たんす
何処かのリサイクルショップ
男が一人、店内をふらふらしている
倉庫は結構な広さで、まだ誰にも会っていない
と、ふと足を止める男
目の前には渋めのたんすが一棹
抽斗を開けてみたり閉めてみたり
「気になります?」
不意に声が飛んできてびくっとする男
振り向くとエプロン姿の若い男が立っている
「それ、結構いいやつみたいですよ」
「あ、そうなんですね」
「ただなんでもしよかったら」
「え?」
驚いて値札を確認すると確かに赤字で0円と書かれている
「え、なんでただなんですか?」
「なんかおっきくなるみたいです」
「おっきく?」
「はい」
「え、どういう事ですか?」
「分かんないんですけど、なんか、ほっとくとおっきくなるみたいです」
男はたんすを見つめる
全くさっぱり分からない
「たんすが?」
「うん」
「どういう事?」
「分かんない」
何処かのマンション
男と女がリビングでたんすを傍らに話している
「え、でもじゃあこれは?」
「なにが?」
「普通じゃん」
「縮むんだって」
「え?」
「ほっとくと縮むんだって」
「え?」
「うん」
急などしゃ降りが窓の外を襲う
慌ててベランダへ走る女
男も中から洗濯物を受け取る
どたばたばた
どたばたばた
「明後日までやってるみたいなので是非」
「ありがとうございましたぁ」
「続いてはこちら」
男が一人、ソファでのんびりテレビを見ている
と、何かを思い出して立ち上がる男
たんすの上の花瓶を持って台所へ向かう
水を捨て、花瓶を濯ぎ、水を入れて花を挿す
全てを終えて戻ってくると、花瓶を元の位置において男は再びソファに座る
「男なら丸ごと」
「女だって丸ごと」
「えっせらほいさ、えっせらほいさ」
最近よく見る好きなCM
男はのんびりコーヒーを一口
「やったわね」
「やってみるかい?」
「望むところよ」
「お好きなように」
ワンピースの女の子がチョップで地球を叩き落す
ぱんちら、猫、月、商品名
CMが切り替わり男はチャンネルを弄り始める
ぎぎぎぎぎぎ
「?」
何かが聞こえたような気がして男が花瓶の方を振り向く
明るい綺麗な黄色の向日葵
水を変えて元気になったのか、さっきよりちょっと背が伸びている
男は再びテレビに向き直ってチャンネルを弄りながらコーヒーを飲む
外はカンカン照りで、日中は32度くらいまで熱くなるらしい
終わり
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