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国鉄香椎駅と西鉄香椎駅は3分20秒で歩けた~冬の休日・点と線

前から行きたかった場所、香椎。松本清張の「点と線」を読んだのは、多分小学5年生か6年生でしょうか。日本のSF界をブルトーザーのように開拓していった小松左京同様に、日本のミステリー界を開拓された方ですね。「点と線」は鉄道ミステリの傑作です。当時、愛読書の1つに時刻表をあげていた子供の頃の自分としては、東京駅ホームの4分間の話と、国鉄香椎と西鉄香椎の11分の話はしびれる話でした。

香椎の海岸で男女の心中死体が発見されるのですが、この男女、国鉄の香椎駅で目撃され、その後に西鉄香椎駅から海岸へと向かうあたりでも別の目撃者に見られています。国鉄の香椎から西鉄の香椎を通って海岸に出るという位置関係ですね。両方の目撃証言から推測すると、国鉄香椎から西鉄香椎までの間、このカップルは11分かかっています。しかし刑事が歩いてみると5〜6分あれば西鉄香椎に着きます。どこかに立ち寄った形跡もない。実は2つの目撃証人は違う2人連れではないか、心中は心中に見せかけられた殺人ではないか、と刑事の推理は進みます(曖昧な記憶で書いてますが、だいたいこんな感じだったはずです)。ということで、大きくなったら国鉄香椎駅と西鉄香椎駅の間は歩くと何分かかるのか、自分の足で歩いて確認してみたいと少年は思ったのです。

2年ぶりにナカハラジュンカレンダーを博多まで取りに来た少年はすでに初老です。休日の晴れた朝、天神で朝ラーをすすりながら「そうだ、今日こそ香椎に行こう!」と決意します。香椎は少年のイメージよりも博多の中心街に近かったです。国鉄はすでにJR九州と名前を変えていました。そして初老の少年は香椎駅に降り立ちます。

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夢にまでみた香椎に来れました。さて、鹿児島本線のホームを出ると駅前広場です。目撃証人の1人であった角の果物屋はありません。ていうか、どれが当時の角だかわかりません。改札を出た2階から見渡すと、驚くほど近くに鉄道高架が見えます。おそらくあれが西鉄でしょう。近いです。さて、駅はどっち側かなと考えつつ、ここでスマホのストップウオッチをオンします。時間の計測開始です。地上に降りて西鉄香椎と思われる方向に向かいます。ロータリーを超えて高架にぶつかる前あたりで、左右をキョロキョロと見ます。右側にホームが見えます。うどん居酒屋、バーガーショップ、ラーメン屋などを横目にみながら高架沿いを歩くと、早くも西鉄香椎駅に着きます。改札の前まで行ってストップウオッチを押します。なんと所要時間は3分20秒。明らかにあの男女は別々の2組だったのです

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次に海岸の心中現場を目指します。駅前を降りたときから覚悟はしてましたが、日本の高度経済成長期を経て街はすっかり変貌しています。行けども行けども海はありません。埋め立てられたのでしょう。ここでグーグルマップに頼りますが、どうやら海はまだはるか彼方のようです。しかも、心中をするような情緒的な海岸など期待できそうもありません。これはもはや香椎という街は心中に選ぶ立地ではなくなってしまったということでしょう。そうこう考えながら歩いていると川にぶち当たります。これを右に下れば海のようです。ただかなり距離があります。きっと当時の海岸線はこの川のあたりだったのではないでしょうか。そして、心中現場もここに違いないと勝手に決めつけ、心の中で黙祷して現地を立ち去ります。どのみちもともとがフィクションなので確実な事実などベースにはありませんから、妄想の世界で場所を決めても問題はないでしょう。それにしても、香椎って艶っぽい地名だな。

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さあ、今度は西鉄で博多の街に戻るかと思いましたが、突然、香椎からJRの香椎線に乗ろうかなと思いつきました。時刻表を見たら8分後に出ます。ラッキーです。香椎線で終点の西戸崎まで行ってみます。いい感じの単線です。にしとざきではなく、さいとざきです。

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終着駅が好きです。線路止めのある駅ですね。さて、昼時なので何が食うもんあるかなと思って、たぶんこっち側が街ではないかと思う方に歩き始めます。歩き始めた道をすぐにまた左に曲がると博多市街への高速連絡船の波止場があるようです。ネットで時刻表をみてみたら15分後に出る船があります。一瞬だけ悩みましたが、食事は後にして波止場へ向かうことにします。博多までの運行時間はわずかに15分、あっという間の海の旅です。ああ、休日らしい行き当たりばったりの行動です。博多の街中では、晴れ着姿を大勢見かけます。成人式です。大人になるって素敵ですね。

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