じゃろけ@毎日投稿
ぼくが毎日書いている小説をまとめています。
詩や短い文章をまとめています。
君の手が冷たいのは、君の心が冷たいからなのだろうか。それとも、心を暖かくしたぶんだけ、手は冷たくなってしまったのだろうか。どちらにも言えてしまうし、どちらでもいい。 でも、一つだけ言えるのは、手が冷たいのは心がどちらかではあるということだ。手は心の象徴であり、過去や未来もうつしだす。僕にはそれを読み取ることはできないけれど、君の過去と未来と、心とが全て束になった総体を握ることは間違いなくできて、握ることさえできれば十分と思っていた。 僕は馬鹿で、鈍感だけれど、それで
睦月は心が読める。物語ではよく心が読めることを悩む人物が出てくるが、それが理解できなかった。これだけ楽しいことは他にはないと、確信していた。 「講義は退屈だけど、あの教授なかなか頭の中が面白いんだよなあ」 睦月は退屈を嫌う。睦月のそれは異常と言えるほどで、もし普通の人間として生まれてきていたら発狂していただろう。 「ふんふふーん」 大学までの道のりも睦月は退屈を許さない。周りを見渡して、誰にするかを考える。前を歩く男は、身長はだいたい180cmで、黒をベースとした服装だ
猫と犬の違いがわからない。男と女の違いがわからない。動物と植物の違いがわからない。ものとものの間にある線を、私には見ることができない。その線は神によって引かれているのか、人によって引かれているのか、歴史によって引かれているのか何一つわからない。AIは猫と犬を区別するらしい。AIは私よりもずっと賢くなってしまった。いや、AIは私よりも人間になってしまったのだ。 文学部哲学科の哲学Ⅰの講義は私にとって大きなきっかけとなった。イデアという概念は、私が考えなくてはいけないもの
木島は嫌われていた。筋が通っていないことをどうしても認めることができない木島は、軋轢を生むことが多かった。最初は面白がって仲良くなる人たちはいたが、何度か会ううちに木島を面倒に思うようになった。 「論理的に考えて恋愛なんてする必要はない。恋愛してるやつは馬鹿だ」と言っていた大学一年のときの知り合いに、はっきりと「バカはお前だ」と言い、矛盾を指摘した。木島は論理を信仰しているのではなく、一貫性を信仰していた。 木島はいろんな間違いをしてきた。清廉潔白な人間ではない。小学校の
気がついたのは7歳のときだった。友達とごっこ遊びをしているとき、彼を突き飛ばして怪我をさせてしまった。意図的ではなかったにせよ、友達に痛い思いをさせてしまったことに私は涙を流した。涙を拭いていた私の右手は、徐に光り、数秒がたった時には眩い光に包まれていた。それがなんなのかをだれかに説明されたわけではないけれど、私はその光は人を癒やす光なのだと直感し、彼の膝に手を当てた。光はさらに光度をあげ、次の瞬間、光は傷とともに消えた。彼は数秒唖然とした顔を見せたあと、笑顔に変わり、私に
あらゆるものが物語の種になる。 種は実をつけない。 実は何にもならない。 ただおいしい。 ただ疲労が溜まって煙草の煙を肺に入れる。 口から出る煙を描写する。 煙と一緒に体験は消えて種になる。 種になって実をつけない。 種がないと育てられない。 実がないとおいしくない。
将来の夢。なりたい職業。小学校から高校までひたすらに未来のことを考えさせられてきた。そんな言及に追われるがままに夢をつくってきた。 小学生のときはサッカー選手。中学校のときもサッカー選手。高校の時は大手ゲーム会社でゲームをつくること。どれも荒唐無稽といえるほどにありえないわけではなかった。サッカーは小学校から入っていたチームでは一番上手かったし、中学校の部活でも一番うまかった。高校はサッカーが強いところを選んで入った。高校では初めてサッカーで挫折した。一番になれなかったし
「はぁ、これで何回目よ」 店長が呆れたように呟く。スタッフルームには店長と僕しかいないのだから、その言葉は必然的に僕に向けられたものということになる。僕だってやりたくてやったわけじゃないのに。 「どれだけできない子でも殴ったり蹴ったりするのはやめてって言ったよね?」 店長が諭すように僕に問いかける。だって何回言ってもわかってくれないんだからしょうがないじゃないか。何回説明してもわかってくれないし、さらには生意気な口を聞いてくる。そんなやつ殴るしかないだろう?まえに正直にこ
生田が体感として死が自分のもとにも訪れるんだということがわかったのは30歳のときだった。生田は人が死ぬということはわかっていたし、自分が死ぬということもわかっていた。そんなことは小学校に上がる頃には常識として知っていたけれど、生田にとってそれは「歳をとったら記憶力は悪くなるし、体も動かなくなるよ」というお婆ちゃんの言葉とちょうど同じ重さだった。 死というものが目の前に現れるのはなんでもない瞬間だった。奴はひどく気まぐれで、唐突で、極端なやつだけれど、姿を表すときの共通点
明日になると彼らが付き合い始めてからちょうど3年たつ。3年もたつと記念日なんていちいちしないという人たちも多いけれど、彼らはそうではなかった。これまで記念日や誕生日を祝ったことがなかった。彼女には夜空が好きというロマンチストなところがあるけれど、記念日には興味がない。 「たまたま人間が一年間という区切りをつくったからちょうど1年たったとか、誕生日だとか言っちゃうだけでそこにはなんの美しさもないもの」 友人にも彼にもこの一点張りだった。 彼はきっちり記念日は覚えているし、
「サイテー」 三谷正義はその言葉を聞き慣れている。どうしてかというと、彼は最低だから。正義という名前でありながら、複数人と付き合うというなんとも残念な人なのだけれど、本人は男しかいない飲み会ではよくこのことを鉄板ネタとして話す。三谷正義は最多で6人の彼女と同時に付き合っていたし、その間にセフレは少なくとも10人はいた。だから今日もまた彼は付き合っている相手に「サイテー」と言わせてしまった。一番最近の彼女である鈴木美海。彼女はまだ付き合いはじめてから一ヶ月と3日しか経っていな
イライラのあまりわたしは目の前のパイナップルを全力で殴った。 ピンポーン。ああうるさい。ピンポーン。 ああもう。早歩きでインターホンの前まで行く。扉からドンッ!ドン!と音がする。インターホンの前にある台に乗せてあった有線イヤホンをスマホに差し込む。スマホに差し込んだ方と逆側を両耳に差し込む。スマホの右側にある突起を押す。ポチポチポチポチポチ。もう音量が変わらくなったなと思い、指を動かすのをやめる。イヤホンから聞こえてくる音以外何も聞こえなくなって、「なんて心地がいいのか
青山は仕事をやめた。青山は仕事ができない。新卒採用されてこれまで3年と半年働いてきたが、丁度3年たった頃には「給料泥棒」の汚名を授かった。青山は稀に聞こえてくる「給料泥棒」という言葉が自分に向けられたものだとわかっていた。 青山にとって悪く言われることはそれほど辛いことではない。もちろん言われたいわけではないけれど傷はつかない。ただ、褒められることがなかった。褒められることがない青山は少しずつ形を失っていくようだった。青山を形成しているのは他人からの褒め言葉だった。