禍福の使者 ショートショート小説3
荒野の広がる星で、少年がさまよっていた。足がジリジリとしていて皮はむき出しになり、心臓がバクバクするのに一向に息が切れない。
少年は記憶が曖昧で、何を思い出そうとしているのかもよくわからない。と言うより、自分が向かう先についての手がかりだと思うのだが、今は考えるより足を動かしたほうが良い、と思っている。
少年はふと不思議に思った。
「そういえば、どうして僕の他に誰もいないんだろう」
辺りを見回すと、荒野の先は青い空が広がり、その地平上に瓦解して歪められた鉄細工の塊が散在している。足下から遙か向こうにかけて共通して言えるのは、鉄細工に不釣り合いな草や蔓、自生したと思われる木々が生い茂っている。
誰かが住んでいた形跡の割に誰の気配も無いということが、少年をより不安にさせた。
夜を何度も超えた。
少年がたどり着いた、かつて人が存在したであろう場所。今は鉄や石の塊が大きく壊れ、点在しているばかりだ。
少年は適当な場所に腰を下ろし、それからふと、夜の空間に光を灯している大きな機械を見つけた。
近づくと、その機械は夜空に向けて光を放ち、機体には何やら文字が書かれている。少年は文字が読めなかったが、側に置いてあった紙切れの集まりを見て、「ははあ、これがこの機械のことを教えているんだな」と解釈した。
夜が駆けた。
少年は機械と紙の束を交互に見続け、機械をいじり、紙の束と機体に添えられた文字を多少ながら読めるようになった。
機体には、
「我、○○ノ星ノ使イ。応答求ム」
と書かれているとわかった。すると少年は機体にあるボードで、覚えたばかりの言葉を打ち付けるのだ。
「コノ星、恐ラク絶滅。人類、ナシ」
すると機体から光が発射され、さらに数度の夜を越えると、機体に新たな文字が刻まれる。
「返答感謝。コレヨリ向ウ」
少年はここで飛び上がった。胸がワクワクとし、自分の孤独を終わらせる存在が現われたのだ。もう自分は、一人で孤独をさまよう旅をしなくていいのだ。
少年はもう一度鉄細工に腰をかけた。何気なく地面を見ていると、人間の骨が朽ちている。
「変なの」
少年が言うと、夜空の向こうから船が降りてくる。
少年は人間の骨と宇宙の船を交互に見やった。
そして宇宙船から、光線が照射された。少年は懐かしくなって恍惚の表情を向けながら光線を浴びた。そして自分がなんのために歩き続けてきたのかを思い出した。
その後、この星から生命は消えた。
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