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西太后の付け爪〜映画の中のジュエリー・装身具〜

年末年始は自宅でゆっくりと過ごしていた。
いつもは長時間観ることもないテレビをつけて、番組表を見て、ふと気づいた。
あれ、お正月なのに映画が少ないな…。

学生の頃、年末年始といえば夜更かしして何本も映画を観たものだ。
その頃はネットで観たりサブスクなんてシステムもなかったから、情報源は深夜放送とレンタルショップ。家族も寝静まる深夜にここぞと映画を楽しんでいた。

B級っぽかったり、ちょっとホラーだったり、オチのない物語だったり、外国の映画で奇形の人物を扱ったものだったり…。
今はDVDが廃盤になっているような作品も、たまたま観た深夜放送で知ることが多かった。昔と今では放送基準が違っていたのだ。


世紀の悪女として名高い西太后を知ったのも、深夜の映画だった。
西太后を題材にした映画は多いので、どの作品を観たのか、いまいちはっきりしないのだけれど。
(たぶん、最初に観たのが『西太后』と『続 西太后』、その後に若い女優さんの少し軽めのストーリーのものを観たような…??)

女子校時代に、先生が
「ものすごく残酷な女帝で、あんな拷問やこんな拷問をしたんだ…」
と言い出し、皆で
「やだ怖いー!無理無理無理!」
「そんな人 本当にいたのー⁉︎」
と盛り上がったのを憶えている。

しかし、悪女のイメージは後世の作り話によるもので、ライバルの側室の手足を切り落とし生きたまま壷に入れたなどの残虐なエピソードはフィクションだった。

実際は政治的手腕を持つ優れた女帝ともいえる。
清朝末期という激動の時代背景と、容姿の美しい人でもあったから、悪女のスパイスを足して映画のモチーフとされたのだろう。
(古今東西、伝説となる悪女は美貌の持ち主であってほしいという大衆の願望もある?)


さてさて、劇中では西太后が金属製の付け爪の飾りで若い妃の顔を引っ掻くという描写があった。
他にも、先に書いた壷漬けの側室と会話をするところや、妊婦である妃を紐で吊るしてうつ伏せに落とすといった残虐極まりないシーンもあるが、それらをより不気味に見せていたのはあの長く豪華な付け爪だった。

調べてみると、実際の肖像画にも薬指と小指に長い付け爪がしっかり描かれている。

付け爪は正しくは「指甲套」(しこうとう、発音はzhijiatao)といい、長く伸ばした爪を保護しつつ高い身分を示すための装身具だったらしい。
長い爪=日常生活において、自ら何も手作業をする必要がない、貴人だけのおしゃれという意味だ。

指甲套の素材は、金・銀・銅・七宝・べっこう・めのうなど宝石とさまざま。西太后のシンボルのように感じてしまうが、実は清朝の后妃は皆がつけていたという。

また、肌が白く長い手指が美しいという当時の美意識から爪を伸ばすようになったが、どうやらこの国では豪華な指輪をはめるだけでは足りず、爪の装身具も発達したのだ。


「目は口ほどに…」という諺の通り、手も顔に劣らず表情豊かな部位だ。だから、現代のネイルアートも支持されているのだと思う。
清朝の衣装は肩も胸元も出さず全身を覆ってしまうので、袖からのぞく手を最大限に飾り、遠目にも目立たせ仕草を強調し、より魅力的に見せようとしたのもよく分かる。

「西太后と握手するとき、その付け爪が邪魔で大変痛い思いをした」
…と、当時の外国の外交官がわざわざ記録に残したというから、初めてあの付け爪を見た外国人の印象はどんなものだっただろう。

悪魔の尖った長い爪を連想し、東洋の魔物のように感じたのではないだろうか。
そんなところからも、悪女のイメージがより強く焼きつけられたのではないだろうか。



画像引用元
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/西太后


※このnoteは過去にShortNoteにて公開した記事に加筆修正したものです。

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