見出し画像

「おしゃれ」と言われるひと

中学の卒業文集みたいなのに、クラスの○○な人トップ3みたいなランキングがあった。男女それぞれのお題に合った人を投票して、上位3名を発表するみたいなやつだ。そのランキングでおしゃれだと思う人で、ぼくが男子の1位に選ばれていた。なんとなく小っ恥ずかしかったが、うれしかった。だが、カッコいいと思う人とか他のランキングには選ばれてなかったので、見てくれが良くて選ばれたわけではないことは認識していた(つもり)だ。

しかし、おしゃれとはなんぞや?と、思う。ファッションなのか聴いている音楽を指しているのか、それともなにか他の基準があったのか?

中学生の頃は、服を買うと言っても近所のユニー(東海地方の大手スーパー。今のアピタ)の2階にあった服売り場くらいのものだった。
だが、ぼくは音楽を好きになったのと同時に、ミュージシャンのファッションにも興味を惹かれた。かと言って、当時の音楽の流行はロンドンを中心としたニューロマンティックと、アメリカの西海岸を中心としたヘアメタルが人気を二分しており、さすがにボーイ・ジョージのようなカラフルで華やかなユニセックスなファッションやモトリー・クルーのようなピチピチのタイツにレザーアクセサリーと破れて肌を露出したシャツなんかに憧れていたわけではない。まして、ブルージーンズにホワイトのTシャツのブルース・スプリングスティーンや浜省にもなりたくはなかった。時代的にもカラフルなファッションが流行っていた。

一方、パンクの流れから出てきた、ポジティブパンクとかゴシックロックは、黒を基調とした地味だが目立つファッションをしていた。ぼくは、そちらの方が気にはなっていた。日本の音楽雑誌でも表紙を飾ることはないが、カラーページの最後の方に1ページか半ページくらいに掲載されるようなバンドのファッションだ。
今で言う「ゴスロリ」の原点となるのだろうが、当時はそんな格好している女の子はいなかった(と思う)。とりあえず、ぼくの生活範囲にはいなかった。

だが、そんな服はユニーには当たり前だが売っていない。名古屋まで出れば売っていたのかもしれないが、そんな店は知らなかったし、知っていたとしても当時のお小遣いでは到底買えなかっただろう。
なので、ユニーに売っている服の中から、百歩下がってみればそう見えなくもないという感じの服を組み合わせて着ていた。当時は、アトピーがひどくて、両腕にはブツブツと掻き傷がありとても醜いものだった。おまけに水泳部だったので皮膚科に行くと医者から「アトピーの子は水泳なんかしない方がいい」とまで言われて混乱とジレンマの中で生きていたので、醜い腕が見えないように夏でも長袖のシャツを着ていた。
そして、親には「形が崩れるからやめておきなさい」と言われたが、それでもいいからと頼み込んで、ツータックのスラックスの裾を細く直してもらって履いていた。なんとなく今のサルエルパンツっぽい感じといえば近いのか。
靴は選べるような品揃えは望めないので、唯一のメンズのブーツだったショートブーツかコンバースのハイカットを履いていた。
妥協のファッションだったが、それ以上を望めなかったので仕方がない。
それをおしゃれと言われても、なんだか違う。

高校に入る頃には、パンクファッションに憧れてはいたが、なんだがわざわざジーンズの膝を破るのも違うと思い破ったりはしなかった。とりあえずスリムのジーンズを履いて、ラバーソウルが欲しかったが、A STORE ROBOTに売っていた本物は高くて買えないので、大洲商店街で売っていたパチモンのラバーを履いていた。噂では、ラバー狩りなんてことが行われていると言われていたが、パチモンしか買えないので恐れることはなかった。あとは、とりあえず栄か金山か上飯田のダイエーへ行って「エレーヌヘアスプレー スーパーハード」を買って、髪の毛を逆立てていた。

この時代にしたかったファッションが、今の自分がしたいファッションの原点になっている。当時買えなかった、ラバーソールやドクターマーティン、フレッドペリー、ショットが好きなのは、そのせいだ。
とりあえず、靴は厚底・ゴツめ(時代が回って、厚底靴がダッドシューズとして流行ってくれたのは、ありがたい)。パンツはブラックスリム。冬はカラーシャツにレザージャケットかモッズコート、夏はバンドTシャツかフレッドペリーのポロ。あとは、キャスケットかハットを被る。
もうかなり昔になってしまったが、「濱マイク」のファッションが理想にとても近いので、あれを想像してもらうといいかもしれない(あくまでも理想なので、永瀬正敏と比べられるととてもツライ)。

音楽はメインストリームを追いかけてはいないので、おしゃれと言われるようなジャンルは、アシッドジャズやR&B、ダウンテンポ、フューチャージャズ、ドラムンベースあたりを聴いていた頃は巷ではちょっとおしゃれ系に括られていたかもしれない。だが、基本は80年代のロックやエレポップ、パンク、ギターポップにアイドルなので決しておしゃれとは呼ばれない音楽が好きなのだが、その辺りもアスペルガー的な執着が影響しているのではないかと思っている。

なのでぼくは決しておしゃれなひとではない。ただ、10代の頃に憧れていたものを変わらずに執着し続けているだけなのだ。
それが、中学3年の頃にはたまたまみんなとは違うベクトルで自分の好きを追いかけていたのが、たまたまおしゃれだと思われたのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?