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ニセモノが自分はホンモノだと叫び続けるのに心揺れる ニセモノの錬金術師



ニセモノの錬金術師 旧題 異世界でがんばる話
飛び先はR18だが、途中から「これR18じゃなくてよくね?」と作者が気づいてR18指定は外れる。ただR15くらいはあるので気を付けはしよう。

「匂わせる程度だけど性行為をしたことがなんとなくわかる」
「四肢欠損描写程度の暴力表現がある」
「動物が死ぬ」

ここらへんの描写がどうしても無理で吐いてしまう、という人はいるだろうからそこを踏まえてみて欲しい。
ただ絵が線画でざっくりしていることも多いため、基本的には大丈夫。


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https://www.pixiv.net/artworks/84899417
1ページ目 他者様の漫画ということで、ちょっとだけ引用していく形になります これはかっこいいシーン 飛ぶと全てのやつはネタバレになるかもしれないので注意


めっちゃ面白い

まずこの作品の面白い! ってなった最大ポイント。
この世界、マジで女性層がヤバい。
登場人物の8割くらいが女性だが、出てくるやつ片っ端からちゃんと全員ヤバい。
中世の倫理観でハイパーマジカルバトルが出来る世界なので、ちゃんと全員見てるこっちがビビリような、思考や動きをする。
具体的に言えば、

「勝手に制裁し、勝手に洗脳し、勝手に制裁したことを自身で罰する」

とか、

「自身の実験のために延々と同じ作業を大量の命を使い捨てて数十年行う」

とかそんな感じの女性たちがポンポン出てくる。
まともなのがウリなやつらはモブたたしかいない!
多分一番のまとも枠が、

「死んだらこの国を呪ってめちゃくちゃにする」

って笑顔で想う感じのハイパーインフレヤバい女性団である。

あと別に男がヤバイわけではない。男は「ちゃんとクズ」とか「ちゃんと闇」とかだ。安心してほしい。
しかもヤバいってのは

「この狂った世界を生き抜くために、全力歯を食いしばっているだけ」

なのがとても良い。
ちゃんとバックボーンがあり、想像できるだけの生きてきた道筋があり、互いに争うことで判明することでそのキャラたちは最高に輝く。
そして、複雑に絡み合っている。
当たり前だろう。こんなにヤバいキャラたちの思想がそれぞれぶつかり合わないほうが珍しい。
思想のぶつけ合いバトルなら問題ないがこの世界の倫理観は中世なので互いに命果てるまで殴り合う。
あ、中世中世言っていますがファンタジー中世なので、女性だから価値が低く見られるとかそういう感じではない。
人間程度は全員底辺から這い上がろうとしなくては今日死ぬという方向。

イキイキと活力で殴ってくるキャラ

マジで出てくるやつ全員イキイキしているので見ていて活力がすごい。主人公が中心として話が回るだけの理由も徐々にわかって来るし、コイツがまた良い男だ。
最初は全登場人物の中でも「うっかり」でくしゃっと潰れてしまいそうな主人公。
しかし周囲のヤバすぎる面々によってしっかり立ち上がりだしてからが本番。
女性たちは悪くてヤバいだけではなく、たいていは良くてヤバいのでぶつかりあっても手を組んでも、良い結果を主人公が受け取っていく。

話の展開力も見ていて飽きることはなく短く第一部までまとまっている。
密度がすごい。
唯一の弱点は絵がほとんど下書きのような線絵だということ。
それぞれの顔と雰囲気がわかれば良いな! で押し通している。(たまになんもわからない)

でも男も女も全員良い顔していた。
これは実際読んでもらうとわかるんだけれど、人々の顔や動きがすごく伸び伸びとしていて伝わってくる。
根本的に雑じゃない。
見るのに必要な情報は全てそこにある。

書籍化おめでとう!

ただ今度、作画がついて書籍化するらしい。
そのさい話が変わってしまうらしいので、いまこの剥き出しの牙を研いたような作品を見られるのはここだけ!
多分原作が消えたりはしないと思います。
というより今第二章更新中です。
ぜひ今最高に熱いニセモノの錬金術師術士、みてくれ!!

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https://www.pixiv.net/artworks/79386585
全ての始まりの1ページ目 ここからすべてが始まっていくと思うと感慨深い……

あらすじ

とまあ、これだけ書くと

「話わかんないと見る見ないの判断できないよ」


って人はたくさん出ると思うので、好みの設定があったらぜひ手にとってほしい。

ざっくり言うと、地球人でトラックに跳ね飛ばされたやつらがこの異世界(この異世界という言語指定の意味も作中でやるがネタバレなので読んでね)に来て、主人公もそのひとり。
危ない目にあいたくないので稼げなくてももらったチートスキルを使って地道に稼いでいたが、しんどいので楽をしたくて奴隷屋へ。するとふたりの奴隷女との出会いからどんどんと歯車が狂って行き……という話。
ちなみに先程解説したとおり、ふたりとも詳しい説明は避けますが、ちゃんとヤバいです。
あんしんしてください。

主人公

ここまで読んだ9割の人は

「あーなるほど、男の子がチートスキルを使って無双しハーレムを築く俺スゲーね!」

ってなると思うけれど残念(?)ながら主人公は第一部最後まで強敵との戦いでは右へオロオロ左へオロオロするのが役目ってレベルで殴り合いには向かない。コメントでたまに

「攫われる側のお姫様」

とか書かれているが戦闘時はだいたいそのポジション。
お姫様なのでちゃんと支援物資を生み出したり作戦と指示をしたりするが、フラッと偶然現れて、バカ呼ばわりもされます。
最初は情けないようにしか見えないその動きも、どんどんと後半になればなるほど主人公なりの輝き方がみれて……ぶっちゃけそこで生き抜く主人公の姿に心打たれるようになりました。
基本戦闘時になさけないようにしか戦えないキャラってあまり感情移入しにくいんですけれどね。最終的に「邪魔」じゃないんですよね。
むしろ「必須」になっていくのが分かる感じがすごくいい。

あと主人公はとある事で底なしに自己評価が低くてオタクくんの胸を的確にえぐっていく。

「爆弾はいつ爆発するかがわかりやすくて良い」

と言う主人公の言葉が、いつまでも心に残り続ける。
嬉しいや悲しいではなく勝手に想像して勝手に同情する。
正直一番思い入れがあるかもしれない。

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https://www.pixiv.net/artworks/79408938
1ページ目 これが主人公の念……じゃなくてチートスキル
チートスキルはこのようなオーラをまとっているので見分けがつく

「チートスキル」とこの世界のスキル

 肝心のチートスキルはというと、1つはなんでも欲しい物を書けばレシピが出来るメモ帳で、そのとおりにやれば必ず完璧に腕前関係なく出来上がる。
まさしくタイトルの雰囲気を感じる。
錬金術師として、理論も理屈もすっ飛ばして結果だけ得ようとするものなんだから。

じゃあ不老不死の薬でも作るかーとしたそこのアナタはこの作品主人公くんになれる才能がある。
1000個くらいのわけのわからない素材単語を羅列されるよ!
さらに厄介なことに、メモは5枠あり作って消さねば1枠ずつ圧迫する。
作らねば消えない。
この世界は、世界独自の仕組みや物質がたくさんあり、主人公たちと共に学べるがこういった便利の落とし穴はたくさんある。

もうひとつチートスキルがあり、セーブクリスタルという。
最後に作った瞬間を記録し、壊すとどこからでもその時間に戻れるというもの。
めちゃくちゃすごい。
しかし、本人の死亡如何にかかわらず砕けなければ戻れない、戻ればそれまでの行動はほぼ無に還る(主人公だけは記憶を持ち越す)
そしてなにより、主人公の1番大事な記憶を代償にする。
使わせる気ある? というレベルで落とし穴しかない能力だ。
あと最新セーブしか残せないから詰みセーブ対策はない。
セーブするときは、絶対に詰まないようにしないと。

チートスキルとは

そのような良い点悪い点あふれるチートスキルは全体的に念能力のように描写される。
そしてチートスキルを奪うことができる。
この奪い合いは重大な要素にもなる。
当たり前だけど奪うだけで得られる新たな能力なんて奪いあいになる。
人のものを盗んだら泥棒?
この世界のものかもあやしいものとっても違法なんですか?
そもそもそれ私に関係有る?
という感覚で進んでいく。
中世倫理観サバイバルバトルアクション漫画。

対して、この世界の法則はどっちかっていうとカードゲームのやり取りに近かったりする(作者がMtGすきとの情報があった)
ゾンビをあっちこっちに行ったり来たりさせることで徐々にマナをためて最大の力を放つとか、カウンター能力はあるものの自分から殴ったらその能力が悪作用してカウンターされるから、工夫して相手に攻めさせなくてはいけないとか、みんないろんな戦法を駆使している。
チートスキルが無双レベルに強いわけでもなく、相手に自分を好きにさせる弓矢とか鏡の世界に入れるチケットとかで、すごいけどじゃあ無双できるかといえばまったく無理なバランス。

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https://www.pixiv.net/artworks/84706236
1ページ目より タイトル変更時に書かれたサムネイル
この2人が互いに背中を預けているのがとてもいい

ニセモノたちが自分たちはホンモノだと叫び続ける魂の歌

オススメしたいので何もかもぶっちゃけたりはしないんだけれど感想文の体もしているから中身で自分が着目した点も書く。
それはやはり、このタイトルであるニセモノと言う部分。
本編では、ずっとニセモノとホンモノについて話を追っている気がした。
ニセモノ対ホンモノとは、昔から普遍のテーマだと思っている。
ソレは誰もが、自分はニセモノだと感じる瞬間があるからだと思う。
自分もらふとした瞬間にニセモノだと感じることがある。

先日も少々バズった幻覚記事、幻覚なので2から10は創作だが1にでっぷりかぶさっていて、更にバズもメディアとして力の強い方がツイートしたからゆえである。
ソレは、どこかの影で結局自分は借り物の力を借りるだけ借りてなんとかちょっと流行ったニセモノだと感じてしまう。
実生活や根幹でもそうだ。
自分は多くの医療や技術でなんとか生かされている。
まともな社会人とやらからは遠い。
それはホンモノに寄りすがっているだけなのか。
そして、そう。この感想文もニセモノの錬金術師にあやかっているだけのニセモノ……

そんな誰もが抱える、

『ひょっとしてニセモノなのではないか』

ということに、この漫画は第一部を通して全部真摯に描いている
そしてそのそれぞれのキャラが出す向き合い方も。
呪いのようなこの想いをそれぞれが克服したり、打ちのめされたり、突きつけたり、勝ち抜いたり。
けれど、この漫画が良いのはニセモノを全否定したり全肯定したりしないこと。
ホンモノも同一。
むしろニセモノとホンモノに対してこだわりを拗らせていくことの怖さや、ニセモノとホンモノの境界線についても語っていく。
その差異の微妙さやニセモノの中にホンモノは、ホンモノの中にニセモノはないのかとどんどん定義の話もする。
すごいのは、それらを小難しい人生論にせずエンタメとして彼らが殴り合った末手に入れるもの。
例え自らが朽ちようと譲れないものを叫んだときに、各々の真実がきらめく。
世界はクソッタレで自分はクソッタレで。
それでも逃げて転んで右へウロウロ左へウロウロしてもバカと罵られようとも。
譲れないものが価値有るものだと叫び続けた先を見せてくれる。
そんな狂った魂の叫びを見せつけられた。

ここまでまっすぐに叩きつけられるニセモノの錬金術師、ぜひ読んでみて欲しい!!

他の方の感想文もおすすめ。みんな色んな面から良いこと書いてます。ひとりひとり別のものを見つけられる良作です。

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