ドラマ『口説き文句は決めている』制作秘話、“信頼”と“挑戦”のスタッフィング|小林和紘(FCC)×阿部良太 対談
過去の仕事仲間だからこそ生まれた「信頼」と「安心」
──まずはお二人の出会いや、一緒に仕事をするようになったきっかけについて教えてください。
小林:おそらく10年以上前になるよね。
阿部:初めてお会いさせてもらったのは、『まるまるちびまる子ちゃん』(2007年)の頃でした。
小林:うん、そこで知り合った感じだね。
阿部:そこから『スイッチガール!!』(2011年)で私がアシスタントプロデューサーを務めていたときに監督だったのが小林さんでした。
小林:それ以降、たびたび一緒に仕事するようになって。BeeTVの番組や地上波の2時間ドラマなど、6本くらい阿部さんとドラマ制作に関わっていましたね。その辺りで、阿部さんがテレビドラマ界を離れて広告の会社に入って。今回の件で、ご一緒したのは本当に久しぶりだったよね。
阿部:私個人的にも、ドラマの制作に関わるのは4〜5年ぶりでした。
小林:ひかりTVさんのドラマを作るのに、あまりにも人が足りなさすぎて。「私の代わりにプロデューサーができるのは阿部さんしかいない」と思い、電話で連絡を取ったんです。もとから阿部さんの能力は知っていたので、この人に任せておけば安心だと感じていましたね。
阿部:ダメ元で会社に聞いたらOK出してくれて。久しぶりにドラマ制作に関わる上では、昔から仲の良いAP(アシスタントプロデューサー)さんに声を掛けて「最近のドラマ撮影の現場ってどんな感じ?」というのを事前に把握しておくのは意識していました。
そのなかで懸念事項だったのがコロナ対策でした。私がドラマ制作に関わっていた頃にはなかったわけですから、そこをどういう風に留意しながらやっていけばいいのかは結構考えたりしましたね。コロナ禍の全盛期よりかは緩くなっていましたが、スタッフ全員でLINEグループを作り、Googleフォーム等を使って毎日の体調を報告することや、ガイドラインを策定して現場に周知させることは徹底しました。
──今回の製作陣の座組について、どのように決めていったのでしょうか。
小林:ひかりTVとフジテレビが共同でドラマを作る企画が毎年あって、そこに今回のドラマで監督/ディレクターを務めた雨宮由依(以下:雨宮)が、夏生さえりさんの食と恋の妄想エッセイ集『『口説き文句は決めている』を出したところ、それが採用されたんですね。正式に決まったのが2022年11月で、年度内の2023年3月末までに放送・配信しなければならないタイトなスケジュール感だったので、急遽制作に取り掛かる必要がありました。
ただ、私も他の仕事で手一杯で、なかなか現場の細かい部分まで見ることができず、それで製作陣の座組を考えていくなかで、阿部さんに助け舟を出したんですよ。
──なるほど、それで阿部に白羽の矢が立ったわけですね。
小林:そうなんです。また、雨宮にとってもほぼ初監督となるドラマでもあったので、美術スタッフなどは、彼女が動きやすい人選を心がけました。加えて、阿部さんを選んだのは、ディレクター寄りの考えもできるから。監督に寄り添いながら、ドラマ制作の現場を回してくれるだろうという期待もあったので、ぜひお願いしたいと考えていました。
それに、阿部さんは過去の仕事でも一度も失敗してこなかったので、安心感があるんですよ。現場にいるときの阿部さんも、非常にいい人というか。いつもニコニコしているし、冗談を言って和ませたりしてくれるし。そういった意味でも安心して任せられる存在です。
阿部:ありがとうございます(笑)
キャスティング面では、小林さんの方で男性陣は決めていただいていた状況でした。一方で、まだ主演の女性が決まっていなかったので、主演の女性を探すところから着手していきました。
小林:キャスティング番組のプロデュースを担うフジテレビの田淵プロデューサーが主に担当していたのですが、その田淵さんも阿部さんと昔一緒に仕事をした経験があったので、阿部さんが入ってからは3人でざっくばらんに「こういう人がいいんじゃない」と話しながら、最終的に北 香那さんに決まったんです。
阿部:男性陣に関しては、若い女性層へのアプローチも考えてスターダスト所属のEBiDANを中心に起用していて、北 香那さんも今まさにアップカミングな女優さんなのでピッタリだなと。こうしてキャスト陣を決めていくのに並行して、台本作りやロケハンも進めていったんです。
加えて現実的な話をすると、予算内に収めていく上ではロケハンのスケジューリングってすごく大事で。ロケ地をいろんな場所に設定すると、そのぶん移動代がかかってしまうし、なんなら移動に充てる時間も撮影に使いたい。そこはロケコーディネーターと連携しながら、なるべくまとめて行ける範囲でのロケ地決め・スケジューリングを心がけました。
ドラマ制作におけるスタッフィングの重要性
──「口説き文句は決めている」は食と恋の妄想グルメラブストーリーという設定ですが、原作の世界観をどのようにドラマ作品へと昇華させたのでしょうか?
阿部:本の内容をもとにドラマ作品へと仕立てていくわけですが、監督と交えた話し合いの時に焦点になったのが「妄想と現実の入れ替わり」をどのように表現するかということでした。いわゆるシームレスというか、どちらが現実でどちらが妄想かをわからなくて作品に落とし込むのか、それとも妄想の場面はそれと明確にわかるようにするかを決めるにあたっては、いろいろと議論を重ねましたね。
小林:そうですね。結論としては妄想と現実をシームレスに表現することに決まりました。今回の作品では回想や妄想に入る場面を明確にせず、観る視聴者に解釈を委ね、想像してもらう演出にしようと考えましたね。
阿部:地上波ではないので「わかる人がわかればいい」というスタンスもありましたね。
──お二人の昔からの間柄があって、今回の 『口説き文句は決めている』のプロデューサーを担当して感じたメリットなどはありますか。
小林:先ほどもいった通り、今回制作スタッフの面で一番に思っていたのは、新人監督の雨宮がやりやすいように環境を整えることでした。そのあたりも含め、信頼のおける阿部さんにお任せできたのが一番のメリットでした。
阿部:お互い考えていることが分かり合えている仲なのは良かったですよね。小林さんに声をかけていただいて久しぶりにドラマの現場に入りましたが、やっぱり「現場は楽しい」と感じました。また機会があったら、是非やりたいなと思っています。
小林:私はドラマ制作は35年、プロデューサーをやり始めて10年くらいですが、「スタッフィングの重要性」の大切さを改めて学ぶ良い機会になりました。
ロケ地へは電車で移動。
動画尺を伸ばすために行った苦肉の策
──具体的にFIREBUGが関わった部分や、制作中の裏話などのエピソードがあればお聞きしたいです
阿部:アロケーション(予算配分)からスタッフィング、台本や脚本作り、撮影や編集などドラマ制作に必要な作業はほとんど担当しました。裏話でいうと、社内のSlackでドラマのエキストラ募集をかけたんですが、なかなかみんな予定が合わなくて、結局は自分自身がエキストラで出演したことでしょうか(笑)
また、予算内でうまく収めるための工夫も凝らしていました。だいたいドラマの撮影だと、指定の場所に集合して、そこからマイクロバスに乗ってロケ地に行くんですが、経費削減のために公共交通機関を利用しました。ロケ地も基本的には亀戸の街を中心に設定していたので、撮影間の移動も徒歩だったんですよ。
あとはちょっと焦ったエピソードもあるんです。
撮影を終えて編集してみたら、規定の尺に足りなかったんです。これはやばいなと。再撮影なんてできないし。苦肉の策として、エンドクレジットに現場で撮っていた場面写真などを挿入して尺を伸ばすことで、事なきを得ました。
──小林さんは何かエピソードはありますか?
小林:2022年11月からドラマ制作が走り出したわけですが、諸般の事情で助監督が2022年末を持っていなくなることが決まって。なので、年明けから私がプロデューサーと助監督を兼任することになったんです。そんなこともあり阿部さんに助け舟を出すことにもなったわけですが。結果的には、雨宮本人からも「小林さんがいてくれて、ドラマ制作がやりやすかった」と言ってもらえて、良かったなと感じています。
FIREBUGから企画を立案してドラマ制作をやってみたい
──もう一度FIREBUGとFCCがタッグを組んで、どんなドラマ企画にチャレンジしたいですか?
小林:FIREBUGから何か企画を出してくれたら嬉しいですね(笑)。とにかく私が困ったら、今後も阿部さんにすぐ相談すると思います。
阿部:やってみたいのは海外ロケかな。ハワイとか韓国とか。地上波よりも配信系の番組が可能性あるかもですね。例えば、オール日本人キャストで韓流ドラマのような作品を韓国でやるとか。
小林:FCCとしては、面白い企画なら前向きに検討できると思うので、どんどんFIREBUGから企画をいただきたいですね。それと、引き続き阿部さんとは一緒に何かやりたいなと思ってます。
阿部:是非よろしくお願いします。これからもドラマを作れる機会があるなら、どんどんチャレンジしていきたいと考えています。本日はありがとうございました!
\ ぜひお気軽にお問い合わせください! /
Writer:古田島大介
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?