSショック}$$
→均衡、$${L(Y,i) + MD ショック = \frac{H}{r} + MSショック}$$

・MDショックが起きた時の金利の変化
…金利・所得の変化・政治の不安定化によって、金利は上がる

・MSショックが起きた場合の金利の変化
…金融政策・貨幣発行量の変化によって、金利は下がる


1-24. 金利目標下におけるケース
…目標金利が低下→貨幣量増加→消費・投資増加→総供給 AS 増加→産出量Y 増加
→金利低下は貯蓄のメリットを低下させるとため消費が増加する可能性が高い、短期的に見れば価格は硬直的でモノ・サービスの供給は需要に対応して増加する
→金融政策はマクロ経済に対して少なくとも短期的には影響を及ぼすと考えられる


2.マネタリー政策 60項目

2-1. マネタリー政策
…経済の物価・雇用がいい感じになるように中央銀行がカネの量を調節する
→需要Dと供給Sを考える


2-2. 伝統的マクロ経済学でマネタリー政策を考える
→新古典派経済学による金融政策・財政政策、 AD-AS分析
→オークンの法則・フィリップス曲線、新古典派経済学による金融政策・財政政策の妥当性
→ケインズ派経済学による金融政策・財政政策、IS-LM分析
→自然失業率仮説、ケインズ派経済学による金融政策・財政政策の無効性
→ルーカス批判、伝統的マクロ経済学による金融政策への批判
→新ケインズ派経済学による金融政策、インフレターゲティングなど
→日本のデフレ、ゼロ金利政策・量的緩和政策・マイナス金利政策・金融危機後


2-3. 総需要、AD
…企業・個人がそれぞれの物価の下で買おうとするモノ・サービスの総量
→AD曲線


2-4. 総供給、AS
…企業・個人がそれぞれの物価の下で作って売ろうとするモノ・サービスの総量
→AS曲線


2-5. 市場原理
…神の見えざる手によって自然と需要供給・価格の調節が適切に行われる


2-6. 神の見えざる手
…自然と需要供給・価格の調節を適切に行う市場メカニズム


2-7. なぜAD曲線は右下がりなのか?

・ピグー効果
…名目価値が固定されているため物価上昇で貨幣価値が減少するとモノ・サービスの需要は減少

・貨幣数量方程式による説明
…物価P上昇で$${\frac{M_s}{P}}$$が減少すると$${GDP_y}$$は減少

・ケインズの利子率効果
…ISLM分析による説明


◯新古典派経済学

…市場原理は完璧で、価格は需要供給から適切に決まる
→AD-AS分析、❶労働市場の均衡❷資本市場の均衡❸貨幣市場の均衡❹貸付市場の均衡

2-8. 新古典派経済学の結論
・貨幣量を変えると物価だけが変わる、貨幣量を変えてもGDP・失業率は変わらない
・GDP・失業率が変化しても物価は変わらない
・失業率が変化しても GDPは変わらない、総供給を変えればGDPは変わる
・金利は投資・貯蓄の均衡で決まる
→景気を良くするには金融政策・財政政策はほぼ必要ない
→物価を安定させるためには必要最小限の貨幣量を供給するだけでいい、
失業率を低くするためには何もしなくていい、失業は何も影響しないし勝手になくなる


2-9. ❶労働市場の均衡
…企業の利潤最大化・労働者の効用最大化から考える

・企業の利潤最大化、$${max[P_y-K-w_L]=F(K,L)}$$
…労働需要$${L_d}$$を考える
→物価P、賃金w、資本K
→生産関数$${Y=F(K,L)}$$の下で利潤$${π=P_y-rK-w_L}$$を最大化、接点を求める、限界生産力$${MPL=w}$$となる

$${F(K,L)=2K^{\frac{1}{2}} L^{\frac{1}{2}}}$$
$${MPL=(\frac{K}{L})^{\frac{1}{2}} =w}$$

$$
L_d=\frac{k}{w^2}
$$


・労働者の効用最大化、$${max[u(C,24-L)]=wL+rK}$$
…労働供給$${L_s}$$を考える
→物価P、賃金w、資本所得
制約線$${PC=wL+K}$$ の下で効用$${u(C,24-L)}$$を最大化、接点を求める
労働余暇の限界代替率$${MRS=相対価格=\frac{1}{w}}$$

$${max[u(C,24-L)]=logC+log(24-L)}$$
$${MRS = \frac{Δu}{ΔC} = \frac{24-L}{C} = \frac{1}{w}}$$
$${Δu=\frac{1}{C},  ΔC=\frac{1}{24-L}}$$
$${C=wL+rK}$$を代入し、$${wL+rK=24w-wL}$$

$$
L_s=12-\frac{rK}{2w}
$$


・労働市場の均衡
…労働需要$${L_d}$$と労働供給$${L_s}$$の均衡
→労働雇用量L*は物価Pが変わっても変化しない
労働需要・労働供給はともに賃金wの関数であるため


2-10. ❷資本市場の均衡
…企業の利潤最大化から考える
→物価 P、賃金w、資本K
生産関数$${Y=F(K,L)}$$の下で利潤$${π=Py-rK-wL}$$を最大化、接点を求める
限界資本生産力$${MPK(K,L)=レンタル価値r}$$
→資本需要$${K_d}$$は右下がり

・資本供給$${K_s}$$は一定
…レンタル可能な資本はレンタル価格に関係なく前期までの投資の蓄積である
→資本使用量K*は一定


2-11. ❸貨幣市場の均衡
…貨幣数量説から貨幣需要$${M_d}$$・貨幣供給$${M_s}$$ を考える

・貨幣数量説
…物価は貨幣量・貨幣の流通スピードで決まるという仮説

→交換方程式 $${貨幣の取引総額=M_sV=PT=M_d}$$
貨幣需要Ms、貨幣の流通速度V、物価P、取引量T

TをGDPyに置き換えられると考え、$${M_sV=Py=M_d}$$
→貨幣の流通速度Vが一定のとき、GDPyは一定であるため
貨幣供給$${M_s}$$が増えれば物価Pは上がる、貨幣供給$${M_s}$$が増えれば貨幣価値$${\frac{1}{P}}$$は下がる

・貨幣供給$${M_s}$$は一定
…中央銀行が決定して行っているため


2-12. ❹貸付市場の均衡
…投資I、貯蓄Sはともに金利rの関数
→金利rは投資Iと貯蓄Sの均衡

・投資 I の意思決定
…将来のリスクリターンを収益率から考え、コストを金利から考える
→収益率≧金利rのとき投資を行う
→限界収益率qは投資が増えると低くなる、無数の投資プロジェクトが存在するため
→均衡は限界収益率q=金利r
→投資関数、投資Iと限界収益率q=r
→金利rに応じて投資Iが決まり、金利rが下がるとより収益率の低い投資Iが追加で行われる
→投資関数は右下がりとなる

・貯蓄Sの意思決定
…消費C、$${S=y-C}$$となるため、今期の貯蓄Sは今期の消費Cで決まる
→今期の消費$${C_1}$$は将来の消費$${C_2}$$との兼ね合いで決まる
→2期間モデルにおける効用最大化、現在の消費・将来の消費を別のモノとして捉える
→2期間の予算制約式の下で、2期間の効用関数を最大化、接点を求める

ⅰ) 現在の生産量$${y_1}$$、現在の消費$${C_1}$$、将来の生産量$${y_2}$$、将来の消費$${C_2}$$、金利r 
現在の予算制約式 $${y_1=C_1+S}$$
将来の予算制約式 $${y_2+(1+r)S=C_2}$$より、 $${S=\frac{c_2}{1+r}- \frac{y_2}{1+r}}$$
→2期間の予算制約式 $${y_1+\frac{y_2}{1+r}=C_1+\frac{C_2}{1+r}}$$ …(a)

ⅱ) 時間選好率θより
→2期間の効用関数 $${u(C_1,C_2)=u(C_1)+\frac{u(C_2)}{1+θ}}$$

i) ii)より効用最大化、$${max[u(C_1) + (1+r) \frac{u(y_1-C_1)}{1+θ}+y_2]}$$
→接点を求める、$${u’(C_1)+ (1+r)\frac{u’(c_2)}{1+θ}=0}$$
→オイラー方程式より $${ \frac{u’(C_1)} {(1+r)\frac{u'(c_2)}{1+θ}}=1+r}$$
→$${(\frac{c_2}{c_1})^λ=\frac{1+r}{1+θ}}$$ …(b)

→貯蓄関数、(a)(b)より$${y_2}$$=0 として、現在の消費$${C_1}$$・貯蓄Sを表す

$$
C_1=\frac{(1+θ)^{\frac{1}{λ}}} {(1+θ)^{\frac{1}{λ}}+(1+r)^{\frac{λ-1}{λ}}} y_1
$$

$$
S=C_1-y_1=- \frac{(1+r)^{\frac{λ-1}{λ}}} {(1+θ)^{\frac{1}{λ}} + (1+r)^{\frac{λ-1}{λ}}} y_1
$$

→最適な貯蓄S*は金利rの関数となり、微分して傾きを求めると、
λ<1 のとき貯蓄関数は右上がりとなる
λ>1 のとき貯蓄関数は右下がりとなる


2-13. オークンの法則・フィリップス曲線
…新古典派経済学による金融政策・財政政策の妥当性を考える


2-14. オークンの法則
…失業率uが上がるとGDPyは低くなる・経済成長率は下がる
→短期的にはGDPyは大きく変動する


2-15. フィリップス曲線
…物価と失業率の関係を示す曲線
→フィリップス曲線は右下がりになる
→失業率uが上がると物価Pは下がる、物価Pが上がると失業率 u は下がる
→短期的にはAS曲線は右上がりとなる


2-16. 需要供給に対するショック

・デマンドショック
…総需要を大きく変えるイベント
→オイルショック
→原油価格が 4 倍に上昇、企業の限界費用上昇
→AD曲線が左へシフト
→スタグフレーション、物価上昇・GDP 低下

・サプライショック
…総供給を大きく変えるイベント
→バブル崩壊、株価・地価の暴落
→消費税増税・金融不安で貯蓄増加、企業の投資減少
→AS曲線が左へシフト
→デフレスパイラル、物価下落・GDP 低下


◯ケインズ派経済学

…市場原理は完璧でなく、価格は一度上がると下がりにくい
→IS-LM 分析、❶モノ市場の均衡❷貨幣市場の均衡❸ISLM 分析❹賃金の価格硬直性

2-17. ケインズ派経済学の結論
・貨幣量を変えると物価だけでなく失業率も変わる、総需要の変動を通して
・失業率が変化すると GDP は変わる、需要を変えれば GDP は変わる
・金利は貨幣需要・貨幣供給の均衡で決まる
→景気を良くするには金融政策・財政政策が必要
→物価を安定させるためには金利を上げる・貨幣供給を増やす・政府支出を減らす
失業率を低くするためには投資が増えるように金利を下げる・物価を上げる


2-18. 短期のマクロ経済では物価は硬直的
→貨幣供給$${M_s}$$を変えると金利rが変わる、資産価格は瞬時に変化し物価は変わらないため


2-19. 長期のマクロ経済では物価は伸縮的
→貨幣供給$${M_s}$$を変えると物価Pが変わる、金利rは変わらないため


2-20. ❶モノ市場の均衡
…有効需要・45°線分析から考える、IS曲線の導出
→消費関数 $${C=C_0+a(y-t)}$$
→可処分所得(y-t)が増加すると消費Cは増加、$${0<\frac{ΔC}{Δy}}$$
→ΔcはΔy より小さい、$${0<\frac{Δc}{Δy}<1}$$
→限界消費性向$${MPC=\frac{Δc}{Δy}}$$、平均消費性向$${APC=\frac{C}{y-t}}$$

・有効需要
…マクロ経済全体で見た総需要を考える
$${AD=C+I+G, C=C_0+a(y-t)}$$
$${AD=C_0+a(y-t)+I+G}$$

→モノ市場が均衡している、I=Sより総需要AD=GDPy、$${y=C_0+a(y-t)+I+G}$$
→$${y=\frac{(C_0-at+I+G)}{1-a}}$$

・乗数プロセス
…需要の増加自体だけでなく可処分所得・消費の増加も需要の増加につながる
→乗数は$${\frac{1}{1-a}}$$

・IS曲線
…モノ市場が均衡するときの、金利rとGDPyの関係を表す曲線

→消費関数$${C=C_0+a(y-t)}$$、投資関数$${I=I_0-br}$$、政府支出$${G_0}$$、rは貨幣市場の均衡で決まる
→投資の利子弾力性b、投資Iは金利rの関数であるため金利rが変わるとGDPyは変わる

$${y=C_0+a(y-t)+I_0-br+G_0}$$
$${br=-(1-a)y-at+C_0+I_0+G_0}$$

$$
r=-\frac{1-a}{b}y + \frac{C_0+I_0+G_0}{b} -\frac{a}{b}t
$$

→$${-\frac{1-a}{b}}$$、右下がりの曲線
金利r低下 → 投資I増加 → 生産=GDPy増加
→財政政策でシフト、政府支出Gを増やすことで総需要AD=GDPyが高くなる


2-21. ❷貨幣市場の均衡
…流動性選好説・貨幣需要の動機から考える、LM 曲線の導出
→交換方程式を考える、$${M_sV=Py=M_d}$$
→ケンブリッジ方程式、$${M_s=kPy=M_d}$$
貨幣需要の所得弾力性k、マーシャルの k
→物価Pは一定であるため、貨幣供給$${M_s}$$が増えればGDPyは増える

・流動性選好説
…人は将来の支払いに備えるために、最も流動性の高い貨幣を持ちたがるという説

→利息は流動性の高い貨幣を手放して流動性の低い資産を持つことへの報酬
→人が持つ資産の流動性は金利で決まる、金利rが下がると貨幣需要$${M_d}$$ は増える

・貨幣需要の動機
…人が貨幣を欲しがる動機

❶取引動機、モノの取引に使用したい
❷予備的動機、将来の不確実な支払いに備えたい
❸投機的動機、株式・不動産で貨幣を増やしたい
→GDPy が増えると❶❷の貨幣需要 kPy は増える、
金利rが下がると❸の投機需要jPrは増える
→流動性のわな、金利rが0%に近づくと誰も株式・不動産ではなく貨幣をもちたがる

・貨幣供給$${M_s}$$は一定
…中央銀行が決定して行っているため

・LM 曲線
…貨幣市場が均衡するときの、金利rとGDPyの関係を表す曲線

→ケンブリッジ方程式に貨幣需要の動機を考慮する、
$${M_s=kPy+jPr=M_d}$$
貨幣需要の所得弾力性k、投機需要の利子弾力性 j

$${M_s=kPy+jPr}$$

$$
r=\frac{k}{j}y-\frac{1}{j}\frac{M_s}{P}
$$

→$${\frac{k}{j}}$$、右上がりの曲線
金利r上昇 → 投機需要減少 → 貨幣市場の超過供給 → GDPy高くなる
→金融政策・物価変動でシフト、物価Pが低くなる・貨幣供給$${M_s}$$を増やすことでGDPyが高くなる、金利rを低くすることで物価Pが低くなる


2-22. ❸IS-LM 分析
…金融政策・財政政策の効果を分析する

・金融緩和、貨幣供給$${M_s}$$を増やすと、金利rが下がる・GDPyが高くなる
・金融引締、貨幣供給$${M_s}$$を減らすと、金利 r が上がる・GDPyが低くなる
・拡張政策、政府支出Gを増やすと、金利rが上がる・ GDPyが高くなる
・緊縮政策、政府支出Gを減らすと、金利rが下がる・ GDPyが低くなる

・限界消費性向aが大きい・投資の利子弾力性bが大きい
…IS曲線の傾きが水平になる
→金融政策でGDPyが高くなりやすい

・貨幣需要の所得弾力性kが小さい・投機需要の利子弾力性jが大きい
…LM 曲線の傾きが水平になる
→財政政策でGDPyが高くなりやすい

・流動性のわな
…金利rが0%に近づくと誰も株式・不動産ではなく貨幣をもちたがる
→金融政策あんま意味ないじゃん

・クラウディングアウト効果
…拡張政策で金利rが上昇することにより投資が減ってGDPyがそこまで高くならない現象
→財政政策あんま意味ないじゃん


2-23. ❹賃金の価格硬直性
…IS-LM分析と労働市場からAS曲線を考える

・価格硬直理論
…法制度や手続きの関係上、賃金はすぐには調整されないという理論

→賃金wは下限以下に下がらない
→賃金wの下限が高いと労働供給が超過し非自発的失業が発生
→物価Pの上昇は賃金wを引き下げ雇用が増えるためGDPyは高くなる
→AS曲線は右上がり

・賃金wが伸縮的な企業
…賃金wを現在の物価PとGDPyに応じて瞬時に調整する
→$${wf=P+α(y-y')}$$

・賃金wが硬直的な企業
…賃金wは前もって決定され過去の期待値に応じた価格となる
→$${wr=E[P]+αE[y-y'],  αE[y-y')]=0}$$
→賃金wが硬直的な企業群のウェイトω
$${P = ωwr+(1−ω)wf = ωE[P]+(1−ω)(P+α(y-y’))}$$
→$${P = E[P]+\frac{1-ω}{ω}α(y-y')}$$
→$${y=y’+\frac{1-ω}{ω}α(P−E[P])}$$


2-24. 自然失業率仮説
…ケインズ派マクロ経済学による金融政策・財政政策の無効性を考える


2-25. 自然失業率 u*
…物価・インフレの影響を受けない長期的な失業率

→自然失業率は業界構造・各職業への就きやすさ・職業への選好度で決まる
→物価・インフレなどの貨幣的要因からは独立している

❶構造的失業、業界構造で生まれる失業
❷摩擦的失業、転職・就職に時間がかかるため生まれる失業
❸季節的失業、季節的な要因で生まれる失業


2-26. 自然失業率仮説
…長期的には失業率uは物価・インフレの影響を受けないという仮説

→貨幣供給$${M_s}$$を増やして物価Pを上げても失業率uは自然失業率u*以下には下がらない
→自然失業率u*以下の失業率を狙った金融政策ではインフレが起こるだけ


2-27. 貨幣錯覚
…名目賃金の変化を実質賃金の変化と勘違いすること、物価変動は気づきにくいため
→貨幣供給 Ms を増やす、物価 P・名目賃金 w 上昇
→実現インフレ率πが期待インフレ率$${π_e}$$よりも大きいとき、期待が外れている
→短期的には貨幣錯覚の作用により失業率uは下がって自然失業率u*より小さくなる$${u=u^*−α(π−π_e)}$$
フィリップス曲線の式の形に変形すると$${π=\frac{1}{α(u^*−u)}+π_e}$$
→長期的には物価Pの上昇・実質賃金が変わっていないと気づく、期待が当たる
→働いている人のうち一定割合が自発的失業に戻り失業率uは自然失業率 u*に戻る
→景気が変動したから政策を実施しているのではなく、政策を実施したから景気が変動している
→貨幣錯覚が起こらないように金融政策・財政政策を行えばよい


2-28. k%ルール
…貨幣供給の増加率を一定にしそれを公言して実行する
→期待インフレ率もそれにしたがって変化する、貨幣錯覚が起こらず景気・失業率が安定する
→貨幣供給$${M_s}$$を増やす、物価P・名目賃金w上昇
→物価P上昇・実質賃金が変わらないは予想済み
→失業率uは自然失業率u*から変化しない
→金融政策・財政政策は短期・長期で無効なのか?
→期待の変化でフィリップス曲線はシフトする、物価安定は実現できるのでは?


◯ルーカス批判 

…伝統的マクロ経済学による金融政策評価を批判
→期待インフレ率$${π_e}$$の影響を見逃している
→人々がシステムの法則を知っているとそれに合わせて人々の行動が変わる
→❶合理的期待と政策無効性❷損失関数と政府のゲーム❸時間不整合性とコミットメントの必要性

2-29. スタグフレーション
…物価が高く失業率も高い状態


2-30. 金融政策のクレディビリティを1970年代アメリカのスタグフレーションから考える
…アメリカでは固定レートでの金ドル互換制度を実施、プレトンウッズ体制が物価のノミナルアンカー
→制度維持のために物価安定が求められたが変動為替制度が定着してくると、物価安定を目標に政策を予告してもクレディビリティが低くなりつつあった
→さらに政治的人気取りのために低失業率を要求されることが多く、
これを人々が認知するとインフレ率上昇という情報を期待して行動を決定した
→スタグフレーションに陥る
→ルーカス批判


2-31. 低インフレ・失業率低下という 2 つの政策が併存
…制度維持と人気取りという点からまず低インフレを優先するインセンティブが生じる
→人々がそれを信用して低インフレを期待して行動すれば低インフレとなる
→物価が安定すると今度は失業率を低めるために金融緩和を行うインセンティブが生じる
→目標とする失業率が低すぎれば金融緩和は過剰となりインフレを招く


2-32. ❶合理的期待と政策無効性

・合理的期待
…人は利用可能な情報の下で将来への最適な期待を持つ

→合理的期待の下では政府の金融政策は人々に正確に予想される
→企業は実際の物価上昇の前に物価上昇への期待から自社の価格を引き上げる
→合理的期待の下で金融政策は即座は物価水準 P だけに影響し GDPy には影響しない

・インフレの分散とフィリップス曲線
…過去のインフレの分散が大きい国ほど貨幣錯覚の修正が速やかである
→過去にインフレの分散が大きい国ほどフィリップス曲線は垂直


2-33. ❷損失関数と政府のゲーム
…政府は適度なインフレ率π・できるだけ低い失業率uを実現したい

・損失関数
…インフレ率・失業率の望ましさを表す関数
→$${L=(u−u’)^2+α(π−π’)^2}$$
→短期フィリップス曲線、u=u0−kπ の下で損失最小化、接点を求める

ⅰ) 自然失業率仮説とフィリップス曲線
…人々の期待インフレ率$${π_e}$$は自然失業率u*に対応するインフレ率となる
→実現インフレ率πが期待インフレ率$${π_e}$$を上回ると、
人々のインフレ期待は修正され短期フィリップス曲線はシフトする
→人々のインフレ期待が正しいとき(π=$${π_e}$$のとき)、自然失業率 u*が実現
→予期されないインフレだけが失業率uを自然失業率 u*以下に下げる
$${u=u*−α(π−{π_e})}$$
→期待インフレ率$${π_e}$$の上昇により短期フィリップス曲線は上方にシフトする

ⅱ) 近視眼的な政府の行動
…政府は人々のインフレ期待が変化しない短期の間だけ目標が実現すればよいと考える
→次の選挙までの間だけ物価安定・低失業率が維持できればよいと考える
→人々はこれに対応し短期フィリップス曲線はシフトしないと考えて損失最小化を考える

・人々の期待インフレ率$${π_e}$$が低いとき
…短期フィリップス曲線は低い位置にある
→政府にとって多少インフレ率が高まっても失業率を低くするほうが損失が小さくなる
→実現インフレ率πは期待インフレ率$${π_e}$$を上回ることとなる
→人々の期待インフレ率$${π_e}$$は上方に修正される

・人々の期待インフレ率 πe が高いとき
…短期フィリップス曲線は高い位置にある
→政府にとってさらにインフレ率が高まるコストが大きくなるため、
失業率を低くするインセンティブが小さくなる
→政府の最適インフレ率π’が人々の期待インフレ率$${π_e}$$と等しくなる可能性

ⅲ) 政府と人々のゲーム
…政府の戦略、低インフレ政策(長期的に望ましい)、低失業率政策(短期的に望ましい)
人々の戦略、低インフレ予想、高インフレ予想
→政府にとって低失業率政策は高インフレ予想への最適反応
人々にとって高インフレ予想は低失業率政策への最適反応
→(政府、人々)=(低失業率政策、高インフレ予想)がナッシュ均衡


2-34. ❸時間不整合性とコミットメントの必要性

・時間不整合性
…時間が経つと最適な行動が変化して互いに矛盾するものとなる

→初めは低インフレ政策が望ましいものの、時間が経つと低失業率政策が望ましくなる
→時間が経っても初めの最適行動をとるというコミットメントが効果的
→インフレターゲットなど


2-35. アレーシナらの実証研究
・中央銀行の独立性が低いほどインフレ率が高い
…中央政府の機会主義的な介入で低失業率政策が実施される危険性
→個々の政治家にとっては低インフレ政策(全ての選挙区で有用)・財政支出(ピンポイント有用)
→個々の政治家は長期的にあまり意味のない財政支出の増額を要求
→多額の財政支出と大幅な高インフレがもたらされる
→インフレ率くらいにしか関心のない中央銀行が金融政策の主体になるべき

・政権が長期で安定しているほどインフレ率が低い
…短期的な人々を欺いて得る利益より長期的な人々を欺いて失う損失の方が大きくなるため


◯ニューケインジアン 

…期待によって人々の行動が変化することを取り入れる
→期待の存在こそが自然現象の予測と比べて経済予測を難しくしている
現在の行動が期待を変化させ、期待がさらに現在の行動に影響を与える

→この期待を現在において利用可能な情報でいかに表現するかを考える必要
→将来への期待が過去・現在の変数(データ)で表現されればよい
将来の変数の決まり方は現在の変数の決まり方と同じだと仮定
→❶期待IS 曲線❷期待フィリップス曲線❸金融政策ルール

2-36. ニューケインジアンの結論
・生産が増えると物価が上がる
・金利が上がると需要が減る
・物価・生産が高まると政策金利が引き上げられる
→デマンドショックのとき、金融政策によって物価と GDP を安定化することができる
サプライショックのとき、金融政策で物価を安定させるほど GDP が不安定化せざるを得ない

→将来の金融政策について公表しコミットメントできるなら、人々の将来のインフレ率に対する期待に影響を及ぼすことで状況を改善できる


2-37. ❶期待IS曲線
…人々は期待される将来の消費$${E[C_{t+1}]}$$・GDP$${E[y_{t+1}]}$$に基づいて、現在の最適な消費$${C_t}$$・投資$${I_t}$$を決める
→現在のGDP$${y_t}$$は、期待される将来のGDP$${E[y_{t+1}]}$$と、
現在と将来のモノの相対価格である金利$${E[r_{t+1}]=r_{t+1}−E[π_{t+1}]}$$
から決まる

$${y_t = α_1E[y_{t+1}] − α_2(r_{t+1}−E[π_{t+1}]) + ξ}$$ …(a)


2-38. ❷期待フィリップス曲線
…価格硬直性より各企業は将来のインフレ率$${π_{t+1}}$$を見越して現在の価格を決める
→現在のインフレ率$${π_t}$$は将来の期待インフレ率$${E[π_{t+1}]}$$と現在のGDP$$y_t}$$から決まる

$${π_t = β_1y_t + β_2E[π_{t+1}] + ξ}$$ …(b)


2-39. ❸金融政策ルール

・テイラールール
…インフレ率・GDP ギャップから政策金利の誘導目標を決める金融政策ルール

→政策金利=実現インフレ率+金利+0.5×(実現インフレ率-目標インフレ率)+0.5×GDP ギャップ

$${r_{t+1}= π_t + r_t + 0.5×(π_t−π*) + 0.5×(y_s−y_d)}$$

→GDPギャップ1%増加 → 政策金利0.5%引き上げ → インフレ率1%上昇 → 政策金利1.5%引き上げ
→政策金利と短期金利を比較して再検討する
政策金利<短期金利、金融を引き締めすぎではないか
政策金利>短期金利、金融を緩和しすぎではないか

・テイラールールでは金利rはインフレ率πの上昇以上に引き上げられる
…もしインフレ率πが目標インフレ率π*を上回るならば金利rは自然金利r*を上回る
→テイラールールを(a)に代入して(b)と合わせてVARモデルを考える
$${\begin{pmatrix} 1+α_2t_1 & α_2t_2 \\ -β_1 & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} π_t\\ y_t \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} α_1 & α_2 \\ 0 & β_2 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} E[π_{t+1}]\\ E[y_{t+1}] \end{pmatrix}}$$

→現在のインフレ率$${π_t}$$・GDP$${y_t}$$は将来のインフレ率 $${E[π_{t+1}]}$$・GDP$${E[y_{t+1}]}$$とショックξで決定

$${\begin{pmatrix} π_t\\ y_t \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1+α_2t_1 & α_2t_2 \\ -β_1 & 1 \end{pmatrix}^{-1} \{ \begin{pmatrix} α_1 & α_2 \\ 0 & β_2 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} E[π_{t+1}]\\ E[y_{t+1}] \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} ξ_π \\ ξ_y \end{pmatrix}\}}$$

→この式を順次代入していくと、
→現在のインフレ率$${π_t}$$・GDP$${y_t}$$は遠い将来のインフレ率 $${E[π_{t+n}]}$$・GDP$${E[y_{t+n}]}$$とショックξで決定

$${\begin{pmatrix} π_t\\ y_t \end{pmatrix} = (S^{-1}H)^n \begin{pmatrix} E[π_{t+n}]\\ E[y_{t+n}] \end{pmatrix} + S^{-1} \begin{pmatrix} ξ_π \\ ξ_y \end{pmatrix}}$$

→$${\lim_{n \to \infty}(S^{-1}H)^n \begin{pmatrix} E[π_{t+n}]\\ E[y_{t+n}] \end{pmatrix}=0}$$となるため
$${\begin{pmatrix} π_t\\ y_t \end{pmatrix} = S^{-1} \begin{pmatrix} ξ_π \\ ξ_y \end{pmatrix}}$$となる

→過去の影響を含むVARモデルを考えると現実に近いのか?
$${\begin{pmatrix} π_t\\ y_t \end{pmatrix} - A^{-1} \begin{pmatrix} π_{t-1}\\ y_{t-1} \end{pmatrix} = S^{-1} \{\begin{pmatrix} E[π_{t+1}]\\ E[y_{t+1}] \end{pmatrix} - A^{-1} \begin{pmatrix} E[π_{t-1}]\\ E[y_{t-1}] \end{pmatrix}\} + S^{-1} \begin{pmatrix} ξ_π \\ ξ_y \end{pmatrix} }$$

$$
\begin{pmatrix} π_t\\ y_t \end{pmatrix} = A^{-1} \begin{pmatrix} π_{t-1}\\ y_{t-1} \end{pmatrix} + S^{-1} \begin{pmatrix} ξ_π \\ ξ_y \end{pmatrix}
$$

→推移行列式・定常値は金融政策を変更したときの人々の期待変化に応じて、物価・GDP がどう変化するかを具体的に求められる
→現在のインフレ率・GDPは過去のインフレ率・GDPにランダムな変化が加わって決まるだけなのか?


◯デフレと超金融緩和

…現代の日本ではデフレが続いたため特殊な金融政策を迫られた

2-40. バブル崩壊、1990年代初め
…段階的に利上げ
→経済低迷が続きデフレとなった

→ゼロ金利政策を導入
→それでも経済低迷から抜け出せずさらにデフレに陥った

→量的緩和政策を導入、通常では金利水準を目標にして運営されるが、
ここでは日銀当座預金残高量を目標にして運営された
→大量の国債を買う民間銀行に対して必要準備を遥かに上回る大量の日銀当座預金を供給し、マーケットでの借り手をゼロにすることで金利は 0%となった
→この極端な緩和をデフレが収束するまで継続すると約束し、中長期金利の低下をもたらすことで景気回復が推進されると期待された
→民間銀行は多くの不良債権を抱えて機能不全に陥り、企業は過剰債務を抱えていたため、大規模なマネタリーベースの供給にも関わらず融資が増えずマネーストックは増えない
→それでも経済低迷から抜け出せずさらにデフレに陥った

→量的質的金融緩和政策を導入
→デフレから抜け出せそうだが物価が上がらない
→マイナス金利を導入、実質金利をマイナスにしてゲゼルタックスを実施すべき、貯蓄が投資に向かえば良いが現金保有に対して課税する制度を整えるコストが大きい


2-41. ゼロ金利政策
…短期金利をほぼ 0%に近い水準まで下げて、その上に大量のマネタリーベースを供給して、マネーストック増加を図る

→短期金利はほぼ0%で民間銀行は超過準備を保有
→日本銀行が準備の供給を増やしても民間銀行の預金に影響はなかった
→マネタリーベースHに関する流動性のわなに陥ったのでは?


2-42. 流動性のわな状態になると貨幣需要は定まらない
…貨幣供給$${M_s}$$が増えても金利rは変わらない
→投資I・消費Cも変わらない
→総需要AD=GDPyも変わらない
→LM曲線が水平となっている状態


2-43. ゼロ金利制約
…金利は貨幣の収益率である0%以下には下がらないのでは?という考え
→実際は現金の取引コストは当座預金より大きい
→当座預金金利がマイナスになっても当座預金の需要は 0 にならない
→中央銀行は当座預金金利ならマイナスにできるのでは?
→民間銀行にとっては大量の引き出しが予想される
→当座預金金利をマイナスにできるのか?
→テイラールールとインフレ率の時間的推移から考える
→$${E[π_{t+1}]}$$は0より小さくなるため、
$${E[π_{t+3}]={E[π_{t+4}]=……=-2.0\%}$$

❶ゼロ金利制約がない場合
…中央銀行の目標インフレ率だけが人々の合理的期待と整合的
→中央銀行は自由にインフレ率πをコントロールできる

❷ゼロ金利制約がある場合
…中央銀行の目標インフレ率以外に自然金利と等しいデフレ状態も合理的期待と整合的
→デフレ状態でゼロ金利制約に拘束されるため経済はデフレ状態から抜け出せない


2-44. 金利$${r_{t+1}}$$は常に-2.0%で変わらないとすると、
テイラールールは$${E[π_{t+s}]−2.0=1.5^s × (π_t−2.0)}$$
→現在のインフレ率$${π_t}$$が2.0%を超えると将来の期待インフレ率 $${E[π_{t+s}]}$$は際限なく上昇
→モデル上は名目金利$${i_{t+1}}$$の上昇に伴って期待インフレ率$${E[π_{t+1}]}$$だけでなく、実質利子率$${r_{t+1}}$$も上昇し消費Cの増加率も際限なく上昇
→ある時点で総需要ADが確実に総供給ASを上回るためそのような期待は不整合
→実現インフレ率は中央銀行の目標インフレ率に等しい、少なくとも期待値のレベルでは


2-45. デフレの状態で自然金利がマイナスになる可能性
→インフレ期待が生じるためにはより大きなマイナス金利が必要
→ゼロ金利制約の下で金利は0%近辺で推移
→デフレ期待が長期的な制約と整合的となり流動性のわな均衡が実現
→自然金利でデフレが起きればインフレ均衡されるため実質インフレだと捉えられただけの可能性


2-46. 量的緩和政策
…マネタリーベースを調整することで生産や雇用に影響を与えて物価を安定させる

→金融政策の操作目標を短期金利ではなくマネタリーベースの中の日銀当座預金に変更
→CPIの前年比上昇率が安定的に0%以上となるまで継続するとした
→短期金利は0%近辺で推移、ゼロ金利政策と同じ
→ゼロ金利政策では操作目標金利が下限の 0%に達するとそれ以上の緩和は不可能
量的緩和政策では当座預金残高の目標を増やすことで更なる金融緩和が可能?


2-47. 量的緩和
…国債を買って大量の貨幣を供給すること


2-48. 質的緩和
…買った国債の期間を長くしたり国債以外の資産を買ったりすること


2-49. 伝統的な考え方
…利子率が低下しない限り債券の発行額は増加しないため当座預金残高が増えても何も変わらない
→国債・CP が当座預金に置き換わるだけで民間の流動性も一定のまま

→量的緩和政策に期待された効果とは?
❶金融システム不安の回避、中央銀行による流動性供給で金融機関の資金繰りを支援
❷時間軸効果、ゼロ金利が長く続くという期待によって長期金利が下がる
❸ポートフォリオバランス効果、安全な当座預金からリスク資産へシフトさせる
→マネタリー政策としての量的緩和政策の中心は❷にあると考えられる


2-50. 流動性のわなの克服
…時間軸政策、フォワード・ガイダンス
→短期金利が 0%近くでも長期金利はまだ0%ではないのでこれを下げてみよう
→どうやって長期金利を0%近くまで下げるのか?
→長期にわたって短期金利を0%にすると約束すればよいのでは?
→金利の期間構造を考える


2-51. 時間軸政策のメカニズム
…量的緩和政策はCPI上昇率が安定的に0%以上となるまで継続されるというコミットメント
→人々の将来の期待短期金利が低下、金利の期間構造
→現在の長期金利が低下
→物価上昇・景気拡大


2-52. 量的緩和はコミットメントとなるか?
…超過準備は当初の1兆円から度重なる級和で解除直前には 22兆円となる。
→解除とともに急速に減少
→4か月後のゼロ金利政策解除時には1兆円弱へ
→準備福の大きさはゼロ金利期間とは無関係?
→アナウンスメントにより期待を誘発することが重要
→期待・コミットメントを通じた金融政策が必要


2-53. インフレターゲティング
…インフレ率に対して中央銀行が一定範囲の目標を明示してそれを達成するという政策

→中央銀行が様々な政策を追求して過大なインフレが生じないように、
政策目標を物価安定だけに限定するためのコミットメント
→若干プラスのインフレ率を目指した方がいい、一旦デフレになるとインフレに戻すまでに時間がかかることに加えて、統計技術的難しさから誤差が生じ実際のインフレ率より高めになる傾向があるため


2-54. ノミナルアンカーと違い物価水準そのものに基準点を提供するわけではないが、物価水準の変動幅を制限することで加速度的なインフレ・デフレを防止する
→日本の経験に基づき0%のインフレ目標が危険視され2.0%のインフレ目標が望ましいとされる
→中央銀行は金融政策に対して目標独立性は持たないが手段独立性を持ち、
金融政策への政治圧力を排除してクレディビリティを高めようとする
→短期目標は目標範囲で長期目標は目標数値で表される
→中央銀行には運用内容を説明し不適切な場合はペナルティを受けることが義務付けられている
❶物価安定の意義や政策判断の根拠を丁寧に説明
❷議事要旨投票結果の公表
❸先行き金利経路の発表
などによって金融政策の透明性を大幅に向上・強化


2-55. 理論的効果
・中央銀行の政策目標が物価安定だけに限定される
…損失関数は$${L=α(π−π’)^2}$$
→中央銀行の無差別曲線は水平線から離れるほど大きな損失となり、常に π=π’が最適となる
→短期的には右下がりのフィリップス曲線にてインフレ率 π’に対応する失業率$${u_π'}$$が実現
→人々のインフレ期待が高く短期フィリップス曲線が高い位置にあると
$${u_π'}$$はかなり高い水準になる可能性
→長期的にはフィリップス曲線は自然失業率u*を通る垂直線となる
→(π,u)=(π’,u*)という効率的な状態が実現


2-56. フォワードガイダンス
…中央銀行が金融政策を将来どのように変化させるかという指針
→金融政策にはラグ(認知ラグ・実施ラグ・効果ラグ)が伴うため効果が現れるまで1〜2年かかる
→政策金利の据え置き期間・金融政策の変更条件を伝えて人々の期待に働きかけることで、政策がマーケットに与える影響を強める
→サプライズより透明性が大事、期待によって参加者が勝手に調整してくれる
→デルフォイ的なものからオデッセイ的なものへ徐々に移行

・デルフォイ的フォワードガイダンス
…政策変更をより正確に予測できる
→経済や金利の先行きとリスク評価、中央銀行に対しては政策変更について拘束しない

・オデッセイ的フォワードガイダンス
…政策変更の条件は異なる解釈の余地がなく明確
→従来の行動から予測される政策変更と異なるタイミングを公約、自由な政策変更を制約


◯2008年の金融危機以降の金融政策

2-58. 白川総裁下の金融政策
…金融危機以降の対応は量的緩和政策を超えた様々な金融政策が行われている

❶補完当座預金制度の導入

❷金利引き下げ
…2008年10月、0.5%→0.3%
→2009年12月、0.3%→0.1%
→2010年10月、0.1%〜0.0%、実質ゼロ金利を採用
→同時に30兆円が通常のオペに使われることで実質的に量的緩和政策が復活

❸購入資産の拡大
…長期国償、国中短期証券、CP、社債、ETF(指数連動型上場投資信話)、
J-REIT (不動産投資信託)、通常のオペ拡大

❹インフレ・ターゲット・フォワードガイダンスの採用・強化
…2010年10月、「中長期的な物価安定の理解」に基づく時間軸効果の明確化
CPIが前年比で2.0%以下のプラスの領域にあり委員の大勢は 1%程度を中心と考えている状況
→物価安定が見える状況になったと判断するまで実質ゼロ金利政策を継続し、その際の判断基準が「中長期的な物価安定の理解」であることを確認した
→曖味さが残るため依然としてデルフォイ的

→2012年2月、「中長期的な物価安定の目途」を導入
中長期的に持続可能な物価安定と整合的と判断する物価上昇率、
消費者物価の前年比上昇率で 2%以下のプラスの領域にあると判断、1%を目途
→物価上昇率を明確にした大まかなインフレ・ターゲットの導入
→まだ暖味さが残るため依然としてデルフォイ的

→2013年1月、「物価安定の目標」の導入
持続可能な物価安定と整合的な物価上昇率消費者物価の前年比上昇率2.0%
→日本銀行は上記の物価安定の目標の下金融緩和を促進し、
これをできるだけ早期に実現することを目指す、一般的なインフレ・ターゲットの導入
→期間が示されていないところ以外はオデッセイ的


2-59. 量的質的金融緩和政策、黒田総裁下の金融政策
…CPI上昇率2.0%を2年程度でできるだけ早期に実現するため、
マネタリーベース・長期国債・ETF の保有額を2年間で2倍に拡大し、
長期国債買入れの平均残存期間を2倍以上に延長する

❶マネタリーベースコントロールの採用
…操作目標を短期金利からマネタリーベースに変更

❷長期国債の買入れ拡大・年限長期化
…長期国債の保有残高が年間で約 50 兆円増加するように買入れを行う
→毎月の長期国債のグロスの買入額は 7 兆円強となる、それまでは 2 兆円
→長期国債の買入れ対象を 40 年国債を含む全ゾーンの国債とし、
買入れの平均残存期間を 3 年弱から 7 年程度に延長、国債発行残高の平均並み

❸ETF・J-REIT の買入れ拡大
…ETF・J-REIT の保有残高がそれぞれ約 1 兆円、年間約 300 億円増加するよう買入れを行う
資産価格のプレミアムに働きかけるため
→CP・社債については従来と変わらない

❹銀行券ルールの一時適用停止

・銀行券ルール
…国債買入れを通じて日本銀行が保有する長期国債の残高上限は日本銀行券発行残高とする考え
→銀行券ルールを量的質的金融緩和の実施に際し一時停止、
長期国債の買入れは金融政策目的で行うもので財政ファイナンスではないという前提

❺マイナス金利政策
…マイナス金利付き量的・質的金融緩和を導入
→日本銀行当座預金の金利を一部マイナスにしてイールドカーブの起点を引き下げ、大規模な国債買いオペとあわせて金利全般により強い下げ圧力を加えることで、2.0%の物価安定目標を早期実現させようとした


2-60. 量的質的金融緩和政策の意義
…政策手法は白川総裁時代と同じだがより徹底的な緩和を行っている
❶期間を定めてフォワードガイダンスを強化
❷長期国債・ETF の保有額の増加幅が圧倒的、白川時代の 4~6 割増し
❸2.0%・2倍・2年という単純で強力なメッセージをマーケットに提供、対話の強化?


おわりに

ここまでご覧いただき、ありがとうございます。
修正すべき点やご意見などあればXでお声をいただければと思います。
修正の際は、番号を指定して、フォーマットをなんとなく合わせていただけると助かります。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?