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日本でアメリカの近代史(現代史)を観客に伝える難しさ(もはや限界か?)ミュージカル『VIOLET』


作り手側の問題なのか?観客側の問題なのか?『カムフロムアウェイ』で感じた違和感と同じ感触を得た

1964年はアメリカで”公民権法”が成立した年。(人種差別を禁ずる法律)但し法律が出来たからといって”人種差別”が消えるわけもないマイノリティにとっては息詰まるような時代。また作品の中でモンティが行ってしまったベトナム戦争もミュージカルの観客が大大大好きな”ミス・サイゴン”のお話のずっと前で、実はこの年から始まったアメリカのベトナム戦争は泥沼化長期化していった20世紀の悲劇の始まりだった。
つまり、モンティは『ベトナムへは超優秀な選ばれた兵士たち→グリーンベレーしか行けないんだ!』と胸を張っていたけれど、ベトナムには行かないと言ったフリックも100%、US Armyであればあの後ベトナム戦争には行ったであろうと歴史を知って居れば容易に予想される。
もしVIOLETがフリックと結婚したとしてもあの時代の白人と黒人の結婚は誰からも祝福されなかったであろうし、アメリカもVIOLETも前途多難でしか無いのだ。決して”顔に傷があって醜くても胸を張って堂々と生きていく強い女”の話では無い。
どちらかというと作品の終わりは救いようの無い話であるので私は暗澹たる気持ちになって劇場を後にした

ところがCFAも観客は「なんて心温まるお話!」「泣ける!」と大絶賛し、VIOLETに関してはキャストファンが「軍服カッコイイ♡」とキャーキャー言っていたり…という感想しか見かけない

ミュージカルにしてしまった時点でアメリカの黒歴史は矮小化されて、”推しがカッコイイー””歌上手いー”で日本では終わってしまうことの怖さを感じる

遠い他国の悲劇が大好物の日本人は多いと感じる

レミゼしかり、ミスサイゴンしかり。CFAは「ガンダーの人たちの温かさが素晴らしい」賛歌になっていてそれはそれで間違ってはいないが、
それではもしあなたがあそこに居たら同じ行動を本当に取れますか?その意思と勇気が持てますか?という問いは浮かばないのだろうか?
(私はムリかもしれないと思いました。フリーズして何も出来ないかもしれないと。)

バイオレット役の三浦透子さんは全てにおいてワンランク上だった

実は今回の「バイオレット」は先行抽選の時は観に行く予定が立たず、2週間くらい前に都合がついたので普通に一般販売で買って観に行った。今日も月曜日のマチネ公演だからなのか後方席や2階席は空席が目立ったが、三浦透子さんを舞台で観たかったのでこの日にして大正解だった。

映像では既に芝居力に定評がある三浦さん。歌がとにかく素晴らしかった。
地声~裏声も自由自在でなによりもブルース調の楽曲の歌声が本当に圧倒的だった。ミュージカルファンはいわゆるタカラヅカ出身の”娘役歌唱”を”歌が上手い”と思っている人たちが多いが、アレとは全く違う。
ある意味他のキャストが全員霞む。

ミュージカル『VIOLET』は2020年のコロナ禍の緊急事態宣言により、たった3日間しか上演出来なかった過去がある。
その時のフリックが吉原光男さん、モンティが成河さん。
正直に言うとそのフリックとモンティで、三浦透子さんのバイオレットで、観たかった。



ミュージカル「 #VIOLET
2024年4月7日(日)~2024年4月21日(日)
東京都 東京芸術劇場 #プレイハウス

2024年4月27日(土)~4月29日(月・祝)
大阪府 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

2024年5月4日(土)
福岡県 キャナルシティ劇場

2024年5月10日(金)~2024年5月11日(土)
宮城県 電力ホール

スタッフ
音楽:ジニーン・テソーリ
脚本・歌詞:ブライアン・クロウリー
原作:ドリス・ベッツ「The Ugliest Pilgrim」
演出: #藤田俊太郎

出演
ヴァイオレット: #三浦透子  / 屋比久知奈
フリック: #東啓介
モンティ: #立石俊樹
ミュージックホール・ シンガー: #sara
ヴァージル:若林星弥
リロイ:森山大輔
ルーラ:谷口ゆうな
老婦人: #樹里咲穂
伝道師: #原田優一
父親:spi
ヤングヴァイオレット:生田志守葉 /  #嘉村咲良  / 水谷優月

スウィング
木暮真一郎 / 伊宮理恵

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