安らぎの宿「看取り屋」②~キャスティングミス?
いつ行っても黄昏時の街にある安らぎの宿「看取り屋旅館」
女将のトシメが中居のワカメに神妙な面持ちで言った
大事な話しがあるの「夕陽の間」のお客様は先日ワカメちゃんが担当した子猫を虐げた人なの…だから罪と罰、そして償いをさせなきゃいけないわ。
この毒入り酒を勧めて飲ませなさい、そうすれば彼の魂は多大な苦しみを味わいながら消えて無くなる…あんな人はもう生まれ変わらない方が良いのよ!ワカメちゃん出来るわね、貴女がやるのよ!
とまどった顔で、どうすれば良いのか分からぬまま、毒入りのお酒を持ち夕陽の間へ向かったワカメ…。
部屋の中で無言でうつ向くワカメに彼は言った。
聞こえちゃったよ、そのお酒を君は僕に勧めるんだろう?私は小動物を見ると虐めたくなってしまうんだ、こんな風に生まれついたのは僕の責任なのかい?
西洋でも東洋でも空飛ぶ小さな雀は勿論、兎の毛の先程の小さな事までも神様の采配って言うじゃないか…それにこの物語には顔の崩れた子猫と蹴飛ばした僕が居てこそ成り立つお話しだろう?
食べる為ではなく生き物の命で気分を満たす…例えば動物を戦わせたり、気分転換に釣りをして爽快感を味わったり…そう言う人達と僕との違いなんて微々たるものだと思うけどな。でも本当は僕だって普通になりたいだよ!
世間一般が嫌がる悪い事を平気で、無意識にしてしまう人もいれば、どうしても出来ない人もいるのは何故だい?分からない…自分自身の事もよく分からないんだ。
でもワカメさんを困らせるのも心苦しいからそのお酒を飲んであげるよ、そうすれば君の役割も果たせるだろ?やっぱり僕が生まれてきたのはキャスティングミスだったのかな…。
彼は肩を震わせながらうつむくワカメの手から毒入りの酒を奪い取り、ぐびぐびと飲んでしまいました。すると意識が遠のいて虚ろな目でたおれこんでしまったのです。
その時、襖がスーッと開き先日旅立ったはずの彼が虐めた子猫が入って来て、彼の口からこぼれている毒入りの酒をペロペロと舐めました。
「止めてー!それは毒入りなのよー!」と叫ぶワカメに子猫は言いました。
「それでもやっぱり人間が好きなんだ!遠くからこの人の声と匂いがしたから戻ってきたんだよ。言っただろ、もう一度懲りずに人間に関わりあってみるって!野良の一人旅で旅立とうと思ったんだが、たとえ苦しみでも分かち合える人間がいるならそれでいいんだよ…!」そう言いながら倒れた彼に寄り添うように子猫は丸まって静かになってしまいました。
ワカメは一目散に女将の部屋に向かって駆け出し「お願いします!解毒剤を下さい、お願いします…」と叫んでいました…。
〜続く〜
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