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4. 北欧の義務教育とは?

文責:内田真生

本記事は、全4回連載『北欧の義務教育~事例紹介』のうちの一つです。
これまでの3回の事例紹介をもとにふりかえりを行った結果をまとめます。

ふりかえり

これまで、北欧の義務教育におけるICTの活用アクティブラーニングについて、計4事例を見てきた。ここでは、前回の「3.アクティブラーニング実践方法とは?」でも触れた「ふりかえり」として、筆者自身が学んだことについてまとめる。

本稿は事例数が非常に少ないため、ここで「これが北欧の義務教育である」と断定するには、あまりに乱暴すぎる。ただし、幾つかの特徴を抽出することはできる。

●「子どもが何を学ぶか」という学校教育の本質を第一に優先している
● 全ての学校や教員が同一の教授法や教材を使用するのではなく、生徒に適した選択がなされている
● 生徒と教員だけで構成される学校内で教育を完結するのではなく、家庭や自治体、企業を含む社会の参加を積極的に促している
● 教員にも働き方の自由がある
● 生徒に「正しさ」を強要しない

これらの特徴から言えるのは、北欧の社会の特徴である民主主義平等主義フレキシビリティが義務教育の段階から実践されているということだ。子どもであっても、対等に接する文化が根付いている。彼らにも判断能力があることを大人が認め、共に歩む努力をしている。そして、子どもに適切な教育を行うための人材について、適材適所に重点を当てている。例えば、フィンランドの事例で紹介したPhBLの専門家となった教員は、元々公立初等学校の教員を専業としていたが、その後、PhBLを中心に自身のコンサルティング会社を立ち上げ、現在は、パートタイムの教員として公立校で働いている。実際には、彼のようにスムーズに働き方の選択をすることは難しく、学校を選ぶ側、選ばれる側の両者にとって多くの課題や困難があるのだろう。しかし、生徒、教員、親など誰にとっても選択する幅があるということは、税金であるお金や人材などリソースの使い方に工夫がなされていると言える。

生き方、働き方、学び方の全てにおいて多様化、多目的化の進む日本において、日本の「民主主義」、「平等」と「フレキシビリティ」の意味と実現方法について大幅に見直す時期に来ているのではないだろうか。そこにはリソースの使い方システムのあり方の定義と仕組みを再構築することも含まれる。

リソースの使い方を考える

最後に、リソースの使い方の一例として、フィンランドの無料給食について紹介する(図1)。
日本では、子どもの貧困対策が問題となっており、十分な栄養をとれない子供たちが存在している。既に政策が立案[1]され、様々な組織や個人による対策[2]がなされているが、社会として税金を使った課題解決が必要な問題だ。

食べることは生きることであり、生きなければ学べない。フィンランドでは、1948年より、子供たちが学校に通うことを奨励し、学習することを助けるため、全ての学校の給食が無料となった。就学前教育開始にあたる6歳から9年生が完了する16歳までの全ての子供たちが対象となる。この無料給食の提供は全自治体が行い、各自治体は、その内容を監視し評価することを法律により義務付けられている[3]。この無料給食により、家庭科学習と同様、バランスのとれた食事の大切さを生徒に教えることに役立っている[4]。給食提供は、複数の企業が行っている。

給食無料

図1. 典型的なフィンランドの学校給食[5]

義務教育において、子どもにとって何が必要かを考えた時、最適な人・モノ・カネの使い方が見えてくる。国だけではなく、自治体、企業、家庭、そして我々個人のできることとするべきことは沢山ある。そして実現のためには、課題を伝えるべきところに伝え、納税をはじめとする国民の義務を果たし、政治に参加する権利を行使することは欠かせない。

まとめ

北欧デンマーク、フィンランド、エストニアの3国から少数であるが、義務教育における活動事例を紹介した。北欧と1つにまとめられることが多い複数の国々には違いがあるものの、子どもの意思を尊重する姿勢、何を学ぶかという教育の軸、選択肢の多さとリソースの最適な配分努力という共通の特徴がみられた。

北欧の教育方針が評価されることは多いが、正直な所、国際学力テストPISAにおいて日本の方がランキングは高い科目が多く、基礎学力は日本の子供たちの方が身についているといえる[6]。しかし、高等教育へ進み、コミュニケーション能力、ICT利用能力、自己学習能力をはじめとする21世紀型スキルを身に着けている子供たちは、北欧の方が多いと感じる。
それぞれの国の強みや良さがあり、選択し実践するのは個人の自由だと筆者は考えている

どのような状況でも、未来のために子供たちにどのような指針や選択肢を作るのかは、我々大人の役目であることは変わりない。今回紹介させていただいた事例が、何らかのお役に立てることを願っている。

4回にわたる連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。
北欧研究所のFacebooktwitterなどから、ご意見・ご感想をいただけると幸いです。

参考文献

[1] 文部科学省. 子供の貧困対策の推進に係る取組. https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/kodomo-hinkontaisaku/1369104.htm
[2] こども宅食応援団. https://hiromare-takushoku.jp/
[3] Finnish National Board of Education. School meals in Finland - Investment in learning. https://www.oph.fi/sites/default/files/documents/school_meals_in_finland.pdf
[4] JAMK University of Applied Sciences. Finnish School Meal System. https://www.jamk.fi/en/Education/global-education-services/finnishschoolmealsystem/
[5] Ministry for Foreign Affairs of Finland &. Finnish National Agency for Education. (2019). School Meals for All School feeding: investment in effective learning – Case Finland. https://www.oph.fi/sites/default/files/documents/um_casestudyfinland_schoolfeeding_june2019_netti.pdf
[6] OECD. (2019). PISA 2018 Insights and interpretations. https://www.oecd.org/pisa/PISA%202018%20Insights%20and%20Interpretations%20FINAL%20PDF.pdf

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