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なぜ即効性のある子育てハックが効かない子がいるのか

役立ちそうな子育てハックなのに

SNS等で交換される育児のコツや子育て本の中には、いかにも即効性がありそうなエピソードがあふれている。

「声がけをこんな風に変えたら子どもが○○してくれるようになった!」
「○○するようにしたら子どもの困った行動がなくなった!」

似た困りごとを抱えた/経験した人の、実体験付きの子育てハックは、いかにも説得力があり、我が家でも活かせそうに感じる。

ところがここで困惑する場合がある。

頼りがいのあるはずの子育てハックが、我が子にまったく効かなかった時だ。なぜこんなことが起こるのだろう。

最大の原因:子育てハックが子どもに合っていない

なぜ他の子どもに向けて抜群の効果を発揮したというハックが、自分の子には通用しないのか。

その原因は、子育てハックが子どもの個性とハマっていないことにある。


参考になると考えるので、ここで少し僕の話を。

僕は4、5歳当たりの頃から、大人の声かけの「裏」に気づくことがあった。

例えば大人から
「あのぬいぐるみさん、おうちに帰りたいって言ってるよ~?」とか「寂しそうにしてるよ」とか言われると、
「ああ、片づけて欲しいんだな」と思うような。

とはいえ僕たち側としてはまだ遊びの最中で、片づける気分ではまったくない。

それでも大人からは「片づけて」オーラがびしびしと出ている。
なんなら「おもちゃさんが寂しそう」「おうち(置き場所)に帰りたがっている」と人格を見立てて子どもを釣れば、子どもはみんな言うことを聞くと思っているようだ。

当時の僕にはまだ人を説得したり、対等な立場で話し合ったりする語彙と話し合いに相当すると見なされる外見(子どもだったので)がなく、また上のような気づきをすべて口に出せば「可愛げがない」と怒られそうだったので、不本意ながらも片づけにシフトするようにはしていた。

大人の側から見ればこれは、指示に従って片づけはじめたので満足かもしれない。
一方の僕(子ども側)はやらされ感満載で、人生が始まって数年後には「大人は子どもを操作しようとする」という印象を得るに至った。


ここで重要なのは、短期的目標(片づけて)を達成するために、長期的印象が犠牲にされている点だ。

その場では言うことを聞いたとしても、あとあとまで大きな影響が尾を引くことがある。


例えば「大人は子どもを操作しようとする」という印象を受けたとして。
「操作されたくない」と思い、大人の言うことのことごとくに反抗的な態度を示すようになったり。
「人は人に操作的に接しても良いんだ(だって自分がそうされたんだから。それが正しい人との関わり方なんだ)」と思い、クラスメイトや同僚にも操作的な態度を取るようになり、相手が指示に従わないと怒りだすような人間に生長したり。

上のような態度が身についてしまうと、それを是正するのには長い時間がかかることが多い。
ともすると「子どもに指示して片づけさせた」数分以上の長い時間が。

そもそも子どもの個性に沿った、違う種類の声かけや仕組みづくりに取り組んでいれば、子どもは納得して片づけを始めるようになり、数回の声がけだけで片付けが習慣になりさえしたかもしれない。

子どもの個性に沿わない子育てハックをむやみに試し、子どもを曲げようとすると、上のような歪みが生じる場合があるのだ。

ハックより大事な「長期的目線」

日々の生活と子育てのタスク・トラブルの中に巻き込まれると、目の前のことに対処し、とにかく1日を終えることに精一杯になってしまう。
寝不足も重なって脳の働きも鈍り、疲労とストレスばかり増えていくのは当然だ。親のせいではない。

常に長い目と見通しを持っておおらかに構えているのは、現代に浸透した子育てのやり方ではとても難しいことだ。

だからふとした時にだけでも、「長い目」を思い出せるといいなと思った。

眠りに落ちる直前とか、温かいものを飲んでほっと息をついた時とか。

散らかった部屋は精神を削る。子どもの泣き声は思考の隙間を埋めてしまう。

でも目の前の惨状が、あなたが死ぬまで永遠に続くわけではない。
子どもはそれぞれのペースで成長していき、「毎日同じ」の内容は次第に変わっていくだろう。


翻って子どもの視点になると、子どもは大人が繰り返していたことを覚えて大人になる。
「うちの味噌汁の味」とか「寝る前に絵本」とか、具体的な行動が取り上げられることは多いが、大切なのはもっと根源的なことだ。

子どもは大人同士、そして大人が子ども自身に接してくるやり方を見て、人との関わり方を学んでいる。

「親はいつも機嫌が良かった」→子育ては、暮らすことは、人生は楽しいものなんだ。とか
「困ったときは話し合って解決するんだ」とか
「機嫌が悪かったらモノや人に八つ当たりしてもいいんだ」とか……。

幼い頃に受けた印象が認識の土台となり、自分で気づいて変えようとしない限り、大人になった「子ども」が世界と関わる時の基盤になる。

子育てハックを優先し、思った通りにならない子どもを嘆いていれば、子どもはその子どもに同じようにするだろう。「その通りに出来ない自分が/相手が悪い」と思うようになるかもしれない。


子育てハックは、「短期的効果」を持つ子育てスキルだ。子どもに合う方法を見つけて、それで家庭が平穏になったら御の字である。

だが主体はあくまで子どもであって、子育てハックは合う・合わないがあることを忘れてはいけない。
子どもの個性や特性をよく観察して理解しようとし、子どもに合ったやり方・関わり方を見つけていくことが重要だ。

大前暁政先生が

教師がやりたいと思う指導が先にあるのではない。子どもの実態に合わせて教師の指導を合わせていく。

大前暁政著『教師1年目の学級経営』61ページより

と書かれているように。


子どもを変化させようとするよりも、大人の在り方が問われていると考える。


参考文献

フランスの子どもは夜泣きをしない

フランスでは「子どもをよく観察し、その子にあった接し方をする」が浸透し、多くの親たちにとって当たり前のことであるようだ。
フランスで育児を経験した著者の体験談と家族の成長が学びと勇気をくれる1冊。

教師1年目の学級経営

教育書だが、教師が子どもと関わる職業であるので子育ての役にも立つと考えて読んだ。

見通しを持つことの大切さ、子どもの褒め方・叱り方、声がけの実例が非常に参考になる。
イラストも多くとっつきやすい。

本当は大切だけど、誰も教えてくれない学級経営42のこと

同じく見通しを持つことの大切さと、「遅効性の肥料」的関わり方を使うことの重要性が書かれている。

知っておきたいスキルが42個に分けて書かれており、どちらかというとビジネス書的な趣がある。

大前先生の文章は分かりやすく読みやすいので、隙間時間に少しずつ読むのに向いていそうだ。

おまけ

本文の中で僕の実体験に触れたので、今の僕なら当時の片づけない僕にどう対処するかを書いておこうと思う。
そもそも僕は過去の自分を救うために子育ての知識を学んでいるので。
付録だと思って材料程度に読んでもらえればうれしいし、もしもどなたかの参考になればもっとうれしい。

僕であればまず、家の中に片づけのルールを明確に取り入れる
当時の家は「片づけとは何か」「いつ片づけるのか」のルールが明確に示されていなかった。

そこで、「片づけとは、モノの定位置を決め、使ったらそこに戻すことである」と子どもに伝え、片づけのタイミングは「使い終わったら」「夜寝る前」と決める。
(口頭のみだと忘却したりするので、見えるところに絵カードなどで貼っておくとより分かりやすい場合もある)

特に「夜寝る前」の方を重視し、その日に使ったものは必ずその日のうちに定位置に戻すことを教える。(翌朝のスタートがスムーズになるし、子どもが寝た後は大人の時間)

また「〇回片づけなかったら、叱るよ」と怒る時のルールも明確にしておくと良い。

ルールを明確にしたら、ルールが習慣として浸透するまでは声がけをする。
寝る時間の30分前等に「そろそろ片づける時間だよ」など。

きちんと片づけることができたら「えらいね」「部屋がきれいになったよ、ありがとう」など子どもに合わせた言葉で褒める。
(「えらい」と言われた方が嬉しい人と、感謝を伝えられて「役に立てた」と思えた方が嬉しい人といる)

叱るのは事前に決めた「〇回」に達してから。毎回怒られていたのでは互いにストレスだ。

習慣(リズム)の一環になればその後の暮らしがスムーズになってうれしいし、もしどうしても身につかない場合は、双方話し合いの上ルールの見直しが必要かもしれない。

一方的ではないこと、子どももルールに納得できていることが大事だと考える。

また片づけできたらシールを貼るというのも、嬉しい子には嬉しいかもしれない。


・ルールを明確にする
・絵カードを使って分かりやすく伝える
・暮らしにリズムを取り入れる

というコツは以下の本で学んだ。
子どものみならず人間にとって普遍的に重要で、生きやすくするために役立つ知識だと思っている。


子どもと大人、双方が暮らしやすくなりますように。




直也



サムネイルの画像はPixabayからお借りしています。

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