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手紙が届かないことが普通になる日

楽天と日本郵便が物流提携をするという記事が2021年3月12日の日経で報道された。今まで日本郵便が培ってきた郵便ネットワークを活用し、現在増加傾向にある物流の環境のアップグレードが図られるということは、「早く荷物が届いて欲しい」と考える一般利用者にとって喜ばしいことだろう。この動きからは、今現在、日本で新しい郵便・物流の環境が整備されつつあることがわかる。同時に考えさせられることでもある。郵便ネットワークが国の主導の元整備されてきたのは、産業の視点からではない。公益のためだったはずだ。

かつて、郵便は国の大事な基幹インフラだった。隅々にまで情報を行き届かせるための最大の努力が払われ、国策として郵政ネットワークが敷設されていった。郵政事業は、ユニバーサルサービスとして位置づけられ、全国的にサービスが展開されることを保証する代わりに、さまざまな便宜が図られるなど、専有的な権利と権力を行使していた。これは、日本もそして北欧も(そしてその他の国も)同じだ。

時は流れ、2010年を超える頃になると、多くの国がその公共性から国営されてきた郵便事業の民営化を進めるようになった。国の公共サービスとしての重要性の低下が背景にあるのだろうことは疑いもなく、効率化を図るため、採算の取れなくなりつつある公共事業・郵便に、民間企業の論理が導入されるようになった。欧州のどこの国も、詳細は異なれど同じような道を辿っている。

今や、北欧の一角、デンマークおよびスウェーデンでは、郵政事業はPostNordが請け負っている。ポストノードは、デンマーク政府とスウェーデン政府が40%-60%で所有し、50-50で議決権を持つ公共的な有限会社としてサービスを展開している。ノルウェーの郵政事業Posten Norgeは、ノルウェーの通商産業水産省が単独株主となって1996年に設立されている。フィンランドの郵便事業者Postiは、公共有限会社として、フィンランドではユニバーサルサービスを請け負う。それぞれ基盤となる国では、ユニバーサルサービスを担う組織ではあるが、PostNordはノルウェーでの郵便・物流事業を手掛けているし、Postiはスウェーデンやノルウェーなど他国でも郵便や物流サービスを展開している。

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*月曜日にしか回収されない郵便ポスト

今、北欧諸国は、世界にも名だたる先進的な電子政府を持つ、電子化が進む社会である。そして、電子化は、郵政事業に大きな影響を与えている。過去20年の北欧諸国で見られた積極的な電子政府の進展、社会におけるあらゆる分野における電子化の進展は、ただですら綻びつつあった郵政事業をさらに窮地に押しやったようだ。郵便物の流通量が極端に下がったのである。デンマークでは、公共機関からの連絡は2014年に全て電子化され、今まで郵送されていた税務書類や各種社会保障関連の連絡は全てデジタルに置き換わった。民間企業の連絡もデジタルが主流となった。郵便の流通量の減少とともに、各国では、EC(電子商取引)に基づく小包などの物流量が増加した。デジタル化が進み、デジタル決済やオンライン取引が増加した。

ユニバーサルサービスを謳いつつも、予算制約もある公共サービスとして採算を取るための選択なのだろう、北欧諸国は郵政分野で極端な効率化を進めている。日本に住んでいる人たちにとっては信じられないことかもしれないが、2021年現在、ポストの郵便物回収は一週間に一度、戸別配達も一週間に一度になった。郵便物は平均一週間から10日程度で宛先に届けられることになっているが、これは国内の話である。九州の広さほどのデンマークで、この状況である。

コロナ禍であることも理由となっているだろうが、2005年頃にはデンマークから日本や米国へ1週間ほどで到着した封書は、2020年ほぼ1ヶ月かかるようになった。手書きの手紙をタイムリーに送付することは、もはや過去の遺物となっているのだろうか。北欧では、紙の書類や手紙は、少なくとも緊急性や信頼性を担保する情報伝達手段ではなくなっている。メールが法的書類として認められ、書類の認証がオンラインで行われるようになった北欧では、封書や手紙はなんのために使われるのだろうか。

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