「心が読める睦月ちゃんは、人間観察が大好き。」 1
睦月は心が読める。物語ではよく心が読めることを悩む人物が出てくるが、それが理解できなかった。これだけ楽しいことは他にはないと、確信していた。
「講義は退屈だけど、あの教授なかなか頭の中が面白いんだよなあ」
睦月は退屈を嫌う。睦月のそれは異常と言えるほどで、もし普通の人間として生まれてきていたら発狂していただろう。
「ふんふふーん」
大学までの道のりも睦月は退屈を許さない。周りを見渡して、誰にするかを考える。前を歩く男は、身長はだいたい180cmで、黒をベースとした服装だけれど、靴はカラフルで男がおしゃれにこだわりを持っていることがわかる。ほどよい長さの茶髪が風で揺れて、耳がちらっと見える。耳にはAirPodsがついている。この今どき風の男は、音楽を聴きながら何を考えているのだろう。睦月は彼に集中した。
「あははっ!」
睦月は笑ってしまった。彼は大学デビューしたのはいいものの、全くモテないようだ。高校の頃はオタクとして生きていければそれでいいと考えていたけれど、ずっと仲良くしていたオタク友達が次々と彼女をつくり、羨ましくなったという。
「ねえねえ」
睦月が男の前に顔を出して、声をかける。
「え、え。お、俺ですか」
男は動揺している。睦月はこの時の反応も好きなのだ。
『なんで女の子が俺にはなしかけてくるんだ。あれ、知り合いだっけ。講義で隣になったことがあるとか。いや、でも、そんなことで話しかけてくるかな』
「あはは。なるほどねー。君はさ、もっと落ち着いた方がいいね。精神的にね。内心のそういう焦りが、女の子にはわかっちゃうんだよ。ひとりで歩いていたときは余裕ある感じにみえたのにね。モテるといいね?がんば!」
睦月はそういって男を通り過ぎた。睦月は目で見ている相手の心しか読めない。彼への関心はもう失われてしまっていた。
「人は見かけによらないんだよねー。ふんふふーん」
睦月は暇を潰せたことに満足し、次の標的を探していた。
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