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「聴く」力の重要性  安心して語れる関係に ~日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2020.07)

ご依頼を受けて、ちょこちょこ書いていたもののアーカイブをNOTEでしておくことにしました。今日は日経産業新聞の連載からです。一昨年の暮れくらいから、6~7名でリレー連載のようなものを書いてます。早いもので16回目の連載になります。各内容は広い意味でHRに関係があれば何でもOK。今回はキャリアカウンセラーを目指す人事担当者に想いを馳せています。

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日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2020.07)
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「聴く」力の重要性  安心して語れる関係に
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私は本業で企業の人事部長を務める傍ら、副業で週末にキャリアカウンセラー養成講座の講師を担当しています。キャリアカウンセラーは「キャリアコンサルタント」という国家資格にもなり、今や人気資格の一つです。
ここにきて増えているのが人事担当者の受講です。特に若手の人事担当者や、新たに人事部門に異動してきた人の受講が目立ちます。これには理由がありそうです。
キャリアカウンリングには大きく二つの難しさがあります。一つは関連知識が多岐にわたること。キャリアやカウンセリングの理論はもちろん、労働法、労働市場、業界・職種の特性、メンタルヘルス、マネープランなど職業人のキャリア相談への対応に必要な知識は多様です。
二つ目は解決までの期限が限られているケースが多いことです。就職活動中の大学四年生の支援をイメージすれば理解できるかと思います。
そんなキャリアカウンセリングですが、何よりも重要なのは、しっかりと相談者の話を聴くことです。他人には話しにくいことや深く重い話まで、相談者が安心して語れる関係が必要です。
相談者は自分の気持ちを言葉にし、カウンセラーの応答を聴きながら、様々なことを考えます。そのプロセスで自己理解を深め、最後には自らの力で意思決定をする。キャリアカウンセラーは、人の話を聴くプロフェッショナルでなければなりません。
振り返ってみると、私たちは多くの場合、聴くスキルを学んだ経験がありません。発表やプレゼンテーションなどを通じて話すスキルはそれなりに学んでいるのとは対照的です。
人事担当に求められてきた能力も、以前は話す力が主流でした。会社の施策や制度を社員にきちんと伝えること、しっかりと理解できるように話すことが重要でした。聴く力があまり着目されなかった理由は、従来の日本企業の特徴にあります。
人事施策を決めるのは会社であり、社員にそれを徹底することが企業運営のポイントでした。新卒一括採用や企業内人材育成により、画一的な人材を育て上げるため、人事制度も選択の余地など不要で、社員の意見を聴く必要もなかった。
単身赴任のように、自らの生活を犠牲にしてでも会社の指示に従うのが当たり前だったことも大きい。聴く力が大切になってきたのは、こうしたありようが完全に変わってきたためです。
今や中途採用が当たり前になり、社内には多様な職種が生まれ、多様なバックボーンを持つ人が増えました。今回のコロナウイルス禍に伴うテレワークの拡大で働く場所すら多様化しました。
まず社員の声を聴くことから始めないと、効果的な人事制度も施策も考えることができなくなってきたのです。その上、組織開発や個人のキャリア支援も人事の重要な仕事になりました。これらは社員一人ひとりの話に耳を傾けない限り、絶対にできない仕事です。
しかし、いざやってみると聴くことの難しさに誰もが気づかされます。様子が気になって面談をしたのに、本当の気持ちを把握できずに優秀な社員が退職してしまったという辛い経験を持つ人事担当者は少なくないでしょう。
もっと体系的に聴く力を学びたいと思う人事担当者の多くが、キャリアカウンセラー養成講座の門をたたくのです。人事の仕事も新しい時代に入っています。

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