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書くやる気をかき立ててくれる本と、大切な創作マインド

私は活字中毒かもしれないと思うことが、人生の中で何度もありました。

どんな時でも、目が読めるものを探してしまう。
読まないと心がさびしい。

文字ならば本当になんでも良いのです。
鞄に忍ばせた本や、調味料の瓶に書かれた原材料表示、ランチョンマットにデザインされた英単語、無限に言葉の流れるTwitter。

なんでも良いから、文字を読みたいと思ってしまう。
さながら生物が生存のために酸素を必要とするように。

文字、そして本は私にとっての酸素であり、心の栄養であり、動力源にもなるものです。

すぐれた作品はそれを見た人の創作意欲まで刺激し、何かを創らずにはいられなくする力を持っています。

このエネルギーの爆発に身を任せるだけなんてもったいない。上手く利用すればもっと私を助けてくれると思いました。

つまり、やる気がどうしても上がらない時、本からやる気を分けてもらうのです。

やる気をかき立ててくれるもの5選

『クリエイティブを仕事にする方法』

ドリーン・バーチュー著「クリエイティブを仕事にする方法」(アソシエイツ)。

ありとあらゆる「クリエイティブ」について書かれているのが、この本のすごいところ。

私は書くことをメインに据えているので、書くことへのやる気が起きます。

でも、実際は、もっと多くの人に刺さる本だと感じています。

絵を描いている人、音楽を作っている人、服を縫っている人はもちろん。

スーツで出勤するビジネスマン、子どもと暮らす主婦と主夫、退職したての人など、一見「クリエイティブな仕事をしているわけではない」ように見える人にまで。

本当は「クリエイティブであること」は人間に備わった普通の能力で、芸術家などの「特別な」人だけのものではないのかもしれません。


本は「クリエイティブに生きることの心得」的な内容から始まり、後半に行くにつれてより実践的な内容に移っていきます。

作品を発表するにはどんな手段があるのか? という一例まで提案してくれているのがすごいところです。

著者のドリーンさんはアメリカ在住のため、本で紹介された方法をすべてそのまま実践するのは難しい面もありますが。
記されたたくさんの方法が視野を広げてくれ、自分にできることから挑戦していこう、という明るい気持ちにさせてくれます。


また、これは個人的な話ですが、本の印税について多少の知識が得られたのも、私がこの本に感謝している理由の1つです。

印税の値段がどのように決まっているのか、この本を読むまで知りませんでした。

印税の仕組みや割合が書かれていたことによってよりリアルな思考を巡らせることができるようになり、「書くという仕事」へのイメージがより固まった手応えを感じます。


『書ける人になる!魂の文章術』

次に紹介するのはナタリー・ゴールドバーグ著「書ける人になる!魂の文章術」(扶葉社)。

ナタリーさんは詩人。
文中にも詩的な表現がたくさん出てきます。

私はほとんど詩を書きませんが、詩的な表現も含めてこの本がとても役に立ちました。

私が抱えていて、上手く言い表せなかった感情たちにいくつも名前を与えてくれたからです。

さらに、「書く」という活動が深堀りして書かれているので、自分がこれまで何をしてきたかに気づくきっかけにもなりました。

調子よく書いている時には、どういう精神状態なのか。

逆に上手く書けない時は、何が原因だったのか。

自分が自然と、そして長年やっていること。

誰にも教わらずにやっていることは、言語化するのが難しいもの。
呼吸の方法を説明することが難しいのと似ているかもしれません。

そういう「自然とやってきたこと」を改めて解剖して、細かく言葉にして教えてくれた感じがしています。

自分が何をどうやっているのかが分かれば、上手くいかない時にどうすれば良いかを考えるヒントにできます。

自分の状態に翻弄されず、冷静に対処方法を考えることができるようになるのです。
歯を食いしばって頑張るべきところか、少し休んで方が良いところか。


さらに、詩的な表現は私とは全く違う感性を秘めているものばかり。

すごい表現に出会うと、「自分ももっとやろう」という、共闘の心みたいなものに火が付きます。

読んでいる間にいても立ってもいられなくなって、ものすごく書きたくなってくる。書こうか、続きを読もうか迷ってしまう。

そんな本です。


『誰も見ていない書斎の松本清張』

実はこの本を買った時、松本清張の名前しか知りませんでした。

有名な小説家のひとりだよな、という程度の認識。

だから本を手に取りレジへ向かったのは、今思えば運命的でした。

読んでみてびっくり。
著者の櫻井さんは不思議なめぐりあわせにより、松本清張先生の担当編集者をした人だというのです!

編集者目線の作品に巡り合えることは貴重だと思っています。
きっと作家とは違った視点から「本を書くこと、作ること」を見ている仕事の人だと思うので。

実際に貴重で、とても面白い本でした。

個人的にこれを「読んでよかったな」と思うのは、松本清張が貧乏だった時代を詳細に描いている場面があったから。

大作家といえども、有名人と言えども、人生生まれた時から成功し続けているわけじゃない。

それが櫻井さんの文章で臨場感たっぷりに伝わってきて、とても励まされました。

松本清張が活躍した時代から時が経ってはいますが、創作の根底に流れる空気のようなものは変わらないのではないか、と思わされました。

諦めないこと、書き続けること。

過去をつづった本の中から今も活きる精神を見つけ出して、自分の心のエンジンにくべてしまう。

そうしてまた書き続ける。

心を励ませるような1冊です。


『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』

「嫌われる勇気」を書いた古賀史健さんという方の著書。
タイトルの通り、これは圧倒的に教科書です。

「書くこと」にこだわってきた古賀さんの経験、考えていること、実践する方法論 (主に心構え) が、余すところなく書き尽くされています。

私は古賀さんの手掛ける本を初めて手に取ったのですが、これほど「書きたいこと全部書きました」という努力とメッセージがビシビシ伝わってくる本に、これまで出会ったことがありません。

この企画にかけた古賀さんの熱意みたいなものがにじみでる、内容以前に文章を目で追っているだけで気持ちが高揚してくる本でした。


先ほど、「方法論(主に心構え)」という書き方をしました。

「なんだ、精神論か」と思いたくなりますが、逆に方法論が突き詰めて書いてあるところにこの本の素晴らしさがあると考えています。

文章は多様です。スタイル、状況、求められている雰囲気によって、無数の「こう書くのがベター」が存在します。

ありとあらゆる文章を貫く「絶対に読んでもらえる書き方」や「絶対に売れる書き方」なんてありません。(あったらもっと執筆はラクになるでしょう)

この本を読む中で、書き方は「文章」という大きな流れの枝葉でしかなく、幹を流れるものこそが「方法論」である、という知見を得ました。

徹底した方法論を書いているから、逆にすべてのスタイルの文章に応用することができる。
どんな文章にも共通して必要な哲学を文字に書き起こしている。

普遍的な要素を拾って徹底的に言葉にしている点で、この本はまさに教科書だ。
応用するのはこれを読んで学ぶ生徒の仕事だ。

そんな印象を受ける本です。

古賀さんが読者として想定しているのは、小説家というよりもウェブライターやエッセイストなど、現実に即した文章を書く人たちかもしれません。
が、小説を書く私にも役立つ知識がたくさん見つかりました。

これまで試行錯誤しながら自力でやってきたこと、「私にはこれが良さそうだけど、合っているのかな……?」と自信が持ちきれていなかったこと。

それらがボリューミーな本の随所に登場し、古賀さんの豊かな知識で「その先」まで解説されていることで、現在地と行き先の確認が同時にできてしまったのです。

「今までの行動はこれでよかったんだ、そしてこれからはこうすれば良いんだ」

この本が執筆の土台となるような「方法論、考え方」の指針となってくれたことで、書くことに対する見え方が一段階向上した気がしています。

書くこと、読むこと、本を作ることに1ミリでも興味があるなら、ぜひとも読んでほしい本です。

分厚さにひるむかもしれませんが、古賀さんの読みやすい文章がするする入ってきて流れるように読み切ってしまえます。


心を揺さぶるあらゆる創作物

最後。5つ目は、具体的な書名はありません。

この世に存在する、見た人の心を揺さぶるありとあらゆる創作物を挙げます。

どんなものから新鮮な情動を得られるかは誰にも分かりません。
だからここでは本に限定せず、あえて「創作物」としています。

映画、音楽、絵画、マンガ、なんでもいいのです。

心が動いて何かを考え、「そうだ、私ももっと何かを創りたい」と思えたのなら。

ひとつ大切なことがあるとすれば、受け取る側に「心を揺さぶられに行こう」という前のめりな気持ちがあるかどうかでしょうか。

「どんなものか見てやろう」という受動的で上から目線な気持ちでは、心を打つ表現もくすんでしまいます。

「感動してもらいたい、何かを考えてもらいたい」と思って作られた作品と、「感動したい、心動かされたい」と前のめりに作品に触れる他者 (読者、視聴者……) の二者が出会った時にこそ、やる気が生まれる瞬間が訪れると考えています。


あなたの作品はあなたにしか書けない

心が元気な時、圧倒的に素晴らしい作品に触れると私はエネルギーをもらうことができました。

「すごい、なんていう世界観なんだ! 私もこうやって人をあっと言わせるものを作りたい!」

そんな風に熱くなって筆を執ることができます。


一方で、心が元気をなくしている時。

「なんてすごい作品なんだ。私にはとてもこんなもの作れない……」

他者の作品に圧倒されてしまって、やる気をかき立てるどころか自信喪失してしまうこともたくさんあります。


創作のアイデアは、すべてシェイクスピアがやり尽くしている、という話を見たことがあります。

もうアイデアは出尽くしていて、今は既存のアイデアを組み合わせて目新しさを出しているにすぎないのだと。

だから創作において「誰もやっていないことをやろう!」という努力は無駄で、誰の真似でもないものはもうやりようがないのだと……。


私はシェイクスピアに詳しくないので、上の話の真偽は断定できません。
が、最初に上の話を聞いた時、ものすごいショックを受けました。

「誰もやったことがないアイデア」「新しい、素晴らしい物語」を作りたい、最初の挑戦者になりたい。
心のどこかにそんな願いを持って書いていたからです。

書きはじめの頃に私が持っていた先駆者的な目標は、偶然見かけた言葉によって打ち砕かれてしまいました。

だってもうやり尽くされている分野を自分が探求して、一体なんの意味があるというのでしょう。

自分が思いつくことはもう他人が思いついている、しょせんは二番煎じでしかないなんて……。


しかしその後、まったく別の言葉と見方に出会いました。

確かに、創作のアイデアはもう出尽くしている。
しかし無数にあるアイデアを「どう組み合わせるか」は、まだ試し尽くされてはいない。

1冊の本を読んで書きはじめたら、特定の本から強い影響を受けた作品しか書くことができない。
だからたくさん本を読んで、組み合わせを考えられるアイデアのストックを作っていく。

そんな視点です。

出尽くした創作のアイデア×無数の組み合わせ×創作者の物の見方=人の心を揺さぶれる作品
なんじゃないか。

大切なのはアイデアが出尽くしていることよりも、ほかならぬ「私」がものを創っていることなんじゃないか。

アイデアが「私」というセンスとフィルターを通って結晶化することにこそ価値があるんじゃないか。

そんな風に思えるようになりました。


今でも時々、素晴らしい作品群に押しつぶされそうになることはあります。

この世の中には一生を捧げても読み切れないくらいの本があり、無数の文字と名文は日々新しく生み出され続けているわけですから。


それでも私は書くことをやめない、やめることができない。

誰かの創作物に触れて感動し、時に圧倒されて怖気づき。
心が疲れたらちょっとした休憩も挟みながら。

文章からもらったエネルギーを文章に還元していくことこそに、価値と意味があると信じて書き続けていこうと思っています。


願はくは自信がぐらつきそうな創作者たちにも、そんな勇気が広がっていきますように。



Jessie




《紹介した本たち一覧》


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