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中小企業にこそトライして欲しい、デザイン経営 Knowledge CAMP #5 レポート

2018年に経産省、特許庁が発表した「『デザイン経営』宣言」。企業経営全般にデザインを取り入れるとはどういうことなのでしょうか?

JAPAN BRAND FESTIVAL 2021のスピンオフプログラム「Knowledge CAMP(ナレッジ・キャンプ:以下『CAMP』)」。第5回では「デザイン経営とブランディング」を学び、自社のもつブランドのコアコンセプトを見直します

>JAPAN BRAND FESTIVALとは?
https://jbfes.com/about/

>Knowledge CAMP #1レポート
https://note.com/jbf/n/n762a4f945d08

>Knowledge CAMP #2レポート
https://note.com/jbf/n/n8623d063b33f

>Knowledge CAMP #3レポート
https://note.com/jbf/n/n445cc481f791

>Knowledge CAMP #4レポート
https://note.com/jbf/n/n3a6f86e566b3

「デザイン経営」とは何か?「『デザイン経営』宣言」を読み解く

2018年、経済産業省・特許庁は企業競争力の向上を狙い「『デザイン経営』宣言」と題した報告書を発表しました。顧客ニーズを具現化し満たしていく手法として、経営や技術に対しても「デザイン」を取り入れ、企業価値を高めることが求められています

参考:「産業競争力とデザインを考える研究会」の報告書を取りまとめました
https://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180523002/20180523002.html

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デザイン経営は主に「ブランド構築」と「イノベーション」の2つの側面に資するものとされています。デザインの力を使って他社・他商品との違いや独自性を的確にアピールし、顧客から選ばれるコミュニケーションをデザインしていくことがブランド構築に繋がりますし、大義やビジョン、企業経営の根幹となる意志をもって社会課題を解決していくことをイノベーションと捉えると、課題を捉え直す視点やアイデアを具現化する場面でデザインは大いに効果を発揮します。

デザインする対象は広範にわたります。プロダクトやサービス体験、そのパッケージを「デザイン」することは言うまでもありませんが、その他にも企業が持つビジョンやミッション、企業価値を具体化、言語化することも「デザイン」の一つですし、ビジネスモデルや流通、事業に関わる人々の関係性を整理・構築することも「デザイン」と言えます

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中小企業はデザイン経営を取り入れられないのか?「共創」で実現する3つの方法

「『デザイン経営』宣言」の中で、デザイン経営の定義として2つのポイントが挙げられています。一つは、経営チームと並列の位置にデザイン責任者(CDO)を置くこと。もう一つは、経営戦略を構築する最上流の工程からデザインが関与することです

しかしデザイン責任者として新しい人材を登用することは容易ではありません。実際、先進事例として名前が挙がるのもスノーピークや良品計画といった大企業が中心でした。

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では、中小企業にもデザイン経営を活用できる方法はないのでしょうか。「『デザイン経営』宣言」の編集を支援したロフトワークで、地域産業支援に関連するプロジェクトを手掛ける二本栁 友彦さんは3つの方法を定義しています。

1つめは、定義に従ってデザイン経営に挑戦する方法。つまり、CDOやプロデュースチームを設置してチームを作る方法です。ある程度大規模な組織で、デザイン経営に積極的に取り組みたいと考えている場合には可能でしょう。CDOには経営陣と同レベルの権限移譲が求められます。また、デザインプロデュースチームをただ設けるだけではなく、メンバーへの徹底した教育も必要です。

社内にデザインチームを設けるのは難しいものの、個社で取り組む体力がある場合は社外のデザイナーやプロデュースチームと体制を構築する方法が考えられます。これが2つめです。外部のデザインプロデュースチームと契約を結ぶ必要があるほか、社内のメンバーにも教育は必要でしょう。チームを機能させるには、明確な目的やイメージを伝えられる発注側としてのリテラシーが必須です。

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小規模経営のため、個社で予算を組むのが難しい場合は、3つめの方法として協同組合など事業者側もチームを組みデザインプロデュースチームと共創するパターンを考えてもよいでしょう。

デザイン経営はあくまで一つの概念であり、当てはまらない場合もあります。新しい概念や新しい行動には抵抗を感じる人も少なくありませんが、意識を変えるためのスイッチと捉えて「まずはやってみる」姿勢が大切なようです。

参考:「中小企業のデザイン経営 〜経営者のビジョンが文化をつくる〜」
https://loftwork.com/jp/news/2020/03/05_design-driven-management_report


デザイン経営の実践者に聞く:合同会社シーラカンス食堂 小林新也さん

デザインという軸で地域のものづくりを支援する小林新也さん(合同会社シーラカンス食堂)は、言わばデザイン経営の実践者です。伝統工芸や伝統産業を現代に継承するにはプロダクトデザインやグラフィックデザインなどのデザイン提供だけでは「その先に行けない」と感じ、2013年からはブランディングや販路開拓も含めた支援をしています。

商品開発や販路開拓活動には4段階のプロセスがあると小林さんは語ります。補助金が対象になるのはステップ3、4のみで、多くの人はそこにばかり目を向けがちです。しかし「一番大切なのはステップ1、2」であると小林さん。どういうことなのか、挙げていただいた事例のひとつをご紹介しましょう。

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島根県江津市の元重製陶所は、すり鉢の国内シェア70%を占める石見焼の窯元です。地元の土と釉薬を使い、2日で2000個のすり鉢を生産。それだけの大量生産を行いながらも、「押し型にすると目が丸くなってしまう」とのこだわりから、すり目は一点一点すべて手描きを徹底しています。彼らにとって当たり前の生産工程でも、他社にない洗練された技術と「すりおろしたての美味しさ」を届けたいという想いが込められていることがわかります。

一方で、ライフスタイルの変化などからすり鉢を使わない加工食品が普及し、市場規模そのものが縮小傾向に。売上に陰りが見え始めている状況を覆す転換点が必要という課題もありました。量産のしやすさを基準に採用され続けてきた現在の形状を見直し、生産効率よりも道具としての使いやすさや購買意欲を掻き立てる商品の開発を目指すプロジェクトが走り出しました。


ターゲット像を具体的に描き、デザインの力で世界観を訴求

ターゲットは30〜40代前後。経済的にも多少余裕が生まれ、家族との生活を充実させていく世代です。ライフスタイルに合ったデザイン性の高いのものを好み、より便利な商品の情報をオンラインで収集することも少なくありません。そこで地元の土を使う、目地を手描きで入れるといった既存の価値は活かしつつ、安定性のある使いやすい形状と手作りの価値を視覚的にも感じられるデザインを目指しました。この商品シリーズは「もとしげ」と名付けられ、これまでの定番商品とはコンセプトやデザイン、販路も一線を画すブランドとして開発されました。

商品が完成したら、イメージ写真を撮影します。写真のクオリティは商品の印象や価値を左右する大切なものです。利用シーンやブランドの世界観を想起させる写真にすると同時に、インパクトを与える工夫を凝らしました。目を引くようなイメージ写真で覚えてもらうためです。

ブランドロゴは、すり鉢とおろし器の特徴をロゴに落とし込んだシンプルなものになりました。パッケージも日本の過剰包装が海外では敬遠される傾向にあるため、ボール紙の箱にロゴステッカーを貼っただけのラフなものです。対照的に、パンフレットには地域背景や石見焼の紹介、もとしげの想いをまとめ、総じて購入者にもとしげの魅力を端的に伝えられるように仕上がっています。写真やロゴは展示会のブースにも展開し、一貫した世界観を発信しています。

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また、展示会と並行してクラウドファンディングにも挑戦しました。購入をクラウドファンディングに促すことで、顧客情報が直接入手できる販売チャネルとしても役立ちました。売上や購買者層といったデータは社内外でのPR、説得材料にもなります。事実、元重製陶所でもこの商品開発は当初難色を示されていましたが、売上の成果を報告して初めて事業の意義が認められました。


商品開発は「作って終わり」ではない!改善を重ね世界で愛されるMOTOSHIGEへ

すり鉢やおろし器は海外でも知られており、調理器具として販売されています。そこに勝算を見出した小林さんは、写真を撮り直し海外用のパンフレットを作成するなど、もとしげの海外販路開拓にさっそく取り掛かりました。予想は的中、日本の展示会に訪れていたディストリビューターの目に留まり北米に展開。彼の扱う日本商材の中で「今もっとも売れている商品がMOTOSHIGE」と言わしめました。現在はヨーロッパ、オセアニア圏にもディストリビューターがおり、各地で販売されています。

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海外の販売店には頻繁に足を運ぶことができません。現地でどのように売られているか、ディストリビューターからこまめにフィードバックを受けて改善やローカライズに対応していくこと、作って終わりではなく、ステップ3、4を行き来して継続していくことが海外展開では重要です。

もとしげは、従来の商品に比べ生産量は下がったものの利益率は高く、また新たな商圏を開拓できていることから結果としてプラスに働いています。従来品と同じ素材、同じ窯で焼けるので、生産者の負担やリスクを最小限に抑えられる点もポイントです。「とりあえずトライすること」がデザイン経営の重要な要素、と小林さんは語りました。


ワーク:ブランドのコアコンセプトは?自社事業のビジョンとターゲット

小林さんのプレゼンテーションを参考に、CAMP参加者もシートに基づいて自社事業のビジョンとターゲットを整理し共有しました。

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宮崎県で和装の染織物を手掛ける株式会社綾の手は、織物づくりの伝統技法を次世代に伝承するというビジョンを提示しました。小林さんのプレゼンテーションを受け、養蚕から染織まで一貫した手仕事を50年にわたり積み重ねてきたことの意義を改めて実感するとともに、その価値を伝えていくためにも市場やターゲットに目を向けてどのようなアウトプットをしていくべきか考えたい、と課題を見出していました。

北海道の森の香りを通じて人々に喜びや幸せを提供したいというグラース株式会社は、事業を立ち上げた際の体験を「憧れていた天然香料の産地であるグラース(フランス)を訪れた際、地元である北海道の景色と重なり、北海道の自然の恵みを香りに変えて届けようと思った」と振り返りました。他社には語れない、グラース株式会社ならではのエピソードで、コアコンセプトのとても重要な要素になりそうです。


3月4〜7日JAPAN BRAND FESTIVAL 2021にCAMP参加事業者が登壇!

次回のCAMPでは5回の講義を受けて、参加事業者が各々の事業展開をプレゼンテーションします。そして来る3月4日から7日にかけて「JAPAN BRAND FESTIVAL 2021」を渋谷ヒカリエにて開催します。CAMPの参加事業者各社も20分間のトークセッションで出演。また、会期中は商材や事業を紹介する展示なども行われます。

詳細は追って発表しますが、昨今の状況を鑑みて会場観覧とライブ配信の両方で参加いただけるよう準備を進めていますので、ご興味をお持ちの方はぜひご参加いただきたいと思います。


執筆:吉澤 瑠美

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