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CEFACTニュースピックアップ(1) ―UNECE、仙台防災フレームワークの加速化のため 政策と越境協力の強化を呼びかけ―

この「CEFACTニュースピックアップ」は、これまで不定期に掲載してきた「注目すべき国連CEFACTプレス発表」を引き継ぎ、国連CEFACTのウェブサイトに掲載された最新の動向から興味深いトピックをピックアップし、その内容や背景・専門用語・周辺情報などの解説を付け加えてお届けしていきます。

最初となる今回は、国連CEFACTの母体であるUNECEが取り組んでいる第7回「防災グローバルプラットフォーム会合(Global Platform for Disaster Risk Reduction (GP2022))」を取り上げます。これは、2022年5月25日~27日にインドネシア・バリにおいてオンラインとのハイブリッド形式で開催された、「仙台防災フレームワーク」(以下で詳しく説明します)の実施に関する評価や議論を行う主要なグローバルフォーラムです。今年は、「リスクから強靭性へ:コロナに変えられた世界で持続可能な開発へ」(From risk to resilience: towards sustainable development in a COVID-19 transformed world)をテーマとして開催されました。

※     原文トピックのタイトルは「At 2022 Global Platform for Disaster Risk Reduction, UNECE calls to build coherent resilience policies and governance and enhance transboundary cooperation to accelerate Sendai Framework implementation」で、以下のURLよりご覧いただけます。

この会議において、UNECEは防災・減災に向けた能力向上について様々な提言をしました。特に、越境協力に関係者と大衆の参画、加盟国とパートナーとの協力、セクター間に共通な、およびマルチレベルにおける防災・減災関連の政策決定の強化・ガバナンスの強化を強調しました。

 仙台防災フレームワークとは

仙台防災フレームワーク(Sendai Framework for Disaster Risk Reduction 2015-2030)は、第3回国連防災世界会議(World Conference on Disaster Risk Reduction, WCDRR;2015年3月14日―18日)において策定された行動指針です。この国連防災世界会議(World Conference on Disaster Risk Reduction)とは、国連防災機関(United Nations Office for Disaster Risk Reduction:国連防災機関)により開催され、国際間の防災戦略について議論する会合。第1回は横浜市、第2回は兵庫県神戸市、第3回は宮城県仙台市と、3回とも日本で開催されています。

そのうち第2回会議にて採択された「兵庫行動フレームワーク2005-2015」の後を継いだものです。その中では、まず兵庫行動フレームワークと現状のギャップ、つまり国際間災害リスク管理能力が高まったにもかかわらず災害が引き続き大きな損害をもたらしてきたことや、貧困・気候変動・リスク情報の欠如した政策・複雑なサプライチェーンといった潜在的な災害リスクが確認されました。続いて、人命や企業、国の経済的・文化的・環境的など、多方面の資産に対する災害リスクと損失の削減をゴールとして定め、それらを基づいた国家や地方レベル、グローバルや地域レベルで行われるべき行動がリストアップされています。2030年まで、国々はこのフレームワークに沿って防災・減災に取組むことになります[参照ページ][参照ページ]。

 

さて、今回のグローバルフォーラムについて、原文では以下のように紹介されています。

第7回「防災グローバルプラットフォーム会合」における「気候緊急事態に取り組むための防災・減災の向上」(Scaling-up DRR to Tackle the Climate Emergency)をテーマとした閣僚級ラウンドテーブルに向けて、UNECEの事務局長Olga Algayerova氏は、「地球温暖化を1.5度以下に抑えるというパリ協定の目標を達成するためにあらゆるレベルの行動を強化しよう(“step up actions at all levels to meet the ambitions of the Paris Agreement to limit global warming to less than 1.5 degrees”)」と各国に促しました。また同氏は、災害リスクを管理する際の国境を越えた協力の重要性を繰り返し、気候と災害リスクに基づいた政策立案を支援するために、UNECEの支援を提供しました。

この目標を果たすため、UNECEはUNDRR(国連防災機関)やその他の国際機関、アカデミア、業界、市民社会、関係者と緊密に連携し、環境及び森林管理、都市開発・住宅、貿易、交通、エネルギー、統計を取り上げる複数の法的または規範的手段や政策、専門家フォーラムを用意しています。例として、森林とその他生態系の再生は災害リスクの減少と気候に対する強靭性向上に極めて有益であることから、UNECEは2030年までに700万ヘクタールの森林景観を復元するという閣僚級の約束を支援し、野心的な都市植樹チャレンジ(an ambitious Trees in Cities Challenge)も立ち上げました。

続いて、Algayerova氏は仙台防災フレームワークの実施の進捗状況と将来の方向性を考案する二つの中間レビュー(MTR: Mid-Term Review)総会で発言。「自然災害を越えて-仙台フレームワークの拡大されたスコープを運用する」と題したこの総会で、同氏は狭い範囲のセクター別アプローチから離れ、機関が対等な立場で相互に関係するための政策とガバナンスを改革することの重要性を強調しました。

また同氏は防災・減災にむけた政策においてカスケード効果(連鎖的な影響)と国境を越えた影響を考慮に入れて、自然と環境的ハザードとリスクに加えて技術面でも包括的に取り組むことも呼びかけました。UNECEの水と労働災害条約(Water and Industrial Accidents Convention)は、各国がマルチハザードやマルチリスクのアプローチを採用することを支援しています。例えば、シルダリヤ川流域の産業や水汚染の源をマッピングして、流域周辺国の地図上に表示するプロジェクトを行いました。

さらに、フォーラムにおいてUNECEが開催したサイドイベント「水域における気候と技術的なリスクのガバナンス」では、流域全体の防災・減災戦略と気候変動適応の戦略が、どのように気候と自然、技術的なリスクがどのように対処されているかについて、さらなる洞察を提供しました。そのうえで、パンデミックからの教訓を学び、環境だけではなく、(筆者注:恐らく貿易も含まれるであろう)すべてのセクターへの災害からの影響をより緻密な準備かつ軽減することがいかに重要かを強調されました。例えばこれは、UNECEのパンデミック危機に関する貿易関連の対応のような規範を定める勧告を通して実現できます。

ここで出てきたUNECE勧告とは、国連CEFACT第47号「パンデミック危機の貿易関連の対応」を示しています。上記で触れられた水域のガバナンスと直接的に関係しているわけではありませんが、この勧告はごく最近のパンデミックを踏まえて策定された最新の勧告であり、ハザードリスクやイレギュラー状況に対する対応の仕方について振られているため、参考として挙げられたではないかと考えられます。

もう少しこの勧告について詳しく触れておくと、これはCOVID-19のような感染症のパンデミックによる貿易の流れに対する悪影響を軽減するための勧告です。

パンデミックのさらなる拡散を防ぐために輸入を規制する国もあれば、マスクなどの必需品を確保するために輸出を規制する国もあります。しかし、緊急の越境物流手続きについて明確なガイドラインや指示の不足、優先される貨物に対して迅速に指示するはずであった国境規制機関の処理能力不足がボトルネックとなり、遅延が発生します。パンデミックは需要と供給のバランスを乱し、国家間の貨物の移動に対する大きな障壁となってしまいました。したがって、この勧告の目標は、世界的な健康に対する脅威の間とその後での越境貿易の流れを緩和するため、貨物の共同管理の促進と迅速化する特定の対策を採用する重要性を伝えることです。

この勧告ではいくつかの具体的な対策も挙げられています。例えば、この課題における国際組織や地域経済共同体の役割、標準・緊急実施要項の策定とその際に考慮すべき要素が説明されました。技術面では、国際標準を使ったEDI(=電子データ交換)は人同士の接触を減らす、または不要にすると同時に、貿易の流れをよりスムーズにできるため推奨されています。

 

もう一つ、今回の記事ではAlgayerova氏が「持続可能な開発の再考」をテーマとするMTR総会において述べた発言についても触れられています。

「持続可能な開発の再考」をテーマとするMTR総会において、「レジリエンス(強靭さ)を構築するための戦略的先見性をもって投資する」と、5つの国連地域委員会を代表して発言しました。防災・減災アジェンダを他のグローバルアジェンダやコミットメントと統合すること、地域間協力の強化を促進すること、刷新された国連地域システムをよりうまく活用することなど、機関間の連携を呼びかけました。それはより強力な地域横断的な協力を促進することを意味します。問題に基づいた協力体制(the Issue Based Coalitions)を通じてレジリエンスの側面に取り組むこと、現場での一貫したマルチハザードDRRへの介入を促進するために国連レジデントコーディネーター(常駐調整官)の関与を強化することによって、改革された地域の国連システムをより有効に活用できることになります。

UNECEは国や地域が連携して、可能な限り一体化した災害リスク管理による広域防災・減災を目指して各国の政策決定を多方面から支援しています。一方、自然災害が頻発している日本も、国連を通じた多国間協力および地域間協力を行っています。

例えば、UNDRRが事務局を務める国連防災世界会議は第1回から最新の第3回、すべて日本がホスト国を務めていました。185の国連加盟国が参加し、日本が開催した国際会議では最大級の会議です。また、2015年の第3回会議において日本は自国の「津波防災の日」(11月5日)を「世界津波の日」に制定することを提案し、12月の国連総会で採択されました。「世界津波の日」を通じて人々の津波防災の重要性を認識させ、それへの啓発活動が世界に発信、展開させることが期待されています。

ほかにも、日本は国際復興支援プラットフォーム(IRP: International Recovery Platform)[参照ページ][参照ページ]を支援しています。IRPは大災害から「より良い復興(Build Back Better)」を促進するため2005年に設立され、現在は世界銀行(WB)や世界保健機関(WHO)、UNDRR、内閣府、イタリア外務省などの機関から運営されています。取り組みとしては、ガバナンス・気候変動適応・環境・復興計画等分野のガイダンスや、災害毎の災害後ニーズ評価を提供しています。

さらに、2019年8月に内閣府は防災技術の海外展開に向けた官民連絡会(JIPAD: Japan International Public-Private Association for Disaster Risk Reduction)という組織を設立しました。JIPADは、官民一体で日本の防災技術を海外へ発信し、世界各国の防災能力へ貢献することを目標としています。インドネシアやカンボジアから始まる様々な国の防災情報の調査や、企業の保有している技術を外国へ提供できるようにわかりやすく整理することなど、「インフラ輸出戦略」にめぐる活動を展開しています[参照ページ]。

 

自然災害にもたらす損害の深刻さは筆舌に尽くしがたいものです。防災・減災措置がきちんと備わっていなければ、つまり安全な暮らしの保証がなければ、技術・貿易などの発展の大きな阻害要因となります。

防災・減災に関わる組織や機関で専門的な仕事をしていない限り全体的な防災・減災戦略の策定に関わるのは現実的ではありません。しかし、日常生活において防災・減災に関心を持ち、ニュースや関連組織からの発信に対してアンテナを張って基本的な知識や最新の動向を把握しておくだけでも、いざというときの行動には大きな違いを生むかも知れません。この記事がそのきっかけの一つになればとも思っています。

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