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【再掲】おとんとおかんと、そして彼女

実家には現在十三歳になるミニチュアダックスフントが居る。
名前は「みるきー」。
クリーム色のふわふわとした毛に覆われた、可愛いツンデレなレディだ。
これは彼女と私の両親との出会いのお話。

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その時二人は出会った

彼女との出会いは札幌の郊外に在るペットショップ。犬猫だけではなく、魚やエキゾチックアニマルも扱っている割と大きめなお店だった。

犬を飼う準備のために店に赴いた母と私は、小型犬を迎えるための道具を揃え、生体も見てみようと子犬達がいるコーナーに立ち寄った。
母は「シーズーはいないのねぇ」といいつつウロウロしていたものの、二匹のミニチュアダックスフントが気になるのかチラチラと見ている。 めざとい店員は直ぐさま察して母に声を掛けてきた。

「よろしければ抱っこしてみますか?」

これはマズいパターンだ。
ペットショップ店員の高度な戦略!
抱っこした時点で終わる奴だ。そもそもこの店員、道具を揃えてた事を知っている!
だが残念なことに、言ったところで人に耳を貸すような母では無いから見守るしかない。

店員が連れてきたのは母が気にしていた白味の強い色の子犬ではなく、全身クリームで背中に黒毛が混じった少し変わった色合いの子。その上少しお値段がお高め。
ケージから出された仔犬はすごぶる上機嫌。
母が恐る恐る両手で抱き上げると、「ぺろり」と彼女の鼻頭を小さな舌で舐めた。

「おかあさん、この子連れてかえるぅ」

あーあ…

ちゃっかり生体分の資金も持参していた母、おそるべし。あとはもう御察しの通りだ。

二匹のミニチュアダックスフントは姉妹で、前日店に入ってきたばかりだった。それまでは店員が預かって面倒を見ていたらしい。
残った子がその後どうなったのかは分からない。良い人に迎えられた事を祈るばかりだ。

父、彼女と対面する

子供が進学のために家を出て、隣の家に住んでいた祖父母も亡くなり、父が仕事に出ている間母はポツンと広い家に一人過ごす日々。
元々大家族で育ち一人暮らしを知らぬま家庭に入った彼女にとって、この状況は耐え難いものだったようだ。

その上父の怪我による入院が重なった。

なるべく仕事休みに顔を出していたものの、70キロ離れた街に毎週帰るのは余りにも厳しかった。電車代とて馬鹿にならない。だから私もの母の暴挙を止めることはしなかった。止めるだけ無駄なことも知っていたから。

しばらくは父に内緒で飼っていたが、一時退院を目前に迎え母は叔父夫婦を味方に付け同行させた上で、犬を迎えたことを父に伝えたのである。なんという策士。

犬に限らず生き物を飼うことに否定的な父は案の定激怒した。子供のころ動物に囲まれて生きていた父だからこそ、母の無責任とも言える行動が許せなかったらしい。
きちんと母が面倒を見ることを条件に、二人は三十分程後に和解した。

父の一時退院の日、母は再び自宅で説教を受けた。そして、ひとしきり説教をしたあと父は母に尋ねた。

「それでその犬は何処にいるんだ?」

おや、父が何かそわそわしているぞ。
ケージに案内すると、彼女が興味深げに目の前の父をじっと見つめる。そうするのが当然とばかりに仰向けになって、その柔らかで薄い毛に覆われたお腹を無防備に晒した。

「おー、いぬいぬ」

一度も見たことのないニコニコした顔で撫でくりまわす父。さっきまでの説教は一体なんだったんだ。なんの茶番だ。
ハラハラと父と母の様子を見ていた私が阿呆じゃないか。

「いぬじゃないよ、みるきーだよ」
「おーう、みるきー」

彼女が嫌悪されるよりはマシかと思い、私は父の姿を生温かい目で見つめていた。

そして現在

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あれから十三年経ち、彼女はすっかり歳をとってしまった。
目は白内障でほとんど見えず、漏らすことも増えたためオムツを常用している。大好きだった出窓から外を眺める事も要求しなくなった。

相変わらず父が大好きで、隙あらばぺろぺろと小さな舌で舐めまわそうとする。父も「やめろって、みるきー」とか言いながら、彼女に好き放題にさせている。
父も最近ではスマホで動画を撮影する事を覚え、LINEを通じてその動画を送ってくる事もある。

北海道を離れた今となっては、次に帰郷した時にも会える事を祈るばかりだ。

彼女は家族の一員である。

だからと言って父よ、人間たる末妹とみるきーの名前を間違えるのはやめてくれないか。
そして末妹よ、それに対して「わん!」とやけくそ気味に応じるのはどうかと思うよ。

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まだこの頃は目が見えていたんだよなあ。今はもう白内障で匂いに頼って移動している。次に会った時、私の匂いを覚えているといいな。

(この記事は過去のものを一部追記したものです)

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