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ブリッジスのトランジション理論と「いちご白書をもう一度」

キャリアコンサルタントの勉強をした方なら誰でも知っている、ウィリアム・ブリッジスのトランジション理論について、少し触れましよう。

ブリッジスは、トランジションには下記の3段階があるといいます。個人的な経験からも、これはなかなか納得がいくものです。

 第1段階……何かが終わる時
 第2段階……ニュートラルゾーン
 第3段階……何かが始まる時

「トランジション」はまずは何かが終わるところから始まります。私が学習した当時のGCDF(キャリアコンサルタントの資格の1つ)のテキストには、第1段階はこう書かれています。

「それは必ず何かがうまくいかなくなるところから始まります。その時期には、それまでずっと慣れ親しんでいた場所や社会秩序(活動・人間関係・環境役割)」から引き離されて、もともと持っていた目標や計画に対する意欲がなくなり、混乱、空虚感を感じ、時として自分自身を失うことがあります」

そして第2段階は「ニュートラルゾーン」です。宙ぶらりんで不安感一杯の時期ですが、同様にGCDFのテキストから引用します。

「内的な再方向づけの時です。その時期には、昔の現実は色褪せ、過去の成功に確信がもてなくなり、深刻な空虚感を感じます。夢と夢の狭間、一時的な喪失状態とも言えます」

第3段階――「何かが始まる時」はこう表現されています。

「始まりは終わりと比較してあまり印象に残らない形で生じます。ただ、何かが違うな、というような変化を若干感じる程度かもしれません。他にも楽な選択肢があるという甘い誘惑に抵抗しながら、少しずつ目標に到達するまでのプロセスを踏んでいく状態のことです」

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大学から社会への移行期において、このトランジションのプロセスをどう踏んでいくかが、とても大切です。

そして、この中で特に大切なプロセスは、第2段階であるニュートラルゾーンです。慣れ親しんだ何かが終わるというのは、誰にとってもつらいものです。終わりに伴う喪失感と空虚感を味わいます。

しかし、このプロセスをきちんと経ることによって、次への下地が生まれます。

大学から社会への移行は、多くの人にとって、「時期がきたのでせざるを得ない移行」です。それ以前の移行とは全く性質が異なるため、なおさらこのプロセスが重要になります。

一方、企業の人材開発担当者が必死に構築する新人向け研修プログラムでは、一生懸命に創り込めば創り込むほど「ニュートラルゾーン」などといった中途半端なものを許容できないものになっていきます。

第2段階を飛ばして、性急に第3段階――組織への順応を求めるものになりがちです。第1段階すらできていないところで、第3段階が強要される、といえなくもありません。

しかし、新しいことを始めるためには、今までの古いことをきちんと終わらせる必要があります。これがきちんとできていないと、新しいことに正面からぶつかることができません。現実からついつい目をそらしてしまいます。

つらいことですが、自分の持ち味は活かしながら、過去を捨てる必要があるのです。

第1志望ではない企業に入ったという気持ちをまだ引きずっている人であれば、これはさらに難しくなります。

個々人の心のうちのことを、ブリッジスの「トランジションの3段階」のように綺麗な3つのプロセスで捉えることには無理があるでしょう。ただ、この3段階を意識することは大切です。いかにきちんと「終わり」をつくり、いかにきちんと「始まり」に対峙できるようにするかです。

大学でのキャリア教育と就職活動によって、この第1段階にしっかりと向き合うことができていればよいのですが、いずれもなかなかそのようには機能していません。というよりも、「移行」ということ自体が、ほとんど意識されていません。

内定時期と新入社員研修の時期が、「ニュートラルゾーン」として機能すればよいのかもしれませんが、健全な第1段階なくしての第2段階の出現は、難しいものがあります。

その結果、新入社員研修、もしくは現場配属後にはじめて第1段階に対峙し、そこでの喪失感から健全な「移行」をすることができずに、結果として早期退職にいたってしまうのではないかという仮説が成り立ちます。

この「移行」を意識させるうえでは、「内定式」も、有効に使えるかもしれません。

私のいる会社では、これまで内定式というものはやっていませんでした。どこにもないオリジナルのビジネスモデルを打ち立てた企業の自負として、横並びの普通の企画はやりたくないという思いもあり、毎年あえて10月1日をはずした前後の日に内定者を集めてはいたのですが、そこでも内定式という行事はやりませんでした。

でも、今年は担当者の思いもあって、これをやってみることにしました。

内定式の意義というのは、来年の4月からこの会社で社会人として頑張ろうという思いを内定者にあらためて固めてもらうことでしょうか。そのためには、次の3つの要素がポイントになるように思います。

(1)入社しようとしている企業について、あらためて深く知る。
(2)入社しようとしている企業で働いている人、これから一緒に入る同期の仲間について、あらためて深く知る。
(3)学生から社会への「移行」が大切であることをきちんと理解する。

最初に長々と書いてきたことは、(3)につながることです。

当社の今年の内定式は、2日間に渡りデザインされていました。

初日である10月1日の午後は、あえてトラディショナルな内定式を実施しました。内定通知書の交付といったセレモニーすらあります。

その理由の一つには、(3)――「移行」を意識させるということもありました。何かが変わることを伝えるわけです。

その晩には、面接官をつとめてくれた各部署の先輩方を交えたフランクな懇親会です(これは(1)と(2)が主な目的になります)。

そしてメインイベントは、2日目の朝から行った「芋煮会」。

芋煮会とは河川敷などでさまざまなグループで行われる東北地方に特有の季節行事で、東北では花見に匹敵するポピュラーさを誇り、最近では地域おこしのイベントに活用されたりもしています。

ちなみに、「全日本芋煮会同好会」という会があるのですが、そこでは「持ち寄る」「一緒につくる」「シェアする」の3つをコンセプトとしています。この要素は、組織で働くマインドにもそのままつながるものです。先輩社員にサポーターとして多数協力してもらい、内定者同士で異なるチームをつくります。

食材の調達こそ会社側が行うものの、あとは各チームの自主運営ですべてを行います。

チームビルディング、タスク管理、緊急対応、タイムマネジメント、意思決定、報告連絡相談など、企業に入って必要となる要素が、ここで疑似体験できます。 (後略)

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ブリッジスのトランジション三段階説を検索してたら、自分の書いた記事が出てきたので読んでみました。5年前の記事です。その前半部分を長々と引用しました。この感覚、今でも変わっていません。つい先日、このテーマで取材をいただきました。ある団体の組織内機関紙なので多くの方の目に触れる機会はありませんが、トランジションをテーマにした6ページのインタビュー記事になります。ありがたいですね。

で、ユーミン作詞の「いちご白書をもう一度」の2番です。

♬ 僕は無精ヒゲと髪をのばして
♬ 学生集会へも時々出かけた
♬ 就職が決まって髪を切ってきた時
♬ もう若くないさと
♬ 君にいいわけしたね
♬ 君もみるだろうか「いちご白書」を
♬ 2人だけのメモリー、どこかでもう一度
♬ 2人だけのメモリー、どこかでもう一度

これ、トランジション3段階説で語れますね。トランジションの唄、ニュートラルゾーンの唄です。

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※熊本も大阪も4月は延期になりました。写真は熊本の空。行きたかった。



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