デジタルトランスフォーメーションと私たちができること Knowledge CAMP #2 レポート
感染症の拡大により人と物の行動が制限され、社会における購買行動が大きく変化した2020年。本来であればもっと主体的に順を追ってデジタルトランスフォーメーションに取り組むべきところですが、私たちは今、そうも言っていられない状況にあります。
特に製造業では、小売業に比べデジタル技術を導入しようという動きが鈍かったのが現状です。顧客の消費行動が変わり、デジタルの活用をせざるを得なくなった、というのが本音ではないでしょうか。
JAPAN BRAND FESTIVAL 2021のスピンオフプログラム「Knowledge CAMP(ナレッジ・キャンプ:以下『CAMP』)」。第2回となる今回は、CAMPのモデレーターであり、ミテモ株式会社で代表を務める澤田哲也さんを講師に、デジタルトランスフォーメーションの考え方や実践の方法を学びます。
>JAPAN BRAND FESTIVALとは?
https://jbfes.com/about/
>Knowledge CAMP #1レポート
https://note.com/jbf/n/n762a4f945d08
日常生活のデジタル化が購買行動を変えた
DXと聞くとどんなイメージを持つでしょうか?業務効率化、顧客コミュニケーションのデジタル化をイメージする人が多いかもしれません。
ご存じの通り、DXは昨今の世界的な感染症拡大によって一気に加速しました。在宅勤務やリモートワークの普及、テレワーク、オンライン会議などコミュニケーションの分野で多く見られます。それによって都心部ではオフィスを解約する企業も増えてきています。東京に住む必要性がなくなり、地方に移住する人も増えたことで対面コミュニケーションのデジタル化が進んでいます。
また、消費者の購買行動もネットスーパーやECモールといったオンラインの割合が増えています。小売店のアプリやメールマガジンが購入のきっかけになる例も多く見られます。その要因として、スマートフォンの普及は欠かせないでしょう。10年前は1割にも満たなかったスマートフォン保有率は今や85%にも及び、60歳以上でも4分の3近くの人が持っています。情報収集にスマートフォンを使う人々が圧倒的に増え、同時に購買行動の流れも変わったと言えそうです。
アフターデジタルの世界では、リアルの価値が向上する
デジタルが発達すると、相対的にオフラインやリアルの価値が上がるのではないかと予測されています。従来のデジタルの立ち位置は、端的に言ってリアルの付加価値に過ぎませんでした。しかし、デジタルファースト時代におけるリアルは貴重な存在になるのではないでしょうか。「せっかくだから」「これだけは特別」というタイミングで足を運んだり実体を購入したりと、リアルに対する期待値が上がることが予想されます。
また、デジタルが発達することによって今後はモノのサービス化が進むことが予想されます。その代表例がシェアサイクルです。都心では、手間を掛けず手軽に移動することに対するニーズはある一方、自転車を所有することに重きを置く人は少数です。維持費や駐輪などの負荷を考えると、シェアサイクルの需要が年々高まっていることも頷けます。
そうなると、自転車メーカーにとってのクライアントは一般消費者ではなくサービサーになります。サービサーの購買の判断軸はデザインやブランドよりもコストパフォーマンスが優先されるでしょう。今、自社の価値はこれだと思っているものが揺らぐ可能性が出てきます。
もちろん、必ずしもすべてがサービス化するとは限りません。アフターデジタルの世界で事業を進めるにあたって、前回学習した機能価値、サービス価値、イメージ価値のうちどの部分を尖らせるかは改めて議論するべきポイントと言えそうです。
越境ECに参入するには?世界の最新EC事情
購買活動のデジタル化としてECに取り組みたいと考えている方も多いのではないでしょうか。日本の中小企業の海外展開を支援しているDavid Wangさんをゲストに迎え、世界の最新EC事情を伺いました。
ECの市場規模は年々拡大しており、2014年には1.4兆ドルだったのが2021年には4.9兆ドルにまで成長する見込みです。バリエーションも多様で、小売だけでなく卸や在庫を持たないドロップシッピング、またオンライン英会話のようにサービスを提供するECも増えてきました。
海外との取引が含まれるECは「越境EC」と呼ばれます。日本ではあまりポピュラーなイメージがないかもしれませんが、国外のECサイトを利用している人の割合は全世界で平均して50%以上にも及びます。
越境ECに参入するには自社サイトを立ち上げる方法と現地のECモールやマーケットプレイスに出店する方法の二種類が主流です。Amazonや淘宝網のような現地のマーケットプレイスを利用すると、すでにローカライゼーションがなされているため、リソースを最小限に抑えて海外展開できるというメリットがあります。マーケットプレイス自体の固定客がすでにいることも強みと言えるでしょう。
「D2C」はDirect to Consumerの略称で、生産者が消費者と直接取引する販売方法です。通常であれば問屋や小売店を介在して消費者に届けますが、D2Cの場合は基本的に広告・販売チャネルを挟むのみで、ワンストップで消費者と取引を行うことができます。中間マージンが発生しない分、利益率を高めることができるだけでなく、顧客との直接の対話がロイヤリティを高めることにも繋がります。
しかし、ECを始めれば必ず成功するとは限りません。海外展開、売上の拡大など、明確なゴールをあらかじめ設定することが重要です。そして自社の現状や強み弱みをしっかり把握し、スタートラインを引くこと。
スタートとゴールが明確になると、そのギャップを埋める手段やその後の運営方法も変わってきます。自社サイトを立ち上げるべきか、マーケットプレイスに参入するべきか、あるいはその他の方法か。物流、マーケティング、アフターフォローなども含め総合的に検討しながら、自社に合った手段を選びましょう。
現代の購買行動モデル「DECAX」に応えるコンテンツマーケティング
デジタルトランスフォーメーションの手段はECだけではありません。デジタル活用の目的は顧客に提供する体験価値の向上です。ユーザーに対して価値のあるコンテンツを提供することで見込み顧客や購買意欲を育てる施策はコンテンツマーケティングと呼ばれています。
インターネットの普及により購買行動モデルがAIDMAからAISASへと変化した、というのが2000年頃までのハイライトですが、コンテンツマーケティングが登場したことでさらにDECAX(デキャックス)と呼ばれる新たな購買行動モデルが提唱されるようになりました。
何らかのニーズを持つ消費者が有益な情報を発見し(Discovery)、何度もウェブサイトやSNSにアクセスすることで関係性を深め(Engage)、その企業の商品を購買対象として吟味し(Check)購入する(Action)。顧客が利用し体験したことをSNSなどで共有する(EXperience)ことでまた情報に触れる消費者が生まれる、というサイクルです。
コンテンツにはウェブページだけでなくYouTubeの動画やイベントなども含まれます。顧客が知りたいと思うような情報の発信を重ねると、関連キーワードから流入した訪問者に認知され、自社の事業にも目を向けられるようになります。すぐに成果が出るものではありませんが、裏を返せば継続的に取り組むことでコンテンツとともにブランド力も醸成され、中長期的に高い費用対効果が期待できます。
関係性の構築だけでなく商機を取りこぼさないよう、ニーズに応えられるランディングページを構えておくことも忘れてはなりません。顧客にとってのメリットが明確に感じられること、メリットの論拠、自社が持つ競合優位性、その他の特長などを伝えられていることが重要です。BEAFの法則(Benefit/Evidence/Advantage/Feature)として覚えておくと良いでしょう。
ワーク:自社が発信できそうなコンテンツを検討する
コンテンツマーケティングに取り組むかどうかはさておき、考え方を理解するためにワークに取り組んでみましょう。人や技術、機械設備、方法、材料、システムといったさまざまな視点から発信できる自社が発信できそうなコンテンツを考えてみました。
精密加工技術を活かしアクセサリーブランドを立ち上げた株式会社松一の強みの一つは、素材の丈夫さ。とても硬い素材のため、指輪などを着けたまま家事をしても傷がつきにくく、また変色することもありません。アクセサリーに使われる素材の特徴と選び方、といった情報をコンテンツ化すると「大事な指輪だから」とたびたび外してアクセサリーをなくしてしまう女性にリーチするのではないか、というアイデアが挙がりました。
また、特殊な工具を使ってラグマットを一点一点手作りしている穂積繊維工業株式会社は、その製造工程がユニーク。「まるで壁面に田植えをしているよう」と例えられる製造の様子は映像コンテンツとしても価値があるのでは、という案が出ました。また、デニムの廃材や服の端切れを使って敷物を編むこともできるというユニークさは、エシカルなライフスタイルを好む人々に訴求できる部分もありそうです。
次回Knowledge CAMPは12/3!テーマは「資金調達と補助金活用」
今回のCAMPはここまで。次回は12月3日、「資金調達と補助金活用」をテーマに開催します。新しい事業展開を構想しつつも資金不足で二の足を踏む事業者がいる一方で、情報が行き渡らず活用されていない補助金もあるのが実情です。実践的な情報やナレッジを共有できる場としてのCAMPに引き続きご期待ください。
執筆:吉澤 瑠美
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