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介護事業所の裏側①

ぼくがホームヘルパーの資格を取って、最初に働いた事業所は、資格スクールが運営するデイサービスだった。

ハローワークの職業訓練で3ヶ月通い、ヘルパーの資格を取得して修了式が終わった後、そのスクールの社長に呼び止められ、デイサービスで働かないかと誘われたのだった。

そして、ぼくはそのデイサービスで介護職員としての仕事を始めることとなった。

そこのデイサービスは、住宅街にある3階建ての建物の3階にあった。
その建物の1階2階には、それぞれクリニックが入っており、3階には高齢の女性が一人で暮らしていた。
デイサービスは、その3階に住んでいる高齢の女性の家の中にあった。

一応、その高齢女性はその家の中の一部屋に暮らしていて、それ以外の部屋をデイサービスが借りているという体裁をとっており、その女性もデイサービスの利用者の一人だった。

初めての介護の仕事なので、少しおかしいなとは思ってはいたが、こういうこともあるのかなと、深くは考えなかった。

そして、介護職員としてしばらく働いていると、そのデイサービスの責任者の人が辞めてしまった。
本来ならそこで、新たに責任者を置かなくてはならないのだが、系列のデイサービスの責任者が兼務するということになったようだった。
だが、その責任者は毎日来るわけでもないので、他の職員で毎日の送迎の順番やらなんやらを全て考えなくてはならなかった。

そのように何ヶ月かが過ぎ、ぼくも介護の仕事に慣れてきたところで、社長からお呼びがかかり、会いにいくこととなった。
そして、その話の内容というのが、毎週土曜日のデイサービスの勤務時間内の1時間に、訪問介護員としてある高齢男性のところへ行くようにということであった。

もちろん、デイサービスの勤務時間中に、他の訪問介護へ行くなんてことはありえない。その時間、デイサービスのタイムカードを外出扱いで記録して中抜けというならありなのかもしれないが、デイサービスも人員配置基準に余裕があるわけでもなく、基準の最低人数しか配置されていない。明らかにおかしい。
しかし、まだ介護の世界で働き始めたばかりだ。人員配置などのデイサービスの設置基準や介護報酬の加算減算のことなど理解していない。
言われるまま、ぼくはやるしかなかった。

その訪問介護も、実際、訪問介護と呼べるような内容ではなかった。
そもそも、社長から言われていたのは、「おじいさんにパソコンを教えてあげてほしい」ということだった。

訪問介護でパソコンを教える?

今考えればありえない。
実際、行ってみたが、その男性は心臓にペースメーカーが入っているそうだが、特に介護が必要なところはないようだった。
なので、ぼくは1時間話し相手になるだけであった。
時々、動物園へ散歩に行ったり、地下鉄に乗り人形供養のためにお寺まで行ったりした。
そして、3ヶ月くらいでその男性の利用がなくなったので、それまでとなったが、今では考えられないが、当時としてもはっきり言って、訪問介護には到底該当しない内容であり、そのようなプランを立てたケアマネも、引き受けた訪問介護事業所も完全にアウト。行政に監査が入れば介護報酬の返還を求められてもおかしくない。

そして、2〜3年に一度は行政の監査指導が入るのだが、ぼくの勤めていた会社にも監査が入ることになった。
そこで、社長はデイサービス終了後の夕方に職員を本社事務所に集めて、デイサービスの勤務表と訪問介護のシフト表を照らし合わせて、都合の悪い部分を洗い出し、タイムカードを修正するということを指示した。
ぼく以外にも、同じようにデイサービスに勤務中の職員に、訪問介護の仕事をさせるということを、何件もやっていたようだ。

ぼくたちは、タイムカードの改ざんを手伝わされたのだ。

さすがに、初めての介護の仕事とはいえ、明らかに間違ったことをしているのは理解できた。

とりあえず、そこで「これは間違っている。こんなことはできない。」などと言って、出ていくこともできるわけがないので、言われるがままやるしかなかった。

だが、こんなところには長くいてはいけないと思い、すぐに転職先を探した。運よく、社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームとデイサービス・ケアハウスが併設されているところに採用が決まったので、そのデイサービスはやめることができた。

その会社は、まだ存続しているようなので、とりあえず監査はすり抜けたのであろう。そして、その後はまともな運営になったのか、不正を隠して行っているのかはわからないが、本社を名古屋市の中心部に移せるくらいに儲けているのだろう。

それから数年が経った頃、ぼくがケアマネの事業所への転職を考えて面接へ行った時に、面接官の一人からその会社を辞めた理由を尋ねられた。
ぼくは、その出来事をあげて、不正に手を貸すのが嫌で辞めましたと答えたところ、その面接官が突然「その社長って、○○さんでしょ?」と言われたので、ハッとしてその面接官の顔をよく見ると、その会社で事務長をされていた方だった。
「ぼくもそうだったからわかるよ」と言って笑っていた。

一番最初に働いた介護事業所がそのようなところだったのがレアケースだと思っていたのは、その時だけで、どこでも長続きしないが故に、いくつかの介護事業所を転々としてくると、だいたい営利目的の介護事業所は大なり小なり不正を隠していることに気づく。

コムスンの事件はすでに世間からすっかり忘れられているが、同じような事件が起こったとしても、ぼくは驚かない。

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