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心と音 - 独り言ノート



▼日本とアメリカの文化の違いの一つに、擬音表現(Onomatopoeia)の大きな懸隔がある。2000年以降、アメリカではたくさんのジャパニーズ・アニメが海賊版となってインターネット上に広く行き渡り、若者達の間で日本語特有の擬音語が流布するキッカケとなった。


▼一方で、日本人である私の成長過程において、他言語の音喩と触れ合える機会は充実していただろうか。1960年代に放映されていたアダム・ウェスト主演のTVシリーズ『バットマン』では、「wham!」「pow!」「biff!」などのコミックスタイルのオノマトペが、そのまま戦闘シーンのスクリーンに描かれている。ドカンでもボーンでもなく、「wham」。そしてボブ・ケインとビル・フィンガーが生み出した世界では「crunch!」とクッキーを食べ、「zounds!」と怒りを表す。そんな音だけでも違う世界に連れていかれるような気がする。強調される音の使い方、単語のリズム感。はじめて目にしたとき、表現者として会得する他に道はないと気負い立った。


▼野球の球をバットの芯でとらえた音は、世界ではどう表現するだろう。およそ3ヶ月遅れで開幕したプロ野球のテレビ中継では、「野球そのものの音を楽しんでください」とアナウンサーが仕切りに言っていた。当面の間野球も無観客試合を強いられ、にぎやかな応援と歓声の音が聞こえないからだ。


▼キャッチャーミットが150キロの直球を捕らえる時のスパーンという音は、たしかに迫力が違う。塁から塁へ選手が走れば、スパイクがサクサクと音を立てる。打者の気合いが「ウっ」というような声になる。蒸し暑い夏、赤土のグラウンドで泥だらけになりながら練習したあの頃を思い出させる。TV観戦する"元"野球少年達には、良い酒のツマミかもしれない。


▼コロナは多くのものを奪った。しかし、そのため聞こえてきたもの、見えてきたものもある。インドの首都ニューデリーでは、経済活動が鈍化して青空が戻ったと報じられた。身の回りでも車の通行が減り、自宅の庭に小鳥がよく水を飲みに来る。


▼まもなく有料オンライン公演の戦国時代がはじまる。会場で一度に動員できる観客数よりも世界各地から同時に接続視聴できることから、従来以上の売り上げや新規ファン獲得が期待されている。臓器を揺らすベースやアーティストと観客の言葉の掛け合い、脳天にまで届く拍手喝采は。オンラインを軸にした世界にも、いつもより心に迫ってくる音があるだろうか。


*この記事は2020年6月に公開されたものを再編して新たに投稿したたものです。

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