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【鬼滅考察】鬼を繋ぐ「血」、鬼殺隊を繋ぐ「縁」 多様性を肯定する物語

※考察という文章の特性上、下記内容にはネタバレを多く含みます。
未読の方、ネタバレNGな方はご注意ください




鬼たちは皆、最初の鬼たる鬼舞辻無惨の血を与えられて鬼となる。

いわば鬼舞辻は「親」で、その他の鬼たちは鬼舞辻と文字通りに血を分けた「家族」と言える。


一方の鬼殺隊では、リーダーである産屋敷が隊員を「子どもたち」と呼ぶ。
鬼殺隊の中には血縁者(代々柱を輩出する家系、兄弟姉妹等)も存在するが、そのほか多数の鬼殺隊員たちに血縁的繋がりの描写はない。


鬼と鬼殺隊が抱える「リーダーとの繋がり」は、あえて対照的に描かれているように私には感じられた。


血縁で結ばれていれば絶対なのか? 志を同じくすれば絶対なのか。


炭治郎の一家は温かみを持って描かれるが、鬼滅の刃という作品には「見捨てられた子ども」が大勢登場する。

善逸には親兄弟の描写がないし、カナヲは親に売り飛ばされている。

鬼側に目を向ければ、鬼舞辻から見放されることはすなわち死を意味する。
鬼たちは鬼舞辻への恐怖心を抱えて生きており、彼らの関係性を「血縁関係のある親子」の枠に当てはめて眺めるととても「温かみがある」とは形容できない。

現代にも「毒親」「虐待親」と呼ばれる存在がいるように、血縁は必ずしも愛情を担保しない。


では血縁関係によらない鬼殺隊は何で結ばれているのだろう。

「志」だと思う。

家族の仇を討つ、弱い者を助ける……。隊員の数だけある動機は、突き詰めると「鬼を倒す」というひとつの志につながる。
鬼を滅することは鬼殺隊の存在意義でもある。

性格が相容れなくても、役職が異なっていても、ひとつの概念に集約できる志が他人同士を繋ぎ、産屋敷の「子ども」ーー鬼殺隊という「家族」に変える。


物語の最後で、鬼殺隊は鬼舞辻に勝利する。

これは「志」が「血縁」に勝利するというメッセージを放つ展開ではないだろうか。

現在の世界では血縁関係のある「家族」を前提に社会が構築されている面が大きい。

一方でクィアの中では、「自分を理解してくれる、価値観を分かち合える相手」を「自分で選んだ家族」と見なして互いに気にかける意識がある。そこに血縁関係の有無は問われない。


思いを同じくする者の結束は、時に血縁という切りようのない繋がりを凌駕する力を持ちうる。
血縁だけが全てではない。


現在よりも、あるいは現在と同じくらい様々な固定観念や偏見が強かった(と思われる)大正時代を舞台に、上記のような多様性を肯定するメッセージを織り込んだ物語が展開されることに、希望を感じた。



とはいえ、ひとつ忘れてはならないことがあると思う。
鬼滅に含まれるメッセージは決して二元論ではないことだ。

全体的な結果として見れば、「志」は「血縁」に勝利した。

ところがこれは「だから血縁関係なんて脆弱で、思いを同じにする人との繋がりの方が大事なんだ」という結論には直結しない。

なぜなら鬼殺隊には、炭治郎と禰󠄀豆子をはじめとする血縁者も所属しているからだ。
作中で敵味方混じって描かれる過去では、様々な家族の様子が描写される。
過去と現在の彼らが総じて家族仲が良いわけではないが、家族・兄弟とのつながりはほぼ必ず視点主の今この瞬間の決意や行動に影響を与える。

「血縁」という繋がりが、鬼殺隊を強くするのだ。

さらに鬼舞辻の「血縁」者である珠代は、鬼殺隊に力を貸す存在だ。
彼女の心に残っているのもまた家族のことであり、彼女の根底には鬼舞辻への強い怒りや恨みの感情が澱んでいた。

外部要因を含む出来事によって鬼舞辻の呪いを脱出できた珠代は家族を蹂躙された怒りによって鬼殺隊に与し、鬼殺隊の勝利に大きく貢献する。

「血縁」によって生じる「呪い」から苦しんで脱出するという設定などは、逆境体験によって生じた認知の歪みや不安定な愛着を軌道修正していく過程を「解毒」や「呪いを解く」と表現することに近いニュアンスを感じる。


鬼滅の刃は「志」を肯定しつつも、反対側に配置した「血縁」を完全に否定しているわけではない。

むしろ様々な家族の姿を描くことによって、血縁関係を重視する社会通念に疑問を投げかけているようにも取れるのではないか。


血縁だから完全に理解し合えるわけではない。

でも血縁だから分かり合えないわけでもない。


そこには多様な「家族」の形があるのだ。

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