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少しだけ「夜討ち・朝駆け」の話

日本のマスコミ業界には「夜討ち・朝駆け」という独特な慣習がある。
 
私も記者時代、ご多分に漏れず、毎日ではないものの、度々「夜討ち・朝駆け」を実行した
 
企業の不祥事やM&Aのニュースがあった際、記者がどこかの社長の自宅前に張り付いているのを皆さんTVでご覧になったこともあるかと思う。 

コロナ以降の記者の夜討ち・朝駆けスタンスはよくわからないが、それ以前は、不祥事がない時でも、競合他社で大きな動きがあったり、どこかとの提携話を耳にしたりすると、必ず自分が担当していた企業のトップや役員の自宅前で待機し、話を聞きに行った
 
インタビューでの紋切り型の回答ではなく、本音を聞き出すのが目的だが、効率的な取材とは言い難い。
 
10-15分程度の玄関先での立ち話に対し、こちらの移動や待ち時間を鑑みると、かなりの労力と時間を費やすことになる。もちろん、先方が出張中で、無駄足になったということも何度かあった。

朝の出勤時刻のほうが読みやすく、比較的つかまえやすかったので、私は「朝駆け」のほうが多かった。
 
夜は暑かろうが、寒かろうが・雨や雪が降っていようが、数時間自宅前で役員の帰宅を待つ

人によっては、記者の扱いになれたもので、玄関に椅子を用意してくれたり、お茶までだしてくれる方もいた。話が盛り上がって、マンションのロビーのソファに座って1時間近く話し込むときもあった。
 
度々、ライバル社の記者とバッティングすることもある。その場合は、同時にまとめて質問を受けるという役員もいれば、1人持ち時間〇分と決めて、順番に話を聞くということもあった。

夜1人で、閑静な住宅街にある一軒家の前で数時間立っている光景は、やはり異様だ。(事情を知らない)近所の人からしたら、女性一人でスマホをみつめながら立っていると、「この人誰?」と怪訝に思われるだろう。 

私は通報されたことはないが、記者というのを知らずに、外をうろついている怪しい人物として通報された同業者の話は聞いたことがある。
 
海外の記者にもこの話をしたことがあるが、やはりアメリカでそのようなことがあったら、銃で撃たれるのではないか、と驚いていた。 

とはいえ、世の中を動かすようなスクープにつながった記者の取材活動を描いた映画「大統領の陰謀」(All the President's Men)「スポットライト 世紀のスクープ」(Spotlight)をみると、アメリカの記者でも情報を得るために、家に行ったりするんだ、と思ったものだ。 

残念ながら、そのようなレベルのスクープにたどりつくことはなかったが、私にとっては夜討ち・朝駆けは、記者時代を語る上で、貴重な経験だ。

もちろん、取材先の皆さんにはご迷惑をかけたと思うが、何人かは、年賀状などのやりとりがまだ続いている。
 
仕事に対する情熱や若さゆえにできたことなのかな、と今でも時折振り返る懐かしい思い出だ。

上記の映画もご参考までにご覧になってください。

https://x.com/ATF_TOKYO

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