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香港から日本の製造業へ愛を込めて~クワドリンガル データコンサルタントの挑戦~

JASPER note編集部の一人、松本 野歩(のぶ)です。

この記事は、実験的なインタビュー記事です。
JASPER誕生譚~器編でも触れたように、多様な働き方が加速する今、所属組織や個人の活動を売り込むにはどうしたらよいのか?個人にとっても履歴書代わりの記事は書けないものか?という着想を、身近で仕事する人で探索してみようというわけです。

そこで、お話を伺ったのはフューチャーアーキテクト株式会社 製造・エネルギー事業部のEXグループでデータコンサルタントとして働く大前七奈(おおまえなな)さんです。

では探索を始めましょう。

大前七奈さんのプロフィール(Linkedin

多国籍な環境と言語学が育んだ土壌

幼少期の大前七奈さんと想い出の香港大学と香港の夜景

—— 香港生まれということですが、幼少期から学生時代について教えてください。

母親はタイ生まれで、楽観的に人生を楽しむ人でした。生まれた環境によって考え方が全然違うと思ったのを憶えています。
学生時代は、香港大学の文学部言語学科で言葉の構造やアルゴリズムを学びました。文化によって言葉の使い方が変わる理由や、なぜそういう発音になるのかなども勉強しました。

—— 文学部とはいえ、言語学は情報学や統計学に近い学問ですよね?

確かに、そういう意味では今やっているデータコンサルタントの仕事につながる土壌はあったのかもしれません。

—— クワドリンガルということですが、最初に習得したのは広東語ですか?日本語はいつ学びましたか?

広東語(北京語も)、英語、タイ語、日本語の順番です。日本語は大学で、副専攻のような形で学びました。

—— 言語学や文化的な分野で日本に興味を持ったのですか?

その通りです。あとは、日本の国民性にも惹かれました。1990年代に日本の文化が香港に広まり、寿司やテレビドラマなどに触れる機会がありました。
日本語を勉強する時に初めて体系的に学びました。
テレビドラマなどを観て本当にこんなにきれいな町があるのか?と思っていましたが、実際に日本に来てみると本当にきれいで、自分たちで自分の身の回りをきれいにするところに感動しました。さらに製造業に携わり、最初に品質保証部門に入って、自分の首を締めるくらいきっちりした管理の仕方を学ぶことになります。

香港から日本へ製造業と統計学

統計学という武器を手に製造業への想いをはせる大前七奈さん

—— 香港は当時、金融ではトップクラスの環境だったと思いますが、なぜ製造業に進んだのですか?

香港で普段使っているものはほとんどが輸入品で、経済的には活発なのに、実際には物が作られていないという違和感を感じていました。周りの人たちは金融業に従事していて、お金の動きに振り回されているように見え、自分自身がどこで付加価値を提供できるのかが分からなかったんです。大学時代に大手総合商社でインターンを経験しましたが、あまり充実感を感じられませんでした。その経験を通じて、自分が何かを作りたい、作る現場を支えたいという気持ちが強くなりました。0から1を生み出すプロセスを求めていました。

—— 製造業の世界に入って、苦労したことはありましたか?

最初に入った会社は、飛行機のアクチュエータ(翼を動かす機械)や電車のブレーキシステムなど社会インフラを造っているところでした。その会社ではデータがなかなか溜まらなかったので、経験が長い人や上の人たちの意見が優先されがちでした。それを解決するために、データに頼ることにしました。試行錯誤を重ねるうちに、統計学やPythonに行き着きました
当時、統計学という言葉はあまり使われておらず、品質工学(タグチメソッド)と呼ばれていました。実践していくうちに、それが統計学だと気づきました。だから、統計学をもっと広く学べば世の中に役立つだろうと思い、そのころから体系的に勉強しはじめました。また、品質工学が閉じた分野だと感じ始め、もっと広い視点で学びたいと思い、独学で習得しました。そして、統計学を使った「攻めの品質保証」を製造業に広めたいと考えるようになりました。

—— 攻めの品質保証とはどういうことですか?

フロントローディング(製造工程の上流行程に重点を置いて品質向上や工期短縮を図る手法)に近く、統計学を用いて、ひたすら製造現場を管理する、検査規格を厳しくするのではなく、より企画や開発などの上流工程で最適化を行うことで、後戻りを少なくする考え方です。

—— その軸で2社目の大手電子部品製造メーカーに転職したのですか?

その通りです。最初は品質保証の採用枠だけだったので選択肢は少なかったですが、運よく面接でビッグデータ解析の話が出て、大手電子部品製造メーカーでポジションを得ました。特に、攻めの品質保証について直属のリーダーと意気投合し、設計開発部門をターゲットに、特定の手法にこだわらずに課題起点としたデータ分析や相談の窓口的な横断組織を組成しました。そんな中で、製造工程毎の、生産やセンサーデータを使った不良予兆検知ロジックを構築したり、画像解析やMLOpsを考慮した機械学習アルゴリズムを開発したりと、いろいろな角度から上流にフィードバックできるような実験的取り組みをしました。
また、大手ガス会社向けに副業もしていて、顧客の想像を現実に近づけるために、休日には世界の文献を読み漁っていました。

—— ものすごいバイタリティとパイオニア精神ですね。原動力はどこから来るのですか?

モチベーションは、技術への好奇心と製造業に関わる人たちのニーズに応えたいということから来ています。ある意味恩返しです。そのニーズを満たし、最終的に製品に魅力を感じてもらえるように、世の中にある実現可能な選択肢を提示したいという想いがあります。
パイオニア精神は、大学時代の友人たちからの影響が大きいですね。彼らは良い意味で知的に貪欲で、その中で自分も多くの刺激を受けました。その当時の友人とは今でもつながりがあり、アートなどさまざまな分野で活躍しています。
偶然にも、自分が探求していた統計学の製造業への応用が時代にぴったりハマっていたんです。学びがチェーンのように重なり合って繋がり、進化しているのを感じています。

コンサルタントへの転身と縁

新しい仲間達と問題に向き合う大前七奈さん

—— 2社目の大手電子部品製造メーカーからなぜ転職を考えたのですか?

もっと自分が付加価値を提供できる立場になりたいと思ったからです。製造業への尊敬の気持ちは変わりませんが、内部からの変革は難しいと感じました。例えば、データの共通基盤がないことや、知見の共有ができずに無駄が生まれていること、同じ問題に別々の部門が取り組んでいることなどがありました。

—— どんな企業を受けたのですか?

ディープラーニングやAI×製造業に関連するスキルを活かせる企業を探していました。コンサルティング会社だけでなく、事業会社も面接を受けました。結果的に、事業会社や大手コンサルティンググループから内定をもらいました。

—— その中に現職(フューチャーアーキテクト株式会社)も含まれていたわけですが、なぜ入社を決めたのですか?

カルチャーや人です。自由な文化と哲学的な何かを感じたんです。

—— 哲学的というのは具体的に?何がよかったのですか?

いろいろな考え方があってよいと思いますが、エネルギーと製造業を一体としてみるなど、業務や業界に閉じず、世の中を俯瞰して見ている感じがよかったです。ワクワクしましたし、多様な個性を持つ人たちが在籍しているのも良かったです。

ポジションではなく目的志向

プログラミングに熱中する大前七奈さん

—— 今は何をやっているんですか?

エネルギーの開発・精製・供給をしている企業がクライアントです。データ民主化を実現するためのデータ共通基盤構想の伴走型支援でアーキテクト、データエンジニア、プログラミング、教育支援などいろいろやっています。

—— 色んな役回りを兼務しているけど、苦には感じないですか?

データ民主化を実現するためのプラットフォームを作るという目的のためにやっているのでポジションの境は意識していないです。お客さんのニーズに応じて自ら提案し、むしろできることはなんでもやりたいと思っています。

データ民主化と未来の記憶

ドローンと未来を見据える大前七奈さん(左)

—— 製造業でデータ民主化するとどういう影響があるとおもいますか?

現場のオペレーションを自動化できます。人手不足はどこの現場にもあります。 加えて、暗黙知を残すことができると思います。スキルのあるベテランが定年になり、暗黙知が失われてしまう。その暗黙知をどうやって残すかが大事です。

—— 具体例はありますか?

現場の目視検査が労働集約になっていますが、ある程度経験がないと微妙な差が分かりません。ちゃんとした顕微鏡やデータ解析環境があれば解決される問題です。 部品同士をはめ合わせるときのガタ(部品や機械の接合部や可動部分に生じる余分な隙間や遊び)を職人が検知するなども同じです。
開発周りでは、設計開発者が体系的な実験をあまり好きではない傾向があるので、少ない実験で偏ったデータを作ってしまうという問題があり、材料の特性を把握するのに時間がかかります。バイアスのないデータセットを作るのにどういう実験がいいのか提案してあげることも大きなテーマだと思います。
言語化・形式化できないところを人の目ではなくデジタルの目で見ることによって形式知に変えていきたいです。

—— 10年後の製造業はどうなっていると思いますか?

財力のある企業に人財も集中し、結果的にデジタル化も進みますが、財力が少ないところや、財力があっても目の前の最適化しかやらないところには格差が生まれると思います。日本の製造業では10~20%は前者だと推測しています。 そんな製造業界にデータコンサルタントとして何を提供できるかを考えると、いろいろなオープンソースやフリーランスのエンジニアのプラットフォームを使いこなして敷居が低い選択肢を提供しつつ、自力で何かできるよう製造業の底上げに貢献するのが自分の使命だと思っています。

エピローグ

インタビューを終えて、いろいろ考えさせられました。最近、私たちが忘れがちな社会や人生、仕事に対する興味や関心、そして強く熱い想いを持つことの大切さを改めて感じました。また、どんな人も元来、人との縁によって変わっていく「空性(くうしょう)」で自由な存在であることも実感しました。
1時間程度のインタビューでしたが、5つ分くらいの記事に分けて深掘りしたい情報がありました。皆さんも、普段身近で仕事をしている人にこそインタビューしてみてはいかがでしょうか?
今回の実験的な記事について、皆さんはどう感じましたか?七さんや私たちと一緒に仕事してみたくなりましたか?もしそう思っていただけたのなら、大成功です。企業でも個人でも、下記のフォームからお問い合わせください。


本記事執筆|フューチャーアーキテクト株式会社 松本野歩
本記事の画像作成|フューチャーアーキテクト株式会社 柴田健太