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「そして、清田五郎」

こんにちは、団土也(だんつちや)です

ある日、清田さんが「チョットチョット」と私の腕をつかみ人気のない所へといざなって、小声で告げたのです

「実はさぁ、この前本を大量に拾ったんだよ!本棚一つ分くらいと、あと色々な書類の入ったファイルをさ!」

清田さんは怪しく瞳を光らせながら語った

「俺、長年拾ってるから分かるんだよなぁ!多分一人暮らしの住民が亡くなると業者が部屋の整理をするんだ、きっとそのパターンだな!」

私は良くそんもん拾うよな!と思いながら聞いていた

「それがさ、映画好き!というよりはマニアだな!…ファイルに見た映画の感想や善し悪しを点数付けして邦画、洋画合わせて分厚いファイルが3冊だぜ!後は映画の本や写真集が大量だ!当分の間、退屈しねぇや!」

話を切り上げて立ち去ろうとする私を引き留めて彼が言うには

「おぅ、おぅ!待ちねぇ、待ちねぇよ!…話はこっからだよぅ!おめぇ、いんぐりっどばあぐまんって知ってるかい?…ハリウッド女優だよぅ!」

私は心の中で、「いん….あ~イングリッドバーグマンね…」と、山形訛りだとよく分からなかったが「カサブランカ」と言う映画に出て来る女優だな!と思っていた

「そのいんぐりっどばあぐまん」の伝記本がその中に有ってよ、立派な厚い表紙のやつだよ!それをヒョイとめくったらよぅ、中がカッターで四角く、くりぬいてあるのよ!まるで宝石の隠し小箱の様によ!…それでよ、中に何が入ってたと思う…」

清田さんは怪しく笑っているのだが、瞳は真剣そのもので、生唾を大きな音で飲み込み、更に声を落として私の耳に口が触れるほどに近づきながら言った

「キャッシュカードだよ…」

くさっ!清田さんは口がカラカラに乾いていたからか、口がくさっ!と思ったが、それは心に留めて私は言った

「それは犯罪だよぅ!それにカードだけ持ってても暗証番号を知らなけりゃ使えないじゃない!変な事に首を突っ込むのはやめた方がいいよ!」

清田さんは、ふっと穏やかな顔に戻り

「な~に別にどうこうしようとは思っちゃいねぇよ!ねこばばするつもりもねぇ!ただよ物事には巡り合わせってもんがあるだろう…例えばよぅ」

清田さんは続けた

「余命僅かな剣豪が居たとするわなぁ、そいつの持ってる生涯の愛刀をよ、誰かに託そうとするも、これといった縁者が居ねぇ、困った剣豪は病身を押して旅に出るんだよ!自分の愛刀を託せる誰かと巡り合う為にな!そして旅先の道端に座り込んで道行く人を眺め続けるんだ、そこに「これだ!」と思った骨のある奴が通りかかった。剣豪は最後の力を振り絞り、刀をそいつに差し出す!勿論無言でだ!そこでこと切れてしまう…おめぇどう思う?…この状況をよぅ!…どう思うかって聞いてんだよぅ?…俺だったらこう思うね「もし…旅のお方、どうかその刀を…剣豪の魂を受け取って下さいまし!」ってな!」

映画好きにしてみたら「いんぐりっどばあぐまん」の本は剣豪にとっての愛刀と同じさ…へへっ、時間取らせちまったなぁ…いつの時代もホントの侍は時代遅れってもんだぜ!…またな、あばよ!

清田さんはよく分からない理論を展開し、あげく肩で風を切って去っていった…私にとっては、眠気をこらえるのが大変だったある日の昼下がりだった


〜続く〜

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