『わたしの一番かわいいところ』の生みの親木村ミサが語る、SNSを味方につけるアイドルプロデュース
「むすびズム」の活動で身についた精神力は、今でも活かされている
──まずは「むすびズム」の活動から現在のプロデュース業に至るまでの経緯を教えてください。
「むすびズム」のプロジェクトが立ち上がった当初からアイドルが好きで、私自身もアイドルの仕事に携わろうと当初は考えていました。グループが結成され、メンバーが決まり、レッスンの準備が着々と進んでいくなかで、アソビシステムの社長から「アイドルが好きだったら自分でやってみれば」と言われまして。
アイドルに関わる仕事をやりたいという気持ちはあったものの、自分自身がアイドルになるのは想像がつかなかったんですよ。なので、そこまで前向きに考えることができなかったんですが、むすびズムの当時のメンバーからも「ミサさんもグループに入ってください」と誘われて。「かわいい子に言われたら断れないな!」と、自分も「むすびズム」に入ることに決めたんです。会社としても、その頃はアイドル事業を本格的にやっていなかったので、私が入ることで何か力になれたらいいなという思いも抱いていました。
──「むすびズム」でのアイドル活動は、2014年から2017年までと3年間行っていました。
今まで表舞台に立つ仕事はモデルとかでやっていましたが、アイドルは歌って踊らなくてはいけないので、最初は結構戸惑いましたね。それに、モデルとアイドルではファン層も違うので、ファンとの接し方や距離の縮め方は悩みました。どうやったらファンと距離が近くなり、“推しメン”になってもらえるか。ひたすらファン心理を知ることを研究しました。
3年間走り抜けたなかで一番身についたのは精神力です。グループ自体も決して順風満帆ではなかったので、大変だなと感じる場面も多かったんです。それでもメンバー同士が信念を持って一生懸命にやっていれば、絶対にファンへ想いが届く。どうすればチームとして団結でき、グループとファンとの間に結束力が生まれるのか。そのようなことを考えながら、必死に前を向いてやってきたことでメンタル面が鍛えられましたね。実際にアイドル活動で体感したことは、今のアイドルプロデュースの仕事にもすごく活きています。
──「むすびズム」卒業後、しばらくしてアイドルプロデュースに携わるようになったのは、何がきっかけだったんですか?
2017年に「むすびズム」を引退した時に「もう1回アイドルのプロデュースをやらないか?」と社長に言われたんですが、引退後すぐのタイミングだったこともあり、まだ自分には早いなと思って一度お断りしたんです。自分自身、半ば手探りな状態でアイドルをやってきたんで、将来的にはアイドルプロデュースをやってみたい気持ちはあるものの、いまいちイメージが湧かなかったというか。仮にプロデュースするにしても、オーディションを勝ち抜いてメンバーに入ってきた本気の子たちの人生を預かる立場として、自信が持てなかったんですよ。
そんななか、2019年に結成したアイドルグループ「IDOLATER」では、メンバー選考こそ携わらなかったものの、「むすびズム」のカバー楽曲をやりたいとのことだったので、振り付けやライブでのパフォーマンスの仕方など、自分がアドバイスする立ち位置で、自然とアイドルグループに関わるようになっていきました。
そうして2021年に再度、「これからアイドルグループをさらに盛り上げていきたい。力を貸してくれないか?」と会社から打診があったんです。「新しく始動させる『KAWAII LAB.』の総合プロデューサーをやってほしい」という具体的な話として降りてきました。そのときは既に「IDOLATER」の活動にも深く関わらせていただいていて、自分の状況としてもちょうどいいタイミングだったので、「勢いのあるアイドルグループを作るには今しかない」と思い、総合プロデューサーを引き受けることに決めました。
TikTokでバズを狙うため、歌詞や踊りに“かわいい”の魅力を詰め込むことにこだわった
──2022年4月にデビューしたアイドルグループ「FRUITS ZIPPER」の2ndシングル『わたしの一番かわいいところ』は、TikTokの累計再生回数が4.9億回を超えるなど、大きなバズを生み出しました。ここまで話題になった要因はどこにあると思いますか。
「FRUITS ZIPPER」として最初に5曲の楽曲を出そうと決めていて、そのうちの1曲が『わたしの一番かわいいところ』でした。この曲は「TikTokでバズればいいよね」という狙いのもと、制作したものなんです。
歌詞の中にはたくさんの“かわいい”が散りばめられていますが、作詞・作曲を手がけた作詞家のヤマモトショウさんの作る「かわいいの世界観」が、昔から好きだったんですよ。自分がアイドルをプロデュースする立場になったら、絶対にお願いしたいと考えていました。「FRUITS ZIPPER」は、「NEW KAWAII」を世界に発信していくというコンセプトなので、これはヤマモトショウさんの世界観にぴったりだなと。
“かわいいを言葉にする天才”としてリスペクトしているヤマモトショウさんに作詞してもらえば、世界共通言語である「かわいい=Kawaii」の魅力がたくさん詰まった楽曲が生まれ、あわよくば海外に広がるかもしれない。そんな期待を込めて作ったのが『わたしの一番かわいいところ』でした。
──TikTokに合わせた上半身のみでかわいく踊れるダンスや、リスナーの耳に残るような歌詞のフレーズなど、楽曲の随所にこだわりが感じられます。でもなぜ、これほどの大きな反響が生まれたのでしょうか。
意識していたのは、「思わず踊りたくなる楽曲」と「アイドルファンがTikTok動画で使える楽曲」ということでした。『わたしの一番かわいいところ』はネガティブな歌詞がなく、たくさんの“かわいい”という言葉が登場し、「アイドル全肯定」の歌詞になっているのが大きな特徴です。そのため、アイドルファンの方も自分の“推し”を応援するために、TikTokで使いやすい楽曲だったことも、話題を喚起することができた一つの要因だと考えています。
また、TikTok上でインフルエンサーの方が「わたしの一番かわいいところを教えてください」という投稿をしてくれる流れができて、コメント欄にファンの方が思うかわいいところが書き込まれるなど、自然発生的な広がりを生み出せたのが、結果的にバズったのかもしれません。
予想していた以上の反響だったのですが、「この流れに乗ってもっとファンに喜んでもらいたい」という思いから、『わたしの一番かわいいところ』のMVを約10日間の急ピッチで制作して公開したことで、楽曲自体の認知度も上がっていきました。
──ヤマモトショウさんに作詞を依頼するとき、どんな要望をお伝えしたんですか?
ヤマモトショウさんが過去に手がけた楽曲を聴いていると、曲中の”セリフ”がフックになっているのが印象的でした。なので、「歌詞にはセリフを入れてください!」とリクエストしました。
『わたしの一番かわいいところ』の歌詞には「ねえ?ねえ?ねえ?」というサビに入る前のフレーズがあるのですが、この部分がキャッチーだという評判も多くいただいています。実は以前、ヤマモトショウさんとラジオ番組で対談させてもらったことがあったので、私がどんな歌詞を求めているのか、なんとなくですが意思疎通できていたのかもしれません。
アイドルファンの生活に自然と寄り添えるSNSの発信を心がける
──バズった後のプロモーションやファンへのアプローチはどんな工夫をされましたか?
「FRUITS ZIPPER」もメンバーは、TikTokを普段からやっている子が多かったので、毎日投稿することを意識していました。TikTokのグループアカウントもあるので、それも毎日欠かさず投稿するのと、ファンの方の生活に溶け込めるような意識を持って、発信するコンテンツを考えていました。
今ではさまざまなSNSがありますが、SNSごとにファン層が異なっていて、Twitterはアイドルのコアファンが多い印象を持っています。例えば、朝には「おはよう」、お昼にはグループの活動が追えるコンテンツを投稿し、そして夜には「おやすみ」など、日々の生活に自然と寄り添えるようなSNSの発信の仕方を心がけています。
また、ライブがある日は、なるべくその日中に公演の様子を動画で即出しできるようにしていますね。熱量が高いうちに投稿することで、ファンの方々の反応も良く、拡散もしてもらいやすいんです。さらに、それぞれのメンバーにフォーカスした「推しカメラ」でYouTubeの動画制作をすることで、自分の“推し”がどんなパフォーマンスを見せたかも追えるように工夫しています。
来てくれたファンの方は公演をもう一度見て盛り上がれますし、来れなかったファンの方も実際のライブの様子を見ることで「次こそ会場に行きたい」と思ってもらえるきっかけづくりにもなる。当たり前のことですが、こういったアプローチを着実に積み上げていくことを大切に、地道にやっています。
日本独自のアイドル文化を反映したJ-POPを世界に広げたい
──国内外問わず多くのアイドルが誕生していますが、SNSの活用は必要不可欠とも言えます。木村さんのなかで、SNSの使い方がうまいと感じているアイドルはいますか?
TWICEなどK-POPアイドルは非常にSNSの使い方が、圧倒的にうまいと感じています。新しい楽曲をリリースする時も、ティザー映像の出し方やプロモーションの仕方など、話題づくりにとても長けていると思っています。言ってしまえば、新曲を出すたびにバズっているというか。SNSを巧みに使い分け、さらには新曲の制作プロセスまでもコンテンツとして発信し、ファンを巻き込んでいるんですよね。
日本のアイドルの中で、このように全方位なプロモーションができるグループって限られますし、「FRUITS ZIPPER」もまだできていない。今後、日本のアイドル文化を世界に発信していく上で、K-POPとは違う良さを出したいと思っているんです。今現在は世界的にK-POPが盛り上がっていますが、将来的にはJ-POPが認められるようにメンバーやファン、そして私たちプロデュースするスタッフが一緒に切磋琢磨し、日本を代表するアイドルグループを目指したいですね。
──ありがとうございます。それでは最後に木村さん自身の今後の展望について教えてください
「FRUITS ZIPPER」に関しては、『わたしの一番かわいいところ』がバズって以来、ファン層の割合が男性よりも女性の方が増えました。女性の方に愛用してもらえるファングッズの開発のほか、メンバーが着用する衣装も、かわいくて「私も真似してみたい!」と思ってもらえるような魅力を発信し、ファンに愛されるグループになれるようにこれからも頑張っていきたいですね。まだまだデビューして間もないアイドルグループなので、もっと多くの人に知ってもらえるようにSNSで積極的に発信し、ライブに足を運んでくれるファンももっと増やしたいです。
今の時代、私がアイドルをやっていた頃よりも、SNSが圧倒的に増えたと思っていて。コロナ禍で対バンライブの数が減少したことで、昔のようにライブ会場で推しのアイドルを知る機会が減っています。その代わり、動画全盛の時代だからこそ、SNS上で見かけたアイドルの仕草やしゃべる様子を見て好きになることが当たり前になっていますよね。「SNSで好きになって、リアルで会いに来てもらう」この流れをいろんな工夫をしながら作れるようにしていければと考えています。
「KAWAII LAB.」としては、2023年3月に新たなアイドルグループの結成が決まっているので、今後も海外で通用するようなアイドルグループを生み出し、日本のアイドル文化を世界に届けていきたいです。そのためには、私自身がアイドルプロデューサーとして成長しなくてはいけないので、これからも精進していきたいと思います!
■本記事のTIPS
・TikTokでバズるコンテンツを作るには「思わず踊りたくなる」と「ユーザーが投稿で使いたくなる」の2つが重要
・動画全盛の時代において、集客面では大切なのは「SNSで好きになって、リアルで会いに来たい」と思ってもらうこと
・K-POPアイドルのようにプロセスエコノミーを意識したSNSの活用が大きな話題喚起を生む原動力になる
FRUITS ZIPPER
2023年2月1日に『わたしの一番かわいいところ』作者のヤマモトショウと再びタッグを組み、バレンタインデーの新定番曲『ハピチョコ』をリリース!
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Writer:古田島大介
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